
「Kelpak(ケルパック)」は、海藻バイオスティミュラントを世界で初めて商業化した製品の一つとして知られています。原料は南アフリカ西岸の固有種であるエクロニア・マキシマ(Ecklonia maxima)。1978年の発売以来、独自の「Cell Burst」と呼ばれる冷温機械破砕製法によって、植物ホルモンや活性物質を分解せずに取り出すアプローチで他社製剤と差別化を続けてきました。本記事では、Kelpakの基本情報・製法・科学的エビデンス・使い方・競合製品との比較までを、海外論文と公式情報を一次ソースとして整理します。
Kelpakとは何か:海藻バイオスティミュラントの原点
Kelpakは、南アフリカのKelp Products (Pty) Ltd(販売会社はKelp Products International、以下KPI)が製造する液体バイオスティミュラントです。公式の沿革によれば、Cell Burstプロセスの世界特許が登録された1978年が事業開始の年とされ、現在は115か国以上で流通しています。2024年には新しい6,850㎡規模の生産施設をフル稼働させ、独立系の海藻バイオスティミュラントメーカーとして拡大を続けています。
Kelpakが「原点」と呼ばれるのは、海藻抽出物が単なる肥料の補助ではなく、植物ホルモンや二次代謝物を介して作物の生理に直接働きかける「バイオスティミュラント」というカテゴリーを切り拓いた製品だからです。Kelpakが定式化した「冷温抽出で植物ホルモンを壊さず取り出す」という設計思想は、その後の海藻バイオスティミュラント開発の参照軸になりました。
なお、Kelpakは2024年以降、フィリピンやエクアドルなど一部地域でBASFがディストリビューターとして取り扱うようになっていますが、製造元はあくまでKPI(南アフリカ)です。BASFが2024年10月に提携を発表した相手は北大西洋産アスコフィラム系のAcadian Plant Healthであり、Kelpak本体の買収ではありません。一次情報を確認するとBASFのプレスリリースでもAcadianとの戦略提携が報じられている点に注意が必要です。
カテゴリー全体の俯瞰やほかの製剤との比較は、バイオスティミュラント完全ガイドでも整理しています。
原料エクロニア・マキシマ:南アフリカ固有の巨大コンブ
Kelpakの原料となるEcklonia maximaは、南アフリカ南西部からナミビア北部にかけてのベンゲラ海流域に分布する褐藻綱コンブ目の海藻です。英語圏では「Sea bamboo(海の竹)」と呼ばれ、長い茎(stipe)が竹のように伸びる形態が特徴です。最大で8mを超える長さに達し、岩盤に着生して海中林を形成します。
ベンゲラ海流は深層から栄養塩を引き上げる湧昇流(upwelling)の代表的海域で、エクロニア・マキシマはこの冷たく栄養豊富な海水で急速に成長します。生育環境の厳しさを反映して、紫外線・浸透圧・酸化ストレスに対抗する二次代謝物(フロロタンニンなど)を高濃度で蓄積している点が、バイオスティミュラント原料としての価値につながっています。
収穫はダイバーによる手刈り(hand-harvesting)が基本で、KPIは区画ローテーション方式(strip rotational harvesting)を採用しています。公式情報とAfrican Journal of Marine Science 2002年のレビュー(Levitt et al.)のいずれでも、特定区画から年齢・サイズの揃った原料を計画的に取り出すことで資源量を維持しているとされています。
Cell Burst製法:熱・酸・アルカリを使わない冷温抽出
Kelpakを他の海藻製剤と区別している最大のポイントが、Cell Burst(セル・バースト)と呼ばれる独自製法です。公式技術解説によると、Cell Burstは以下のような物理破砕プロセスです。
- 収穫したエクロニア・マキシマを粒径数mmまで粉砕する
- 加圧チャンバー内で粒子を圧縮する
- 極めて圧力の低いゾーンへ高速で放出する
- 細胞内の内圧と外圧の差(mechanical pressure differential)が細胞壁の弾性限界を超え、内容物が破裂・解放される
このプロセスの本質は「加熱・乾燥・凍結・酸・アルカリ処理を一切使わない」点にあります。植物ホルモンの多くは熱・pH変化・酸化に弱く、伝統的なアルカリ加水分解(NaOH/KOHでの消化)や高温抽出を行うと活性のあるオーキシン・サイトカイニン・ジベレリンが分解されやすくなります。Cell Burstはこれらの活性物質を温度と化学処理から守ったまま液相へ移行させる設計です。
工程はすべて収穫当日中に同一工場内で完結し、最終製品も冷蔵流通を前提としています。製造ラインはISO 9001:2015認証(2024年11月にSGSによる認証更新)を維持しており、品質管理面でも独立工場としての体制を整えています。
オーキシン/サイトカイニン比350:1という設計思想
海藻抽出物の機能を理解する上で最重要の指標が、含有される植物ホルモンの組成です。Kelpakの場合、オーキシン濃度がサイトカイニン濃度の約350倍という強いオーキシン優位の組成が、複数の独立論文で報告されています。
Stirk and van Staden(1996, Journal of Applied Phycology 8:503-508)による各社海藻抽出物の比較研究では、Kelpakのオーキシン活性がインドール酪酸(IBA)換算で約11mg/L、サイトカイニン活性がカイネチン換算で約0.031mg/Lと定量され、両者の比は約350:1となりました。Stirk et al.(2004)でも同等の結果が再現されており、これらは南アフリカ・クワズール・ナタール大学グループによる継続研究として国際的に引用されています。
なぜこの比が重要なのでしょうか。オーキシン優位の組成は、植物体内では以下のような反応を促進します。
- 側根・不定根の形成促進と細胞伸長
- 根域拡大による水・養分吸収能力の向上
- 移植・挿し木後の発根活着の早期化
- 果実肥大期のソース・シンク関係の調整
一方、Ascophyllum nodosum(北大西洋産のラッカクモク)系の海藻製剤はサイトカイニン優位の組成を持つことが多く、葉の若返り・光合成活性の維持・葉色保持に強みがあります。Kelpakの設計思想は「根を作って収量を底上げする」という方向に振り切ったものと言えます。育苗・移植期に効くという特性は、菌根菌など他の生物資材と組み合わせる発想にもつながっています。詳細は発根促進・育苗向けバイオスティミュラント完全ガイドもあわせてご覧ください。
なお、Kelpakには植物ホルモン以外にも、エクロール(eckol)と呼ばれるフロロタンニン類が含まれており、これが二次的な生育促進因子として働くことも明らかになっています。後述のRengasamy et al.(2015, Planta)の研究が代表例です。
科学的エビデンス:圃場・温室試験で示された効果
Kelpakは1980年代以降、世界中の研究機関で数百件の試験が行われています。ここでは代表的な査読論文を作物群別に紹介します。
主要食用作物での収量・品質改善
Kocira et al.(2018, Saudi Journal of Biological Sciences 25:563-571)は、コモンビーン(インゲンマメ)2品種にKelpakを0.4%濃度で葉面散布した結果、莢数が約9.1%増、種子重が8.6%増、ポリフェノール・アントシアニン含量も有意に向上したと報告しました。営養素的にも単純な収量増ではなく品質改善を伴う点が特徴です。
葉物野菜では、La Bella et al.(2021, Plants 10:1139)がホウレンソウへのKelpak葉面散布で生体重・アスコルビン酸・総ポリフェノール・窒素利用効率(NUE)が向上することを示し、Di Mola et al.(2021, Horticulturae 7:440)はリーフレタスの水耕栽培でKelpak添加が収量と収穫後品質を向上させることを報告しています。
飼料用イネ科牧草を対象にしたCiepiela et al.(2016, Environmental Science and Pollution Research 23:2301-2307)では、Kelpak SLを2L/ha散布することで、セルロース・リグニン含量が低下し非構造糖が約11%増加、消化性の高い飼料に変化することが示されました。葉物野菜やイチゴ・トマトのような高単価作物だけでなく、家畜飼料の栄養価向上にも有効である点は応用範囲を広げます。
果樹・ブドウでの果実品質と病害抑制
果樹分野では、2024年のSouth African Journal of Botany掲載論文が、18年生のカベルネ・ソーヴィニヨンへのKelpak施用で糖度・有機酸・フェノール集積が向上し、Botrytis(灰色かび病)やErysiphe(うどんこ病)の発生が低減したと報告しています。ワインブドウのように果実品質が直接価格に反映される作物では、こうした品質改善効果は経済価値に直結します。
乾燥ストレス・病害抵抗性への作用
Ciriello et al.(2025, Plants 15:170)は、土耕に依存しない(soilless)システムで栽培したカーリーエンダイブにKelpakとセレン葉面散布を組み合わせると、乾燥ストレス耐性が向上することを示しました。Fiorillo et al.(2025, Physiologia Plantarum)はKelpakと酵母抽出物を組み合わせたバイオスティミュラントがトマトにPseudomonas syringae pv. tomato DC3000に対する抵抗性を誘導し、NADPHオキシダーゼなど活性酸素生成酵素の発現が上昇することを報告しています。
乾燥対策全体の処方設計については乾燥ストレス対策バイオスティミュラント完全ガイドもあわせて参照してください。
エクロール(フロロタンニン)の植物生理活性
Rengasamy et al.(2015, Planta 241:1407-1416)は、Kelpakから単離したエクロール(eckol)がトウモロコシ実生で根伸長とα-アミラーゼ活性を有意に向上させ、二次代謝物の含量も増加させることを示しました。植物ホルモンだけでなく、フロロタンニンという「植物刺激性ポリフェノール」がKelpakの活性に寄与している点は、近年の研究で繰り返し確認されています。
リン欠乏下のクラスター根形成
2025年のJournal of Applied Phycology掲載論文では、リン欠乏条件下のホワイトルピンとキュウリ実生にKelpakを施用すると、リン獲得のためのクラスター根(cluster root)形成が促進されることが示されました。これはオーキシン優位ホルモン組成とエクロールの相乗作用と解釈されており、低リン圃場での実用価値を裏付ける研究です。
製品ラインと使用方法
Kelpakは基本的に液体製品(Liquid Seaweed Concentrate)として供給されます。1L容器から200Lドラム、IBC(中型コンテナ)まで容量バリエーションがあり、市場別に「Kelpak SL」「Kelpak Liquid Seaweed Concentrate」などラベル違いで展開されています。同じエクロニア・マキシマ原料を、COMPO EXPERTが「Basfoliar Kelp SL」として、英国Omexが「Omex Kelpak」としてOEM供給するなど、地域や流通チャネルごとに複数のブランド名が併存しています。
公式の散布ガイドによると、葉面散布の標準は2〜4L/haで、散布水量は80〜120L/haが推奨されています。希釈率は葉面散布で1:500、点滴灌注で1:1000が上限とされ、これより薄くしないことが効果保証の条件です。散布タイミングは作物によって異なりますが、移植時・開花前・結実初期・肥大期など、年間2〜6回の散布が一般的なプロトコルです。
具体的な作物別レシピとしては、フィリピンBASFが公開するプログラム例が参考になります。バナナでは5〜8ml/Lを移植時・21日後・以後14〜21日間隔で、トマトは5tbsp/10Lを移植後14日と28日に、ジャガイモは種芋ディップに加えて発芽3週・5週後に散布するといった内容です。
挿し木や移植時の苗床処理では5〜10ml/Lで根浴する手順も公式に推奨されており、観賞用植物の挿し木で活着率を上げる用途にも広く使われています。
コスト感としては、英国の小売価格でKelpak 5L容器が£40〜£60程度(約8,000〜12,000円相当)です。標準的な葉面散布プロトコルでは年間6〜8L/haを使うため、薬剤費は小売価格ベースで¥10,000〜¥16,000/ha/年のレンジに収まる計算になります。日本国内では独占代理店の公開情報は限定的ですが、輸入肥料商社経由でスポット流通しており、JAS有機認証も取得済みです。
認証と市場展開
Kelpakは公式の認証一覧によれば、EU有機規則(2018/848・2021/1165)に基づくEcocert認証、米国農務省NOP、カナダ有機、Australian Certified Organic、NZ BioGro、米国カリフォルニアCDFA Organic Input Material、米国ワシントン州WSDA Organic、英国Soil Association、OF&G Organic、そして日本のJAS Certificationを取得しています。EUの新肥料規則(FPR 2019/1009)に基づくCEマークも保有しており、有機認証農場や輸出向け作物にも問題なく使える設計です。
市場展開は115か国以上に及び、5大陸すべてに代理店を持ちます。地域ごとに製品ブランドや流通経路は異なりますが、製造はすべて南アフリカの自社工場で一元管理されています。
競合製品との比較:エクロニア・マキシマ系とアスコフィラム系
海藻バイオスティミュラントの主流は大きく二つに分かれます。Kelpakが代表する南アフリカ産エクロニア・マキシマ系と、Acadian・Maxicrop・Stella Maris・Goëmar(現UPL)が代表する北大西洋産アスコフィラム・ノドサム(Ascophyllum nodosum)系です。
製法面では、エクロニア・マキシマ系の代表であるKelpakが冷温機械破砕(Cell Burst)であるのに対し、アスコフィラム系の多くはNaOHやKOHを使うアルカリ加水分解、もしくは高温抽出を用います。First Raysの解説記事でも、抽出工程の違いが最終製品中の植物ホルモン構造の保存性に大きく影響することが整理されています。
ホルモン組成では、Kelpakがオーキシン優位(約350:1)であるのに対して、アスコフィラム・ノドサム系はサイトカイニン優位で、最終的な作用の出方が異なります。Kelpakは根系強化と乾燥ストレス耐性、活着促進に強みを発揮しやすく、アスコフィラム系は葉の活性化・色保持・収穫後品質維持に向くという棲み分けがあります。
価格面ではKelpakのほうが概してプレミアム帯に位置し、葉面散布あたりの単価は高めです。一方、アスコフィラム系は製品ラインアップが豊富で、液体に加えて可溶性粉末・乾燥フレーク・ナノエマルジョンなど用途別の剤型が選びやすい利点があります。
実際の現場では、開花前にKelpakで根系と着果ポテンシャルを底上げし、開花後にアスコフィラム系で葉の活性を維持するといった「使い分け」のアプローチも普及しています。果樹やイチゴでの応用例は、果樹向けバイオスティミュラント完全ガイドとイチゴ向けバイオスティミュラント完全ガイドでも整理しています。
導入を検討する際の判断軸
Kelpakを試す価値が高いのは、以下のような条件が当てはまる経営です。
- 移植・挿し木・植え替えの工程があり、活着率や初期生育の安定化が課題になっている
- 乾燥や高温など非生物的ストレスが収量変動の主因になっている圃場を持つ
- 有機認証農場、もしくはJAS有機・EUオーガニック輸出を視野に入れている
- 果実品質(糖度・色・硬度)が価格に直結する高単価作物を扱っている
- 菌根菌資材や根圏微生物との併用で、根域強化を多面的に進めたい
逆に、すでに葉の色や光合成活性に課題を感じている場合や、葉面の若返り効果を主目的にする場合は、サイトカイニン優位のアスコフィラム系製剤のほうが向くケースもあります。Kelpakは万能薬ではなく、「根系・移植・ストレス耐性」に強みを持つ専門資材として位置づけて使い分けるのが現実的なアプローチです。
製品単価は決して安くないので、3年単位で投資対効果を評価する設計が望ましいでしょう。菌根菌完全ガイドで整理しているように、生物資材の効果は単年度の天候と作付け条件で大きくぶれます。3年平均で「順調な年に+5〜10%、不順な年に-15%を-5%に抑える」といった保険型投資のフレームで評価するのが、海藻バイオスティミュラント全般に共通する経営判断の基本軸です。
まとめ
Kelpakは1978年の発売以来、エクロニア・マキシマと冷温機械破砕(Cell Burst)製法によって、植物ホルモンと二次代謝物を高い活性のまま保持した海藻バイオスティミュラントとして発展してきました。オーキシン:サイトカイニン比約350:1という強いオーキシン優位の組成は、根系強化・移植活着・乾燥ストレス耐性に独自の強みをもたらします。
南アフリカで115か国以上に展開する独立メーカーがいまも製造を担い、JAS有機含む各国オーガニック認証を取得していることから、日本の有機農場でも安心して試せる素材です。アスコフィラム・ノドサム系製剤との棲み分けを意識し、根系・初期生育・ストレス耐性に課題を持つ圃場で集中的に使うのが、コスト効率の高い活用法と言えるでしょう。
参考URL
- Kelpak公式サイト(Kelp Products International)
- Cell Burstプロセス公式解説
- Ecklonia maxima 公式解説
- Kelp Products International 沿革
- 葉面散布ガイド(公式)
- 各国認証一覧(公式)
- Stirk & van Staden (1996) Comparison of cytokinin- and auxin-like activity in some commercially used seaweed extracts. J Appl Phycol 8:503-508
- Stirk et al. (2004) Identification of the cytokinin isopentenyladenine in a commercial seaweed extract. J Appl Phycol
- Rengasamy et al. (2015) Physiological role of phenolic biostimulants isolated from brown seaweed Ecklonia maxima on plant growth and development. Planta 241:1407-1416
- Kocira et al. (2018) Enhancement of yield, nutritional and nutraceutical properties of two common bean cultivars following application of seaweed extract. Saudi J Biol Sci 25:563-571
- Ciepiela et al. (2016) The effect of seaweed Ecklonia maxima extract on fodder grass chemical composition. Environ Sci Pollut Res 23:2301-2307
- La Bella et al. (2021) Impact of Ecklonia maxima Seaweed Extract on Spinach Yield, Quality and NUE. Plants 10:1139
- Di Mola et al. (2021) Influence of Ecklonia maxima Extracts on Hydroponic Leaf Lettuce. Horticulturae 7:440
- Ciriello et al. (2025) Curly Endive Drought Stress Tolerance in Soilless System. Plants 15:170
- Fiorillo et al. (2025) Ecklonia maxima and Yeast Extract Resistance to Pseudomonas syringae in Tomato. Physiologia Plantarum
- Effects of Ecklonia maxima seaweed extract on Cabernet Sauvignon fruit and wine quality (2024) S Afr J Bot
- Eckols and Kelpak improve cluster root formation under phosphorus deficiency (2025) J Appl Phycol
- Levitt et al. (2002) Kelp Harvesting Sustainability. Afr J Marine Sci
- BASF Philippines Kelpak Product Page
- Comparing Seaweed Extracts (First Rays Technical Note)