日本発のバイオものづくりスタートアップ「Fermelanta(ファーメランタ)」が、微生物に最大20個もの植物由来遺伝子を一度に導入し、希少な植物成分を発酵で量産する技術を確立しました。従来は1〜2個の遺伝子導入が限界とされてきた分野で、単一の細菌に20以上の遺伝子を組み込み、複雑な分子を1段階の発酵でつくり出すという「前例のない」アプローチです。同社は2025年8月にシリーズAで20億円(約1,360万ドル)を調達し、医薬品からサプリメント、香料、農業資材まで幅広い高付加価値成分の新しい製造法として注目を集めています。
会社基本情報
Fermelantaは、2022年に設立された日本のバイオマニュファクチャリング(バイオものづくり)スタートアップです。共同創業者は、最高経営責任者(CEO)の福先 翔吾(しょうご)氏、最高技術責任者(CTO)の中川 明氏、最高科学責任者(CSO)の南 博道氏の3名です。CEOの福先氏は東京大学で経済学を学んだのち、バークレイズやドイツ銀行といった投資銀行でクロスボーダーM&Aや資金調達に携わった経歴を持ち、石川県立大学の研究者である共同創業者らと組んで同社を立ち上げました。
同社の技術は、石川県立大学で約15年にわたって積み重ねられた研究を基盤としており、関連する特許はFermelantaへ移管されています。創業者らはこれまで、モルヒネやコデインといったアルカロイド(植物由来の複雑な代謝産物)の微生物生産を世界に先駆けて手がけてきました。
事業概要
Fermelantaの中核は、大腸菌(E. coli)などの細菌を「細胞工場」として用い、本来は植物がつくり出す希少な低分子化合物を発酵で生産する事業です。植物から抽出したり、化学合成したりする従来法に比べ、発酵は生産期間が短く、コスト面でも有利になり得ます。同社によれば、糖や空気、わずかな補助原料を与えるだけで、改変した細胞は数日のうちに目的の化合物を生み出すとしています。
同社が想定する応用先は、医療・健康分野を中心に多岐にわたります。開発パイプラインには、以下のような成分が含まれます。
- モルヒネ、コデイン、ベルベリンなどのベンジルイソキノリンアルカロイド(医薬品成分)
- 植物フラボノイド
- カロテノイド
- 多糖類
- ビタミン類
- ペプチド
こうした成分は、医薬品やサプリメント(栄養補助食品)にとどまらず、香料、化粧品、機能性食品素材、飼料添加物、さらにはバイオ農薬といった農業用の化合物まで幅広い領域での活用が見込まれています。
課題と解決策
希少な植物成分の多くは、原料となる植物の栽培に長い時間と広い土地を要し、天候や産地の事情によって供給や価格が大きく変動します。植物細胞培養による生産も研究されてきましたが、植物細胞は増殖が遅く、量産には不向きという技術的な壁がありました。一方で、複雑な分子を微生物につくらせるには、その合成にかかわる多数の酵素遺伝子を一つの細胞に組み込む必要があり、従来の手法では一度に導入できる遺伝子の数がごく限られていた点が大きな制約でした。
Fermelantaはこの課題に対し、独自の多段階の遺伝子導入技術で応えています。同社は、単一の細菌細胞のゲノムに最大20個の植物由来遺伝子を組み込み、複数のステップを要した代謝経路を微生物の中に丸ごと再現することに成功しました。CEOの福先氏は「我々は前例のない数、すなわち最大20個の異種植物遺伝子を、単一の細菌細胞のゲノムに導入した」と述べています。
注目すべきは、この遺伝子導入にCRISPR(クリスパー)などの特許で保護されたゲノム編集ツールを用いていない点です。Fermelantaは自社で開発した独自ツールによって多数の遺伝子を効率的に導入しており、外部技術へのライセンス依存を避けています。また、酵母を用いる発酵法と比べても、細菌は増殖が速く、培養に使う培地が安価で、酵素の操作が容易といった利点があるとしています。これにより、これまで複数の工程を要した複雑な分子を、1段階の発酵で得られる可能性が開けます。
ビジネスモデル
Fermelantaは、医薬品成分の開発を自社の中心に据えつつ、食品・ニュートラシューティカル(機能性食品)・化粧品などの領域では外部パートナーとの協業に開かれた姿勢をとっています。発酵という製造プラットフォームを軸に、付加価値の高い成分を供給する立ち位置です。微生物を「安価な生産プラットフォーム」として活用し、増殖の遅い植物細胞培養に代わる選択肢を提示する点に事業の核心があります。
2026年時点で従業員は約20名で、2027年の事業化(商用化)を目標に掲げています。将来的には従業員数を100〜200名規模へ拡大する構想を持つとしています。
今後の計画
Fermelantaは2025年8月28日、シリーズAラウンドとして20億円(約1,360万ドル)の調達を発表しました。これにより累計調達額は48億円(約3,250万ドル)に達しています。本ラウンドはUniversal Materials Incubator(ユニバーサル マテリアルズ インキュベーター)とBeyond Next Venturesがリードし、Angel Bridgeなどが参加したほか、日本政府の「ディープテック・スタートアップ支援事業」による助成も受けています。
調達した資金は、研究開発パイプラインの拡充、実験室から量産前段階(パイロットスケール)への生産規模拡大、そして事業開発活動に充てられます。同社は経済産業省と農林水産省の支援を受けてパイロット規模の生産設備の整備を進めており、2027年の商用化に向けてスケールアップを加速する構えです。
コメント
Fermelantaの技術が際立つのは、「単一の細菌に20個以上の遺伝子を導入する」という、これまで実現が難しかった一点に正面から取り組んでいる点です。複雑な植物成分の合成経路は多数の酵素が連なっており、これを微生物の中に丸ごと再現できれば、植物の栽培や抽出に依存しない安定供給への道が開けます。CRISPRなどの外部の特許技術に頼らず、自社ツールでこれを成し遂げている点は、ライセンスコストや知的財産上のリスクを抑えるうえでも戦略的といえます。
農業の観点からも、この動きは無関係ではありません。希少成分を微生物発酵で生産する流れが広がれば、原料植物の栽培という形での農業需要に影響が及ぶ可能性がある一方、バイオ農薬や飼料添加物といった農業資材そのものを発酵で安価に供給できるようになる可能性もあります。日本発のスタートアップが、医薬品から農業まで横断する基盤技術を、政府系ファンドや官公庁の支援を受けて育てている点は、国内のバイオものづくり(バイオエコノミー)の進展を占ううえでも注目に値します。2027年とされる商用化の進捗は、中長期的に見ておく価値のあるテーマといえます。
参考URL
- Fermelanta introduces ‘unprecedented’ number of genes into microbes to make rare plant compounds(AgFunderNews) リンク
- Fermelanta nets $13.6m to engineer microbes for complex plant metabolite production(AgFunderNews) リンク
- Fermelanta is using fermentation to create safer, cost-effective alternatives to chemicals(JETRO) リンク
- Morphine from microbes? Fermelanta wins Japan agrifoodtech pitch(AgFunderNews) リンク