ケイ酸・可溶性シリカの効果 実証事例集|作物別データと品目差を出典つきで【2026年版】

ケイ酸(珪酸)・可溶性シリカを作物に使うと、どれだけ効果があるのでしょうか。ケイ酸はイネで倒伏や病害に効くことが古くから知られていますが、作物によって効き方が大きく違います。このページはメタ分析・査読論文・日本の公的試験を横断して、「作物ごとの効果と、その根拠となる出典」を一覧できる実証事例集です。

このページの方針:対照区つきの試験・メタ分析・査読論文・公的試験だけを採用しています。メーカーの宣伝は掲載していません。効果が出なかった・条件に依存した事例も同じ基準で載せています。

はじめに:作物によって効き方が全く違う理由

ケイ酸の効果を理解する鍵は、作物がケイ酸をどれだけ体に溜め込むか(集積するか)です。これが作物ごとの効果の差を生みます。

  • イネは最強の集積植物:茎葉の乾物の最大約10%をケイ酸が占めます。だから倒伏軽減・いもち病抵抗で効果が明確です。
  • キュウリは中程度、トマトはほとんど溜めない(排除型):作物のSiO₂含有率はイネ11.7%、キュウリ4.0%、トマト0.47%と桁違い。トマトや葉物では効果が限定的・不安定になりやすいのはこのためです。
  • 効きすぎ・効かなさは条件次第:後述のように、うどんこ病は高温だと効かない、いもち病は品種によって効果が違う、といった条件依存があります。

作物間のケイ酸含有率の出典:三枝, 化学と生物, 2000

全体像:メタ分析

  • ストレス下で作物収量+24%・バイオマス+35%(メタ分析)【メタ分析】…生物的・非生物的ストレス下でのケイ素施用の効果を統合。非生物ストレスは中程度で効果が最大になるベル型(2018年)。出典(Agronomy for Sustainable Development, 2018)

イネ(ケイ酸が最も効く作物)

  • いもち病はイネ体のケイ酸含有率が高いほど発病が少ない【公的】…北海道立中央農業試験場。ケイ酸供給力の異なる水田での圃場試験で、イネ体のSiO₂含有率と葉いもち・穂いもちの発病度に、2品種×2カ年すべてで有意な負の相関。窒素より影響が大きい。副次的に玄米タンパクが下がり食味も向上(1997年)。出典(北日本病害虫研究報告)
  • 幼穂形成期のケイ酸追肥で収量+4〜6%(全層施用より効率的)【公的】…山形県農業総合研究センター・山形大学。ケイ酸資材を幼穂形成期に施用すると、ケイ酸1gあたりの増収効率が全層施用の3〜4倍。籾数増が要因(2009年)。出典(日本土壌肥料学雑誌)
  • 【条件依存】いもち病抵抗はケイ酸で下がるが、効果は感受性品種で顕著・抵抗性品種ではほぼ無効【査読論文】…IRRI系。ケイ酸はいもち病を直線的に減らすが、効果が出るのは感受性品種で、元々抵抗性のある品種ではほとんど効かない。品種抵抗性を「補完」する使い方(2022年)。出典(Insects, 2022)
  • 実務指標:茎葉のケイ酸が11%以下の水田では施用で増収が見込める【解説】…日本のケイ酸診断の目安。灌漑水のケイ酸濃度は近年低下傾向にあり、施用の意義が増している(三枝, 2000)。出典(化学と生物)
  • 【国内・公設試】灌漑水のケイ酸を0→20ppmにすると精玄米重が対照比+9%(20ppm超は頭打ち)【公的】…兵庫県立農林水産技術総合センター。ワグネルポットで灌漑水のケイ酸濃度を0〜40ppmに調整すると、精玄米重は0ppm区を100%として20ppm区で109%、40ppm区で107%。有効茎歩合・一穂籾数・登熟歩合も20ppmまで比例して向上し、40ppmではやや低下。灌漑水由来ケイ酸の稲吸収への寄与率は最大23%。過剰域では効果が頭打ち・微減になることを国内データで示した事例です(2013年報告)。出典(兵庫県立農林水産技術総合センター研究報告 農業編, 2013)
  • 【国内・公設試】茎葉ケイ酸11%以下の圃場では約8割で施用効果あり、県内水田の約半数が該当【公的】…茨城県農業総合センター農業研究所。成熟期の茎葉ケイ酸含有率が11%以下の圃場では、ケイ酸施用により病害虫被害軽減または収量向上が認められる確率が約80%(農業技術研究所報告1958年を引用)。県内代表水田の茎葉ケイ酸含有率は平均10.6%(最大14.1%・最小6.8%)で、約半数が11%未満と施用効果が見込める土壌が多い実態を確認。可給態ケイ酸の新評価法を要否判定基準に策定しました(2016年成果)。出典(茨城県農業総合センター 成果情報, 2016)

イネのケイ酸によるカドミウム低減

ケイ酸は収量や病害だけでなく、玄米中のカドミウム(Cd)などの重金属吸収を抑える用途でも研究が進んでいます。食味とは別軸の、コメの安全性に関わる切り口です。

  • 二酸化ケイ素の基肥施用で玄米カドミウムが対照比−20〜24%、精米で−31%【査読論文】…四川農業大学 水稲研究所(中国)。二酸化ケイ素(SiO₂)を土壌基肥として0〜60mg/kg施用したポット試験で、玄米Cdは対照比で30mg/kg区−20.6%・60mg/kg区−24.3%、精米Cdは30・60mg/kg区とも−31.3%低下。30mg/kgはセレン富化系統でより効果的でした(2023年)。出典(Comparative Responses of Silicon…, 2023)
  • ケイ酸はカドミウム輸送体遺伝子(OsNramp5・OsHMA2)の発現を抑える【機構】【査読論文】…中国科学院南京土壌研究所・岡山大学(日本)。水耕液にケイ酸1mMを添加すると7日で茎葉・根のCd濃度が野生型で有意に低下(〜2mMまでケイ酸濃度依存)。機構は、Cd取込み輸送体OsNramp5と根から地上部への転流輸送体OsHMA2の発現をケイ酸がダウンレギュレートするため。地上部への高いケイ酸蓄積が必要で、単純な細胞壁への吸着とは別の仕組みです(機構解明の水耕試験のため、圃場の収量データではない点に注意。2017年)。出典(Journal of Experimental Botany, 2017)

畑作物(コムギ・トウモロコシ・ダイズ)でのケイ酸

イネ以外の畑作物でも、倒伏・乾燥・塩害といったストレス下でケイ酸の効果を検証した圃場試験が増えています。ただし効果は品種・年次・ストレス強度に依存し、無効・逆転する事例もあります。

  • コムギの倒伏抵抗:ナノケイ酸で茎の折れ抵抗が対照比+67%(年により+33%)【査読論文】…青島農業大学(中国)。ナノケイ酸(粒径35nm、Si含量55.29%)を1.8kg/haで土壌施用した圃場試験で、稈基部第2節間の折れ抵抗強度が対照比+67.4%(2021年)/+32.6%(2022年)、倒伏抵抗指数+62.1%/+32.3%、リグニン蓄積+130.7%/+20.3%。倒伏に直結する茎の物理的強度を明確に改善しました(2年圃場、2021・2022年)。出典(Effects of nano silicon fertilizer on… wheat, 2024)
  • コムギの乾燥ストレス:非晶質シリカ施用で干ばつ下の収量が対照比+49%【査読論文】…西シドニー大学Hawkesbury(オーストラリア)。降雨50%減の干ばつ下で、非晶質シリカ(珪藻土、Si換算117kg/ha)を表層すき込みすると、対照5.7t/ha→8.5t/ha(+49%)。葉面の水利用効率も+32〜74%(施用量依存)で、最高施用区は無施用の潅水区並みの収量に達しました。ただし関連続報では効果は品種・ストレス強度に依存すると明記されています(圃場、2022年)。出典(Frontiers in Plant Science, 2022)
  • トウモロコシの塩害:ケイ酸カルシウム葉面散布で子実収量が対照比+36%【査読論文】…キング・アブドゥルアジーズ大学(サウジアラビア)。ケイ酸カルシウムを2kgSi/haで葉面散布した2年圃場で、子実収量が+36.19%(2019-20)/+36.01%(2020-21)、水利用効率も+36%前後に改善。最高塩濃度(3000mg/L NaCl)で生じる−32.53%の減収をケイ酸が緩和しました(点滴灌漑・圃場、2019-2021年。効果率がやや大きめなので割り引いて解釈するのが安全です)。出典(Silicon supplementation… in maize, 2022)
  • ダイズのケイ酸葉面散布:種子収量・タンパク・油分が向上、ただし最適品種は降雨年で入れ替わる【査読論文】…農業科学大学バンガロール校(インド)。ケイ酸(silicic acid)液2〜4mL/Lを播種後21〜51日に2〜3回葉面散布した2年圃場で、種子収量が最大+2,102kg/ha(長期型MAUS-2、2017年)、タンパクが34%→37〜40%台、油分18.69%→20.46%へ向上。ただし乾燥年(2016年、降雨110mm)は短期型、多雨年(2017年、降雨751mm)は長期型が良く、降雨年で最適品種が入れ替わりました。マメ科はケイ酸応答が相対的に弱いとされる中での実測値です(2016・2017年)。出典(Plants/MDPI, 2021)

サトウキビ・その他の集積作物

  • サトウキビでケイ酸カルシウム施用により+20%増収【公的】…米フロリダ大学IFAS。有機質土壌への公的施肥推奨。無施用では相対収量が最大−23%低下。倒伏・病虫害抵抗・蒸散抑制が機構(2011年)。出典(フロリダ大学IFAS)
  • 【条件依存】サトウキビの葉面ケイ酸で糖収量+20%、ただし増収するかは品種次第【査読論文】…ピアウイ連邦大学・サンパウロ州立大学ほか(ブラジル)。ケイ酸ナトリウム40mmol/Lを施用した圃場で、葉面施用×品種RB92579は茎収量+7.0%・可製糖量+9.0%・糖収量+20%。一方、品種RB021754は土壌施用でのみ改善し、品種RB036066は土壌・葉面どちらの施用でも増収しませんでした。集積作物のサトウキビでも品種で効果が割れる典型例です(2019/20収穫期、2023年公表)。出典(Scientific Reports, 2023)

効きにくい・効かない作物(品目差)

  • 【条件依存】キュウリうどんこ病は20℃では効くが25〜30℃では効かず、収量も増えない【査読論文】…ケイ酸カリを養液に添加したが、感受性品種でうどんこ病の低減はわずかで果実収量も増えず「商業的に有用でない」。温度依存が決定的で、高温では抑制効果が有意に低下(2003年)。出典(Plant Disease, 2003)
  • 【非集積型】トマトはケイ酸を溜めにくく効果が限定的【査読論文】…トマトはケイ素の排出輸送体を欠く「排除型」。塩ストレス下の品質改善など一定の効果はあるが、うどんこ病抑制などでは有意な効果が出ない報告もあり、品目差が大きい(2020年)。出典(Biomolecules, 2020)
  • 【条件依存】トマトのうどんこ病はケイ酸カリの葉面散布で発病が約9割減った報告もある【査読論文】…ガーズィオスマンパシャ大学(トルコ)。感受性品種Alida F1の露地栽培で、ケイ酸カリウム液(K₂SiO₃)1g/Lを12日間隔で葉面散布した2年圃場試験。発病度は対照77.5%(2006年)/74.7%(2007年)に対し、散布区で5.8%/4.6%と約92〜94%抑制(P<0.05、薬害なし)。トマトでも病害・条件によっては効く可能性を示す一方、抑制率が非常に高い点は割り引いて解釈するのが妥当です(2006-2007年)。出典(African Journal of Biotechnology, 2016)
  • 【弱効果・品種で正負】リョクトウ(緑豆)の塩害はケイ酸で緩和するが、収量は品種によりむしろ減る【査読論文】…ヴェロール工科大学ほか(インド)。ケイ酸ナトリウム5mMを土壌灌注した塩ストレス(20mM NaCl)下の試験で、莢数は品種で分かれ、Co6は対照4.2→5.0(+19%)と改善する一方、Co7(Gg)は8.33→5.67、Co8・K1も減少。ケイ酸は塩害を緩和するものの、塩条件下の絶対収量増は限定的〜品種によりマイナスで、マメ科でケイ酸応答が弱い傍証となる事例です(ポット+圃場、2023-2024年)。出典(Silicon fertigation… mung bean, 2024)
  • 芝草は効果が不安定で超高量が必要:芝の病害低減にはケイ素400〜2,000kg/haという非常に高い施用量が必要で、結果も一貫しないとするレビューがあります(Guertal, Crop Science, 2021)。

日本でのケイ酸質肥料(ケイカル)

日本で最も普及しているケイ酸資材は「ケイカル(けい酸カルシウム)」で、肥料取締法上は「鉱さいけい酸質肥料」として1955年に認可されています。公定規格は可溶性けい酸10%以上(多くの市販品は20%以上)。鉄・合金鉄などの製造時に出る鉱さいを原料とします。ケイ酸カリ肥料(可溶性けい酸+く溶性加里)もあります(全農 肥料Q&A)。

まとめ

ケイ酸・可溶性シリカは、ケイ酸を溜め込むイネ・サトウキビで、倒伏軽減・いもち病抵抗・増収の効果が明確な資材です。日本でも公的試験でいもち病抑制や幼穂形成期施用による+4〜6%増収が確認され、兵庫県・茨城県の公設試データからも灌漑水や土壌のケイ酸状態に応じて施用効果が見込めることがわかっています。玄米カドミウムの低減という安全性の切り口でも研究が進んでいます。畑作物ではコムギの倒伏・乾燥、トウモロコシの塩害でケイ酸が効いた圃場例がある一方、キュウリのうどんこ病は高温では効かず、トマトは非集積型で効果が不安定、ダイズやリョクトウは品種・年次で効果が正負に割れ、サトウキビでも品種で無効など、作物・品種・条件で効き方が大きく変わります。「イネには効く、他作物は品目差が大きい」という前提で、自分の作物と土壌のケイ酸状態に合わせて使うのが実践的です。

参考URL

※本ページの数値は各出典の特定条件下での実証値です。対照区つきの試験・メタ分析・査読論文・公的試験を採用し、メーカーの宣伝は掲載していません。効果は作物のケイ酸集積性・品種・温度・土壌で大きく異なります。