SEADLING:ボルネオ発の海藻バイオテックが種苗供給と発酵で小規模農家の海藻を機能性素材に変える

東南アジアの小規模農家が支える「海藻」を、機能性素材の世界市場へ。ボルネオ島から生まれたバイオテック企業SEADLING(シードリング)は、高品質な海藻種苗の供給と独自の発酵技術を組み合わせ、これまで低収益にあえいでいた海藻養殖を「高付加価値作物」へと変えようとしています。創業者サイモン・デイビス(Simon Davis)氏が描くのは、農家の収入を底上げしながら、ペットフードや人間の栄養市場に通用する素材を生み出すという、生産者と市場の両方を動かすモデルです。日本でも海藻・藻類は古くからの資源でありながら産業としては伸び悩んでおり、SEADLINGの取り組みは大いに参考になります。

SEADLINGの海藻養殖の様子
出典:SEADLING

SEADLINGの基本情報

SEADLINGは2018年に設立された海藻バイオテック企業です。シンガポールで登記され、実際の生産・研究拠点はマレーシア・ボルネオ島のサバ州コタキナバルに置いています。創業者のサイモン・デイビス氏は、太平洋を6年間かけて航海した経験のなかで海藻養殖の可能性に出会ったという、異色の経歴の持ち主です。インドネシア語とマレー語に堪能で、現地の養殖コミュニティと直接対話できることが、農家支援モデルの土台になっています。

同社が掲げるミッションは「世界の食料安全保障、より健全な海洋、そして強い地域社会のための海藻の未来をつくる」こと。単なる素材メーカーではなく、生産者・環境・市場の三者をつなぐプラットフォームを志向している点が特徴です。創業時はわずか5名でスタートし、その後は研究者やエンジニアを含む多分野のチームへと拡大しています。

事業概要:種苗から機能性素材までを一気通貫

SEADLINGのビジネスは、海藻のバリューチェーンを垂直統合している点に核心があります。流れは大きく次の通りです。

  • 独自の海藻品種を開発し、種苗(シードリング)を生産する
  • 種苗を現地の養殖農家に供給し、栽培技術を指導する
  • 収穫された海藻を農家から買い戻す
  • 独自の発酵・加工プロセスで機能性素材へと加工する
  • ペットフードや今後の人間用食品・農業・畜産市場へ供給する

原料となるのは熱帯性の海藻Elkhorn Seamoss(Kappaphycus属)です。SEADLINGはこれを単に乾燥・粉砕して売るのではなく、発酵というワンステップを加えることで、付加価値の高い「機能性成分」を取り出している点が他社と一線を画します。

プロダクト構成

機能性海藻素材(ペットフード向け)

SEADLINGの現在の主力は、発酵させた乾燥海藻パウダーです。腸内環境を整えるオリゴ糖(プレバイオティクス)と、心血管・骨の健康に寄与するビタミンK2を強化しているのが特長です。同社によると、独自の発酵プロセスによってオリゴ糖の収量は非発酵プロセス比で345%増加するとされます。海藻由来のビタミンK2については特許出願中の製法を持ち、従来の動物・微生物由来に代わる植物ベースの選択肢として位置づけています。

植物用バイオスティミュラント

SEADLINGは海藻由来の液体バイオスティミュラント(植物の病害抵抗性を高める資材)も手がけています。海藻抽出物は世界的にもバイオスティミュラントの主要原料であり、この分野は日本の露地・施設栽培でも導入が広がっています。海藻資材の作用機序や主要製品については、海藻抽出物バイオスティミュラント完全ガイド露地野菜向けバイオスティミュラント完全ガイドもあわせて参照すると、SEADLINGの素材がどの位置づけにあるかが分かりやすくなります。

生産能力

2025年、SEADLINGはサバ州に2つ目の加工施設を立ち上げました。これにより生産能力は月産1トンから月産5トンへと拡大しています。海藻は発酵・乾燥・粉砕・包装という工程を経て出荷されます。

従来の海藻養殖の何が問題で、SEADLINGは何を変えたのか

ここがSEADLINGの最も重要なポイントです。デイビス氏は、東南アジアの海藻養殖が依然として「石器時代の技術」に頼り、ほぼ人力のみで行われていると指摘します。具体的な課題は次のように整理できます。

  • 良質な種苗が手に入らない:多くの農家は前回の収穫から種を取り続けるため品質が劣化し、収量が安定しない
  • 効率の低さと労働力不足:機械化が進んでおらず、生産性が頭打ちになっている
  • 気候変動の影響:海水温の上昇が、温度に敏感な海藻の収量を押し下げる
  • 中間業者による買い叩き:遠隔地の農家は価格交渉力が弱く、収益が安定しない

SEADLINGはこれらの課題を、川上(種苗)と川下(買い戻し・加工)の両側から解決します。まず、独自開発した品種は従来の方法に比べて2〜3倍速く成長するとされ、収量と回転率を底上げします。さらに、地域や季節に応じて「どの品種をいつ植えるべきか」を農家に助言し、栽培そのものの精度を高めます。デイビス氏は「より速く成長する種材料を農家に届けられれば、生産性を劇的に引き上げられる」と語ります。

そして川下では、収穫物の買い取りを保証し、安定した価格を提示することで、中間業者を介さない直接契約を実現しています。種を与えるだけでなく出口(販売先)まで保証することで、農家は安心して生産に集中できる——この「両端を握る」設計こそが、単なる種苗ベンチャーとの違いです。

実績と農家支援

SEADLINGは現在、米国・シンガポール・インドへの輸出を行っています。発酵海藻素材の品質を担保するため、2023年にはHACCP認証を取得し、機能性素材としての信頼性を高めています。農家支援の側面では、種苗の提供と技術指導、買い取り保証を組み合わせることで、養殖コミュニティに市場へのアクセスと安定した収入をもたらしています。

同社は2030年に向けて、年間100万ウェットトンの海藻養殖、10万人を貧困から引き上げること、そして1万平方キロメートルの海域で生物多様性を改善することという3つの大きな目標を掲げています。プラスチック汚染の削減やサンゴ礁の保護、女性の経済的自立支援など、環境・社会面のインパクトも明確に打ち出している点が、投資家からの評価につながっています。

ビジネスモデルと資金調達

SEADLINGの収益源は、農家から買い戻した海藻を発酵・加工した機能性素材の販売です。現在はペットフード向けが中心で、人間用食品は2027年の投入を計画しています。種苗の供給と買い取りを通じて原料の品質と供給量をコントロールできるため、素材の品質を一定に保てるのが強みです。

2025年、SEADLINGは100万米ドルのシードラウンドを完了しました。出資したのは、AgFunder、The Yield Lab Asia Pacific、東洋製罐グループ(Toyo Seikan Group)、Katapult Ocean、KUL Loesningar 3です。このうちConservation International Venturesは50万米ドルを拠出しています。日本の東洋製罐グループが名を連ねている点は、日本企業にとっても海藻バイオが視野に入りつつあることを示しています。調達資金は加工能力の拡大、製品開発の加速、グローバル展開の強化に充てられています。

販路面では、北米のペットフード市場に向けて農業大手Scoularと独占的なパートナーシップを締結し、発酵乾燥海藻パウダーを供給する体制を整えました。北米のペットフード購入者の約7割が機能性をうたうトッパーやおやつに関心を示すとされ、市場の追い風も大きいといえます。

競合との比較

海藻バイオテックは世界的に注目が高まる領域ですが、SEADLINGの独自性は「発酵による高付加価値化」と「小規模農家を巻き込んだ垂直統合」を同時に成立させている点にあります。海藻を単にバイオスティミュラント原料として扱うプレイヤーは多い一方、発酵で機能性成分(オリゴ糖・ビタミンK2)を引き出し、食品・ペット市場まで踏み込む企業は限られます。

発酵で動物・微生物由来の成分を植物・微生物ベースに置き換えるという発想は、たとえば精密発酵で動物性カゼインを再発明する仏Standing Ovationのような精密発酵スタートアップと方向性を共有しています。SEADLINGは「海藻」という未活用の海洋資源を起点にしている点で、陸上のバイオスティミュラント企業とも、精密発酵企業とも異なるポジションを築いています。

今後の計画

SEADLINGは2026年中にGMP+認証の取得を目指しており、食品・飼料素材としての展開を加速させる構えです。市場面では、現在の米国・シンガポール・インドに加え、2026年にはインド・タイ・欧州・中国への拡大を計画しています。製品では、ペットフードに続いて2027年に人間用の栄養素材を投入し、植物・畜産分野へも応用を広げる方針です。海藻という単一の作物から、複数の市場へ素材を展開していく多角化の戦略が見えてきます。

編集部コメント:なぜSEADLINGは強いのか

SEADLINGの強さは、「生産者の課題」と「市場の課題」を同じ仕組みで解いている点にあります。良質な種苗を欠き、買い叩かれていた小規模農家に対しては、高品質な種苗・技術指導・買い取り保証を提供する。一方で、機能性をうたう素材を求めるペットフード・食品市場に対しては、発酵という独自技術で差別化された成分を供給する。この両端をひとつのバリューチェーンで結ぶことで、原料の品質と供給を自社でコントロールできています。

日本でも海藻・藻類は身近な資源でありながら、産業としての高付加価値化は道半ばです。種苗の品質向上、発酵による機能性の付与、農家との直接契約という3点セットは、国内の海藻・藻類産業や、海藻抽出物を扱うバイオスティミュラント分野にとっても示唆に富みます。先進的な農法・素材に投資する農業法人にとって、SEADLINGは「海洋資源×バイオテック」という新しい投資テーマを体現する存在として注目に値します。

参考URL

  • SEADLING founder Simon Davis on bringing long-term economic benefit to SEA’s seaweed farmers AgFunderNews
  • How biotech startup Seadling is turning seaweed into a high-impact crop for smallholder farmers AgFunderNews
  • On the heels of a capital raise, biotech co Seadling launches Malaysia facility for functional seaweed ingredients AgFunderNews
  • Seadling gets $1M to propel sustainable seaweed innovation AgTechNavigator
  • About Us | Seaweed Biotech Company in Borneo SEADLING公式サイト
  • SEADLING | Conservation International Conservation International