ニンニクが農薬になる。センチュウを寄せ付けないEcospray の製品を紹介します

土壌中に多数存在し、農作物に被害を与えるセンチュウ。イギリスの企業 Ecospray では、ニンニク抽出物を原料とする対センチュウ農薬を開発しています。センチュウだけでなく昆虫や真菌にも有効であり、しかも抵抗性が出にくいという大きなメリットがあります。本記事では Ecospray の技術概要を解説します。

Ecospray 基本情報

住所:6c Park Farm Business Centre, Fornham St Genevieve, Bury St Edmunds, Suffolk, IP28 6TS, UK

COO:Robert Lidstone

設立年:1998年

従業員数:2〜10人

甚大な農業被害を与えるセンチュウ

センチュウは土壌や水の中に広く存在する、微細な紐状の動物です。肉眼では見えませんが、両手ですくった土の中に約2万匹のセンチュウがいます。

キタネグサレセンチュウ、ダイズシストセンチュウなど一部の種類は、作物から養分を奪う寄生生活を営みます。その結果、作物の生育不良や病気、外観の悪化などを引き起こすため、センチュウの分布密度が高い圃場では対策が必要です。Society of nematology(2015)によると、センチュウによる農業被害額は、世界で毎年1000億ドル発生しており、センチュウ防除はそれだけ規模のある市場です。

ニンニクでセンチュウを退治する Ecospray の技術

有効成分はポリスルフィド

Ecospray が販売している農薬の有効成分は、ニンニク抽出物から製造したポリスルフィドという物質です。

ニンニクには、アリインという硫黄を含む物質と、アリナーゼという酵素が含まれています。ニンニクに物理的なストレスを与えると、アリインがアリナーゼに触媒されて、アリシンという別の物質に変化します。このアリシンを加熱することでできる重合物質が、ポリスルフィドと総称されます。

ポリスルフィドが動物・菌類の細胞を破壊

動物や菌類の細胞内には、低分子チオールと総称される硫黄を含む物質が存在します。ポリスルフィドが細胞内に侵入すると、この低分子チオールが破壊され、さらに破壊によって発生した硫黄を含む分子が、様々な化学反応を連鎖的に引き起こします。これらの一連の反応により、細胞を死に至らしめるというのがポリスルフィドの作用の仕組みです。

効果の検証には大学も関与

ニンニクを農薬代わりに撒くというテクニックは、もともとアメリカのゴルフ場でおこなわれていました。Ecospray はUniversity of East Anglia との共同研究により、ニンニクに含まれる有効成分を特定し製造方法を確立させました。

実績と今後の改良

ニンニクから作られた Ecospray の製品は、センチュウだけでなく昆虫、真菌に対する農薬としても登録されています。さらに農業だけでなく、フットボールのフィールドやゴルフコースでの芝生保護にも使用されています。今後は有効性を広げ、より多くの土壌病害に対して農薬登録を受ける方針です。

2021年現在、Ecospray はヨーロッパやアフリカを中心に15か国へ販路を展開しており、さらに9か国への拡大も検討しています。

Ecospray 製品の長所

対象生物が多様

対象病害が低分子チオールの破壊はあらゆる動物・真菌の細胞で起こるため、さまざまな病害虫に対し効果が期待できます。実際に、Ecospray の農薬はセンチュウだけでなく真菌、昆虫の卵および幼虫に対しても有効であることが明らかになりました。

抵抗性が発生しにくい

農薬による病害虫防除では、抵抗性の発生が問題になります。

たとえば、昆虫の生命維持に必要なある酵素をターゲットとして、その活性を阻害することで効果を発揮する殺虫剤があるとします。この場合、もし昆虫の一部の個体で、ターゲット酵素の形が通常とわずかに異なり農薬が作用しないものがいれば、それらの個体は駆除されず、子孫を残して圃場内で蔓延してしまいます。これが抵抗性個体が広がる基本的な仕組みであり、特に単独の作用機序しか持たない農薬では抵抗性個体が現れやすいと言われています。

Ecospray の農薬の場合、細胞に取り込まれると多様な化学反応が発生し、様々なプロセスで細胞が破壊されます。そのため作用機序が複雑すぎるため、抵抗性が発生しにくくなります。

Ecospray の製品紹介

畑には Nemguard 、芝生には EGC

Ecospray では、圃場散布用の製品 Nemguard と芝生用の製品 EGC を発売しています。いずれもセンチュウ、昆虫、真菌に対し有効ですが、剤形や対象作物が異なります。

  • Nemguard DE:顆粒タイプ。対象作物はニンジン、レタス、果菜類など。
  • Nemguard SC:乳剤タイプ。対象作物はトマト、ナス、スイカ、カボチャなど。
  • Nemguard PCN:顆粒タイプ。対象作物はジャガイモ。
  • EGC:芝生用グレード。液体タイプ(EGC Liquid)と顆粒タイプ(EGC Granules)から選択可能。

HPのフォームから連絡可能。

Ecospray はアフリカ、ヨーロッパ、オーストラリア、北米などに代理店を構えていますが、日本には代理店がありません。そのため日本で購入を検討する場合は、代理店経由ではなくホームページのフォームから直接連絡を取る方が良いでしょう。

URL

Ecospray https://ecospray.com

Ecospray | Linkedin https://www.linkedin.com/company/ecospray-ltd/about/