デンマークのYngvi Bio(イングヴィ・バイオ)は、特定の害虫だけを狙うタンパク質系バイオ農薬を開発しているスタートアップです。最初の製品はコガネムシ類の幼虫(ホワイトグラブ)向けの種子処理剤で、ニュージーランドで2029年第1四半期の上市を目指しています。
会社基本情報
- 社名: Yngvi Bio
- 国: デンマーク
- 母体: コペンハーゲン大学の研究成果をもとにしたスピンアウト企業
- 共同創業者: Eva Maria Rebrova氏(CEO)、Kenneth Veland Halberg氏(CSO)
- 支援機関: BioInnovation Institute(BII)
CEOのRebrova氏はタンパク質研究者で、同社の基本技術の特許を取得した本人です。CSOのHalberg氏はコペンハーゲン大学生物学科の教授で、甲虫を中心に昆虫の遺伝学や分子生物学を研究してきました。
コペンハーゲン大学によると、2人はデンマークの大学発ベンチャー支援制度「Spin-outs Denmark」から18か月分の資金を受けました。その後、BIIのプログラムを通じて会社を正式に立ち上げています。AgTechNavigatorは2026年10月の記事で、BIIが同社に対し1,000万デンマーク・クローネの追加支援を発表する準備を進めていると報じました。
事業概要
Yngvi Bioは、土壌細菌が自然に作るタンパク質の容器を改良し、農薬成分の運搬役として使います。容器の内側には殺虫成分を積み込みます。外側には特定の昆虫の細胞だけに結合する「脚」にあたる部位を付けます。
同社は脚の部位を付け替え、積み込む成分を変えることで、同じ基盤技術を別の害虫に展開できると説明しています。最初の対象はホワイトグラブで、牧草や作物の根を食害するコガネムシ類の幼虫の総称です。Halberg氏はこのグループに約15,000種が含まれると見ています。
製品は種子処理剤として開発中です。デンマークで行った小規模試験では、提携先企業の種子に処理剤を問題なく使えることを確認しました。研究室では数十種類の試作品を作り、有望な効果を得ているといいます。
課題と解決策
従来の化学殺虫剤の多くは神経毒性を持ち、対象外の昆虫にも作用します。施設園芸や露地栽培で天敵や受粉昆虫を使う農家にとって、害虫と一緒に有用昆虫まで減ることは防除計画上の問題です。同じ系統の薬剤を使い続けると、害虫が抵抗性を獲得する問題もあります。
Yngvi Bioのタンパク質は、標的の昆虫の細胞に結合したときだけ作用するよう設計されています。同社はこの仕組みにより、人や水系、環境へのリスクを従来剤より下げられると主張しています。Rebrova氏は「昆虫がこの仕組みに抵抗性を持つのは、はるかに難しい」と述べています。
ニュージーランドでは、ホワイトグラブ防除に使われてきた主要な化学剤2種類が2028年までに使用禁止となる予定です。現地の農家は代わりの防除手段を必要としており、同社はこの需要を最初の市場に選びました。
ビジネスモデル
Yngvi Bioは自社で販売網を持たず、大手の作物保護企業と提携して製品を届ける方針です。ニュージーランドでは、該当市場で80%のシェアを持つ企業と提携しています。
長期的には、あらゆる作物のあらゆる害虫に対応できる基盤技術にすることを目標にしています。最終的には畑作物も対象にする計画ですが、そのためには製造コストを下げる必要があると同社は認めています。
今後の計画
同社は次の春にニュージーランドで3年間の圃場試験を始める予定です。技術の出発点がニュージーランドにあり、当局の審査姿勢も前向きと見ているため、最初の登録先に同国を選びました。上市目標は2029年第1四半期です。
欧州での登録は時間がかかる見込みです。Rebrova氏は現在の審査期間を「6〜8年」と見積もっています。創業者の2人は、同じ技術を細菌や糸状菌による病害、さらに人の疾患に応用できる可能性にも触れています。
コメント
日本でもコガネムシ類の幼虫は、芝地やサツマイモ、ラッカセイ、牧草地で根や塊根を食害する害虫です。土の中にいる幼虫は薬剤が届きにくく、種子処理で防除できれば作業の負担は減ります。
天敵を放飼している施設園芸の農家にとっては、標的以外の昆虫に作用しない殺虫剤が増えると、防除計画を立てやすくなります。一方で、Yngvi Bioの製品はまだ圃場試験前の段階です。日本で使えるようになるには、国内での農薬登録が別に必要になります。まずはニュージーランドの圃場試験の結果で、実際の防除効果と製造コストがどこまで実用水準に近づくかを確認したいところです。