少花粉スギ苗1,919万本 花粉発生源対策で2割減らす林野庁の戦略

花粉症対策というと、毎春のマスクや薬といった「症状を抑える」発想になりがちです。しかし林野庁は、花粉そのものを発生源から減らす長期戦略を進めています。その中核が、花粉の少ないスギ苗木への植え替えです。花粉の少ないスギ苗木の生産量は2024年度に1,919万本に達し、2014年度から大幅に増えました。これは林業だけの話ではなく、森林資源と隣り合う農地・中山間地域を抱える農家や農業法人にとっても、これからの土地利用を左右する数字です。

1,919万本という到達点をどう読むか

花粉の少ないスギ苗木の生産量は、2024年度に1,919万本となりました。林野庁によれば、これは2014年度から大幅に増加した水準です。供給が10年でここまで拡大したという事実は、「花粉を出しにくいスギに植え替える」という方針が、研究段階や試験段階を越えて、実際に山に植えられる規模の供給体制へと移ってきたことを示しています。

苗木は植えてすぐ効果が出るものではありません。スギが成長して既存の高花粉林を置き換えていくには長い年月がかかります。だからこそ、毎年どれだけの少花粉苗木を生産・供給できるかという「入口」の数字が、数十年先の花粉量を決める先行指標になります。1,919万本は、その入口が着実に太くなってきたことを表す到達点です。

花粉の少ないスギ苗木の生産量(2024年度)
出典: 林野庁

本丸は「スギ人工林を約2割減らす」発生源対策

苗木の増産は、より大きな目標の一部です。林野庁は花粉発生源対策として、2033年度までに花粉発生源となるスギ人工林を約2割減少させるという目標を掲げています。具体的には、花粉を多く出すスギ人工林を伐採して利用し、その跡地に花粉の少ない苗木や別の樹種を植え直していく、という流れです。つまり「伐って、使って、植え替える」というサイクルそのものが、花粉対策と林業の循環利用を同時に成り立たせる設計になっています。

この「約2割減」という目標は、単なる花粉症対策の数値目標にとどまりません。スギ人工林の伐採が進めば、木材としての国産材供給が動き、伐採跡地の再造林という形で植え替え需要が生まれます。森林に近い農地を持つ農家にとっては、周辺の山がどう手入れされ、どんな樹種に置き換わっていくのかが、鳥獣の動き・日照・水源涵養といった営農環境とも無関係ではありません。

エリートツリー由来の少花粉品種という新展開

2025年3月には、全国初のエリートツリー由来の少花粉スギ品種が開発されました。エリートツリーは、成長が速いなど優れた特性を持つよう選び抜かれた個体を指します。その系統から花粉の少ない品種が生まれたということは、「花粉が少ない」だけでなく「育てる側にとっても扱いやすい」苗木が出てくる方向に進んでいることを意味します。

成長が速い苗木は、植え替えから利用までの期間を縮められる可能性があり、再造林の負担を考えるうえで重要な要素です。花粉を減らす効果と、林業としての生産性を両立させる品種が登場したことは、発生源対策を長続きさせるための後押しになります。供給される苗木の「量」が増えるだけでなく、「質」の選択肢も広がってきた段階だと言えます。

農業ビジネスの視点での含意

中規模以上の農家や農業法人にとって、この一連の動きは三つの意味を持ちます。第一に、森林・林業の長期計画は、農地周辺の土地利用や鳥獣対策の環境を変える可能性があるということ。第二に、伐採と再造林のサイクルが回り始めれば、林業との連携や森林資源を活かした事業に新しい余地が生まれるということ。第三に、花粉という国民的な関心事への公的な対策が、長期の数値目標と毎年の供給実績という形で「見える化」されつつあるということです。

農業従事者の構造変化や食料自給率の議論と同じように、こうした森林分野の数字も、地域の担い手や土地利用を考えるうえでの基礎データになります。たとえば日本の農業従事者数の推移や食料自給率の動向と合わせて見ることで、自分の地域の一次産業全体が今後どこへ向かうのかを立体的に捉えられます。花粉発生源対策は、その大きな絵の一部として押さえておきたいテーマです。

データの引用について

本記事で用いた数値は、林野庁が公表する花粉発生源対策および森林・林業白書に基づく公的データです。これらは出典を明記すれば、CC BY 4.0の考え方に沿って自由に引用・再利用いただけます。引用の際は、本記事ではなく一次情報である下記の林野庁の各ページをあわせてご確認ください。

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