農林水産省は令和8年(2026年)4月、化学肥料をめぐる日本の最新状況をまとめた資料「肥料をめぐる情勢」を公表しました(全21ページ)。本記事はこの資料の要点を整理し、農業関係者・企業IR・政策ウォッチャーがスライドやレポートにそのまま使える形で解説します。
掲載しているチャートはすべて CC BY 4.0 で、商用資料にも自由に転載できます(出典表記のみ必要)。
この資料は何か
- 所管: 農林水産省 農産局
- 改訂ペース: おおむね半年に1回(直近の改訂は令和8年4月)
- 扱う範囲: 化学肥料3大原料(窒素=尿素、リン酸=リン安、カリ=塩化加里)の世界需給、日本の輸入依存構造、価格動向、国の肥料対策、国内資源利用拡大、みどりの食料システム戦略
- 原典URL: 肥料関連ページ(PDF: index-231.pdf)
1枚で分かる全体像

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日本の化学肥料は 尿素・リン安・塩化加里のほぼ全量を輸入に依存しています。尿素の国産は約3%(9千トン)にとどまり、リン鉱石・加里鉱石は国内産出ゼロです。
一方で、3年前(R2肥料年度)と比べると 供給元は大きく変わりました。中国の輸出規制(2021年秋)とウクライナ危機(2022年)を受け、尿素の中国依存は27%から3%に低下、塩化加里のロシア・ベラルーシ依存(合計37%)はゼロになりました。
2. 輸入依存の構造(R6肥料年度・最新)

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尿素(窒素肥料の原料)
- マレーシア 74%/ベトナム 10%/サウジアラビア 5%/中国 3%/国産 3%
- 全輸入量 256千トン
リン安(リン酸アンモニウム)
- 中国 72%/モロッコ 21%/イスラエル 7%
- 全輸入量 370千トン
塩化加里(塩化カリウム)
- カナダ 78%/イスラエル 7%/ヨルダン 4%/ラオス 3%
- 全輸入量 228千トン
3. R2→R6で何が変わったか

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| 原料 | 主な変化 |
|---|---|
| 尿素 | 中国 27% → 3%、マレーシア 57% → 74%、ベトナム 0% → 10%(新規) |
| リン安 | 中国 90% → 72%、モロッコ 0% → 21%(急伸) |
| 塩化加里 | ロシア・ベラルーシ 計37% → 0%(排除)、カナダ 44% → 78%、イスラエル・ラオスが新規追加 |
つまり、特定1か国集中の構造は依然残るものの、3年間で供給元の多様化は着実に進んでいるというのが資料全体のキーメッセージです。
4. 価格動向

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肥料原料の輸入通関価格は、2021年以降上昇傾向が続きましたが、2023年1月以降は下落に転じています。ただし、リン酸アンモニウム(リン安)だけは引き続き高い水準で推移しており、完全な平時回帰には至っていません。
化学肥料(高度化成肥料)の製造コストは 原材料費が約6割を占めるため、原料の国際価格や運送費の変動が小売価格に直接波及する構造です。
5. 価格急騰対策と備蓄制度
備蓄(経済安全保障推進法に基づく)
2022年5月成立の経済安全保障推進法で、肥料が特定重要物資に指定されました(政令16物資のひとつ)。
- 備蓄目標: 2027年度までに、リン安・塩化加里を 年間需要量の3か月分
- 進捗(R6年11月時点): 塩化加里は 3か月分を達成、リン安は2.4か月分
- 基金規模: R4補正〜R8当初で累計 162億円(運営: 一般財団法人肥料経済研究所)
価格高騰対策の実績
- 令和4年度予備費 788億円: 令和4年秋肥・5年春肥を対象に、化学肥料使用量低減に取り組む農業者へ肥料費上昇分の 7割を支援
- R8当初予算: 肥料価格動向調査を継続し、急騰時には影響緩和対策を発動する仕組みを措置
資源外交
- マレーシア(尿素): 令和4年7月 宮崎農林水産大臣政務官訪問
- モロッコ(リン鉱石): 令和4年5月 武部副大臣訪問
- カナダ(塩化加里): 令和5年1月 野村大臣・ウィルキンソン加拿天然資源大臣会談
6. 国内資源の利用拡大目標

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食料安全保障強化政策大綱(令和5年12月改訂)では、家畜ふん堆肥・下水汚泥資源・食品残渣などの国内有機性資源の利用拡大を政策として掲げています。
| 指標 | 現状 | 2030年目標 |
|---|---|---|
| 国内肥料資源のうち堆肥・下水汚泥の使用量 | 28.5万t | 倍増 |
| 肥料使用量(リンベース)に占める国内資源利用割合 | 25% | 40% |
実装事例
- JA鹿児島県経済連: 家畜ふんをペレット化し、茶等の地域作目に適した堆肥入り肥料を生産
- 兵庫県神戸市: 下水汚泥から「こうべ再生リン」を回収し、有機肥料と配合した「こうべハーベスト」を製造。特別栽培農作物ブランド「こうべ旬菜」に使用
予算枠は、国内肥料資源利用拡大対策として R4補正100億円、R5〜R7補正・当初で累計約200億円超が措置されています。
7. 経営費に占める肥料費の割合

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令和5年の営農類型別経営統計では、肥料費が経営費に占める割合は茶作で19%、畑作で16%、水田作で12%と、土地利用型農業ほど肥料価格変動の影響を受ける構造です。
| 営農類型 | 経営費 | 肥料費 | 割合 |
|---|---|---|---|
| 茶作 | 9,808千円 | 1,852千円 | 19%(最大) |
| 畑作 | 10,243千円 | 1,658千円 | 16% |
| 水田作 | 3,145千円 | 378千円 | 12% |
| 露地野菜作 | 8,153千円 | 802千円 | 10% |
| 全体平均 | 6,953千円 | 547千円 | 8% |
| 施設野菜作 | 12,636千円 | 890千円 | 7% |
| 果樹作 | 5,524千円 | 303千円 | 5% |
8. コスト構造改革と価格の見える化
全農の銘柄集約(2018年〜)
| 指標 | 改革前(H28) | 改革後(R5) |
|---|---|---|
| 銘柄数 | 約550銘柄 | 24銘柄 |
| メーカー | 16社35工場 | 8社14工場 |
| 銘柄当たり生産数量 | 約240トン | 約2,900トン |
この銘柄集約により、改革前比で肥料価格の1〜3割引下げを実現したとされています(R4春肥まで)。
価格の見える化
令和5年3月の農水省調査によれば、資材販売店ごとに 同一銘柄でも約2〜4倍の価格差が存在。農業者が価格比較して調達できる環境整備が今後の課題です。
9. みどりの食料システム戦略との接続
令和3年5月策定のみどりの食料システム戦略では、化学肥料使用量(NPK総量・出荷ベース)を以下のように削減する目標が掲げられています。
| 年 | 化学肥料使用量 | 削減率 |
|---|---|---|
| 2016年(基準) | 90万t | — |
| 2030年(中間目標) | 72万t | -20% |
| 2050年(最終目標) | 63万t | -30% |
達成手段として資料では 土壌診断による施肥の適正化、局所施肥、リモートセンシング・ドローン等によるスマート施肥、堆肥の広域流通、下水汚泥からの高度成分回収技術開発などが挙げられています。
資料作成への活用
本記事で使用したチャートはすべて CC BY 4.0 のもと、スライド・社内資料・IR資料・論文などに自由に転載できます。
推奨クレジット表記:
出典: smartagri.jp「『肥料をめぐる情勢』令和8年4月版を読み解く」
https://smartagri.jp/jp-fertilizer-2026-explainer/
元データ: 「肥料をめぐる情勢」令和8年4月(農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/seisan/sien/sizai/s_hiryo/attach/pdf/index-231.pdf
(2026年4月24日に利用)を加工して作成
高解像度版(PNG/SVG)・データ付きの詳細ページは 日本の化学肥料の輸入量・価格(統計ページ) からダウンロードできます。
まとめ — この資料の3つのメッセージ
- 構造は変わらない: 化学肥料3大原料は依然としてほぼ全量輸入、特定国への依存も高水準
- しかし多元化は進んでいる: 中国依存27%→3%、ロシア・ベラルーシ依存排除、モロッコ・ベトナム・イスラエル等の新規調達先開拓
- 国内資源で25%→40%を目指す: 下水汚泥・家畜ふん堆肥・食品残渣の利用拡大が2030年目標として明文化、備蓄は塩化加里が目標達成
一次ソース
- 農林水産省「肥料をめぐる情勢」令和8年4月
https://www.maff.go.jp/j/seisan/sien/sizai/s_hiryo/attach/pdf/index-231.pdf(2026年4月24日に利用) - 食料安全保障強化政策大綱(令和5年12月改訂)
- みどりの食料システム戦略(令和3年5月策定)
※本ページは「肥料をめぐる情勢」令和8年4月(農林水産省、PDL1.0)を加工して作成しています。国(農林水産省)が本ページの編集・加工内容を承認・作成したものではありません。