Caterra:ETH Zurich発のレーザー除草ロボットで有機農業を革新するスイス発スタートアップ

Caterraの会社基本情報

Caterraの公式サイト。レーザー除草ロボットが圃場で稼働している様子
出典:Caterra
  • 会社名:Caterra AG
  • 本社所在地:スイス・チューリッヒ州グラットパーク(オプフィコン)
  • 設立:2023年2月(法人登記)。ETH Zurich Pioneer Fellowshipとして2021年から活動
  • 共同創業者:Aurel Neff(CEO、ETH Zurich機械工学・ロボティクス修士)、Patrick Barton(電気工学・ロボティクス、深層学習が専門)
  • CTO:Radek Zenkl
  • 従業員数:約13名
  • 研究パートナー:Agroscope(スイス連邦農業研究機関)
  • 公式サイトhttps://caterra.org

Caterraは、スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETH Zurich)の作物科学研究グループから生まれたスピンオフ企業です。2021年にETH Zurich FoundationのPioneer Fellowshipに採択され、2023年に法人化しました。2022年にはVenture KickからCHF 10,000の初期資金を獲得し、2025年にはInnosuisseのスタートアップ・イノベーション・プロジェクトに採択、同年11月にはStartup NightsでDeep Tech Awardを受賞しています。アドバイザーにはETH Zurichの教授2名と現役農家1名が名を連ね、研究と現場の両面から技術を磨いています。

事業概要

Caterraは、レーザー技術とAIを組み合わせた自律型除草ロボットを開発・販売しています。化学除草剤を一切使わず、レーザー光線で雑草を除去するという新しいアプローチで、特に有機農業における手作業除草の負担を大幅に軽減します。2026年3月時点で、スイスとEUで9台が商業稼働中です。

プロダクト構成

Grasshopper(グラスホッパー)

Caterraの最初の製品である小型レーザー除草ロボットです。

  • 重量:約300kg(軽量設計で土壌圧縮を最小限に抑制)
  • トラック幅:1.5mまたは1.8m
  • ホイール幅:0.2m
  • 除草速度:80m/h
  • バッテリー稼働時間:16〜24時間
  • 駆動方式:完全電動(統合型充電ステーション付き)
  • ナビゲーション:GPS+カメラベース

2025年に11台が実農場でフィールドテストを実施。テスト作物はにんじん、玉ねぎ、チコリ、フェンネル、ほうれん草で、2025年にさらに10品目以上を追加。スイスの有機農場Holderhofでは有機ハーブ栽培でのトライアル契約が締結されています。70農家以上がウェイトリストに登録済みです。

Honeybee(ハニービー)

2026年3月に商業展開を開始した新型の大型モデルです。

  • 重量:1,300kg
  • レーザーモジュール:1モジュールあたり0.3m幅を処理。最大5モジュール搭載可能
  • 処理能力:24時間で約0.5ha(にんじん栽培・トラック幅1.5m・4畝・処理幅3mの場合)
  • ナビゲーション:RTK-GNSS+カメラベースの畝検出
  • 電源:完全電動、交換式バッテリー2セット(1日1回交換で24/7連続稼働)
  • 対応作物サイズ:高さ約25cmまで
  • 安全機能:接触式障害物センサー(物体・動物・人に接触すると即時停止)

価格はリース年額EUR 65,000(約1,050万円)、購入EUR 220,000(約3,550万円、4レーザー構成)です。2026年3月1日時点でスイスとEUで9台が稼働を開始しています。

技術の仕組み

AIを搭載した深層学習アルゴリズムが、カメラで取得した圃場画像から作物・雑草・土壌をリアルタイムで識別します。雑草と判定された植物にのみレーザーパルスを照射し、熱で組織を破壊します。数時間以内に雑草が枯死しますが、土壌を攪乱せず、近くの作物にもダメージを与えません。

特筆すべき特長として以下が挙げられます。

  • 作物保護ゾーン:AIが作物の周囲に保護ゾーンを設定し、葉へのダメージを防止
  • 湿潤条件での稼働:雨天後でもすぐに圃場に入れる(トラクターでは困難な条件)
  • 24/7自律運転:圃場の境界を一度手動で走行するだけで、以降はアプリで全操作を管理
  • 対応作物:全ての畝作物に対応可能。ただし新作物ごとに学習データ(各生育段階・気象条件の画像)が必要

どういう課題をどう解決しているか

有機農業では化学除草剤が使用できないため、除草は手作業・機械式除草・火炎除草に限られてきました。最大の問題は、作物の株元に生える雑草です。機械式除草(カルチベーター等)は畝間の雑草は除去できますが、作物から数cm以内に生える雑草には対応できません。この「最後の数cm」を処理するために、膨大な手作業が必要でした。

Caterraのレーザー除草はこの「最後の数cm」の問題を解決します。AIが作物と雑草を識別し、非接触でレーザーを照射するため、物理的に触れることなく株元の雑草を除去できます。さらに、300kg(Grasshopper)という軽量設計により、雨天後の軟弱な圃場でも土壌を踏み固めずに作業できる点は、大型機械にはない大きな利点です。

競合製品との比較

レーザー除草の分野では、米国のCarbon Roboticsが先行しています。Carbon RoboticsのLaserWeeder G2は毎時60万本の雑草を処理する大型マシンで、累計$97M以上を調達しています。一方、Caterraは小型・軽量・電動というアプローチを取っています。

  • Carbon Robotics:トラクター搭載型、大規模農場向け、米国市場中心
  • Caterra:自律走行型、中小規模の有機農場向け、欧州市場。リースEUR 65,000/年で導入障壁が低い
  • Ecorobotix(スイス):Series Dで$150M調達。レーザーではなく超精密微量散布(農薬使用70-95%削減)

また、Verdant Roboticsは毎秒270発の精密散布、Rootwaveは電気除草と、除草テクノロジーの分野は急速に多様化しています。

ビジネスモデル

  • 購入:Honeybee EUR 220,000(約3,550万円)
  • リース:Honeybee EUR 65,000/年(約1,050万円/年)
  • 共有利用モデル(計画中):複数農場間でロボットをシェアし、季節に応じて巡回

年間リースEUR 65,000は、手作業除草のコスト(有機農場では年間数万ユーロに達することがある)と比較すると、十分に競争力のある価格設定です。

今後の計画

  • スイス・EU市場でHoneybeeの販売・リースを拡大
  • 対応作物の拡大(現在はにんじん、玉ねぎ、チコリ等の畝作物が中心)
  • Grasshopperの量産化(70農家以上のウェイトリストに対応)

コメント

Caterraの強みは、有機農業×小型ロボット×リースモデルという組み合わせにあります。Carbon Roboticsが大規模慣行農業向けに大型マシンを販売するのに対し、Caterraはヨーロッパの中小有機農場という明確なターゲットに絞り、年間EUR 65,000のリースで導入障壁を下げています。

ヨーロッパでは有機農業の耕地面積がEU平均11.1%に達し、除草が最大のコスト要因です。EUの農薬規制強化(Farm to Fork戦略)もレーザー除草の追い風です。

日本でも「みどりの食料システム戦略」で2050年に有機農業面積25%(現在0.6%)という目標が掲げられており、除草の省力化ニーズは今後急速に高まります。Caterraのような小型レーザー除草ロボットは、日本の中小規模農家にも将来的に適合する可能性があります。

ETH Zurich+Agroscopeという研究基盤、既に9台の商業稼働実績、70農家以上のウェイトリスト。研究段階を脱して商業フェーズに入りつつある点が、他のアグリテックスタートアップと一線を画しています。

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