Phylagen Originとは?微生物の遺伝情報を利用したサプライチェーン追跡技術を解説

2000年代初頭に発生したBSE問題をきっかけに、食品のトレーサビリティを確保するための法整備が各国で進みました。Grandview Researchの調査によれば、トレーサビリティ技術の世界市場は2019年時点で22億ドルの規模があり、2020年~2027年の間に年間平均18.5%の成長率で拡大してゆくと考えられています。

今後ますます成長が期待されるトレーサビリティ技術の分野において、DNA解析技術の強みを前面に押し出したサービスがPhylagen Originです。この技術は、製品表面に付着した微生物を拭き取り検査するだけで、サプライチェーンを遡及できるというものです。

Phylagen Originの原理

食品や工業製品の表面には、輸送・加工される過程で空気中の細菌やウイルスなどが付着します。これらの微生物の種類や量、組み合わせは土地や施設によって異なるため、サプライチェーンが異なる製品は、表面に付着している微生物のパターンに違いが見られます。Phylagen Originはこのような微生物の多様性を利用し、製品表面に付着した微生物の種類を特定することでサプライチェーンを調査するサービスです。

靴についた微生物などをPhylagen社の技術で調べれば、どの工場で作られどのように運ばれたか判明する(公式サイト動画より)

微生物の種類はDNAの塩基配列をもとに特定します。様々な地域に分布する微生物のDNA塩基配列が既にデータベース化されており、製品表面から採取されたDNA塩基配列の種類や構成比を照合することで、製品が生産・輸送された経路を推定できます。

Phylagen Originの強み

  • 製品表面の微生物を拭き取り検査するだけでサプライチェーンを遡及できるため、ロット印字や識別バーコードがない製品も調査できます。
  • 表面の微生物さえ採取できれば良いので、食品に限らず繊維や金属加工品、医薬品への応用が可能です。
  • DNA塩基配列の解読技術は年々高速化・低価格化しており、微生物のデータベースも充実してゆくと考えられます。よって、将来的には導入コストの低下と正確性の向上が期待できるでしょう。

Phylagen Originの今後の課題

  • わずかな地形の違いや季節の変化によっても微生物の種類は変わります。そのため、生産地を特定できるほどの精度を実現するには、今後も微生物のデータベースを拡充していく必要があります。
  • 膨大なDNA塩基配列の情報を一元管理するために、情報処理技術の性能向上が欠かせません。とても人力で照合できる情報量ではないので、地域ごと・製品ごとの微生物パターンをAIに学習させる必要があるでしょう。

データベース拡充と照合の正確性が今後の課題ですが、これらが改善されるにつれトレーサビリティの省力化が進むでしょう。様々なベンチャーキャピタルがPhylagen Originの将来性に期待し、提供者であるPhylagenに投資しています。

具体的な活用のイメージ

実在の事例ではありませんが、次のような場面が考えられます。

ある食品加工会社A社では、原料となる果実を特定の産地のみから受け入れることにしています。この果実は別の中間業者によって集荷・発送されていますが、過去には誤って別産地のものがA社向けに発送されていたトラブルもありました。

そこでA社は原料果実のトレーサビリティ確保のため、Phylagen Originで果実表面の微生物プロファイルを定期的に調査することにしました。もし別産地の果実が誤って納入されていれば、普段のトレンドとは異なる微生物プロファイルが検出されると考えられます。この手法により、A社は外観だけでは困難だった果実の産地識別を、より高精度に実施できるようになりました。

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