作物の鮮度を20日以上延長する生物学的コーティングを開発:AgroSustain

今回は、AgroSustain社による、青果物の新たな保存技術について紹介します。この新技術は、果実や野菜の保存時に問題となる、真菌病原体(かび)の発生を抑制し、日持ちの延長を可能にする可能性があります。

AgroSustain社の概要

AgroSustain社は、スイス・Vaudにおいて、2017年に設立された企業です。Jean-Pascal Aribot氏、Olga Dubey氏、Sylvain Dubey氏により設立された新興企業です。化学物質に頼らない、100%生物由来の新たな殺菌剤を開発しています。

AgroSustain社の事業と慣行法との比較

(慣行法)

青果物収穫後、店頭に並ぶまでのサプライチェーンにおいて、青果物の貯蔵寿命を延長することは重要な課題です。一般に、青果物の貯蔵寿命を縮める原因として、青果物自体の代謝によるものと、微生物(かび)が原因になるものの、大きく2つに分けられます。

まず、青果物自体の代謝による例として、青果物の呼吸作用により、乾燥や追熟(腐敗)が進行、品質の低下が問題となります。このことに対し、一般的には、MA貯蔵と呼ばれる方法で代謝(呼吸)を抑える工夫がなされます。MA貯蔵とは、青果物をプラスチックフィルムで密閉し、フィルム内部の酸素濃度を低下、二酸化炭素濃度を上昇させることで、青果物の呼吸を抑制し、保存期間を延長させる方法です。さらに、フィルムで覆っていることから、青果物からの蒸散を抑えることも可能であり、乾燥を防ぐ効果もあります。なお、青果物の日持ちを延長する技術としてMA貯蔵のほかにも、CA貯蔵(人工的に、酸素濃度や二酸化炭素濃度を調整する)、冷蔵(低温条件にし、青果物の代謝を抑制する)およびエチレン阻害剤(エチレンによる青果物老化を抑制する)による日持ちの延長が試みられています。

一方、微生物(かび)に対しては、防かび剤等を使用することで対応するのが一般的です。例えば、アメリカでは、かんきつ類にイマザリルと呼ばれる防かび剤を使用しています。なお、イマザリルは人体に対し悪影響があることが危惧されており、肝臓や腎臓を肥大させたり、目や皮膚に有害とのデータのある殺菌剤です(2)。このように、農薬を使用する場合には、農薬の残留性や人体への影響を考慮する必要があります。

(AgroSustain社の事業と、その優位点)

このように、化学農薬は、人体への影響も指摘されています。そこで、AgroSustain社では、植物由来の抗真菌化合物であるAgroshelf+を開発し、野菜や果物の保存期間を延長することを可能としました(3)。AgroSustain社の製品は、収穫直後に青果物に塗布され、輸送中の成熟プロセスや水の損失を遅らせ、青果物の品質を保つことを可能としました。さらに、新たに開発した抗真菌化合物の効果により、腐敗を遅らせることも可能となりました(4)。化学物質ではなく、植物由来で生分解性の特徴を有することから、人体への影響の心配も少なく、安全性と殺菌能力の両方を追求することが可能となりました。このため、健康志向の消費者に向けた商品への使用が想定されます。

コメント

微生物による青果物の腐敗を防止するために、化学殺菌剤は有用です。しかしながら、EU諸国をはじめ諸外国では、これら化学殺菌剤の使用が禁止される事例も多くなってきています。しかし、化学殺菌剤以外の代替手段の開発は途上であり、いまだ化学殺菌剤が多用されています。一方、青果物を輸出する際は、輸出相手国における農薬等の使用基準に適合するように、適宜使用する薬剤を変更する必要があり、農産品の輸出が伸びない一因にもなっています。今回のAgroSustain社の新たな抗菌剤は、化学由来ではなく植物由来の製品であることから、消費者や各国政府の農薬等の使用基準作成時にも受け入れやすい可能性が高く、今後新たな、青果物保存手段として、期待の持てる新技術であると考えられます。

 参考サイト