農業用アシストスーツの最新動向と選び方|海外研究・事例から見る効果と課題

農業は身体的負担が大きい産業です。特に収穫作業や中腰での作業は、腰痛をはじめとする筋骨格系障害(Work-Related Musculoskeletal Disorders: WMSDs)の主要な原因となっています。こうした課題を解決する手段として、近年注目を集めているのが農業用アシストスーツ(パワーアシストスーツ / エクソスケルトン)です。

本記事では、海外の最新研究や製品動向を中心に、農業用アシストスーツの効果・選び方・導入時の注意点を解説します。

農業における筋骨格系障害の深刻さ

農業従事者の腰痛や肩の障害は世界的な問題です。学術誌「Sensors」に掲載されたレビュー論文(2024年)によると、農作業における筋骨格系障害の51.9%は収穫作業が原因とされています。中腰での長時間作業、重量物の持ち上げ、頭上での繰り返し作業が主なリスク要因です。

こうした背景から、欧米を中心にエクソスケルトン(外骨格型アシストスーツ)を農業現場に導入する動きが加速しています。

海外の研究が示すアシストスーツの効果

オレゴン州立大学の農場実験(2020年)

米国オレゴン州立大学の研究チームは、実際の農場で14名の農業従事者にパッシブ型(非動力型)の腰部サポートエクソスケルトンを装着させ、持ち上げ作業や前傾姿勢での作業を行わせました。その結果は以下の通りです。

  • 静的な筋活動量:最大65%減少
  • 中央値の筋活動量:最大56%減少
  • ピーク筋活動量:最大48%減少

これは実際の農場環境でエクソスケルトンの効果を検証した先駆的な研究として高く評価されています。ただし一部の参加者では標準化されたタスクにおいて筋活動が増加するケースもあり、個人差があることも示されました。

フランスのブドウ園研究(2022〜2025年)

フランス南部ラングドック地方のブドウ園で、18歳から65歳までの33名のワーカーを対象に3つのパッシブ型エクソスケルトン(LiftSuit、Hapo、Exoviti)の比較試験が行われました。

  • 低い位置でのブドウ剪定作業:背筋の負荷を最大30%軽減
  • 高い位置(70cm以上)での作業:効果は限定的

この結果は、アシストスーツの効果が作業姿勢に大きく依存することを示しています。

果樹園での上肢エクソスケルトン研究

パッシブ型上肢エクソスケルトン(PULE)を果樹園作業に適用した研究では、三角筋前部の筋張力が以下のように低下しました。

  • 実験室条件:17.6〜19.9%減少
  • 実際の果樹園作業:37.7〜39.6%減少

実際の作業環境ではより大きな効果が得られるという興味深い結果です。

バッタの脚にヒントを得た最新研究(2026年)

2026年に「Journal of Field Robotics」で発表された研究では、バッタの脚の構造からインスピレーションを得た背部エクソスケルトンが開発されました。このデバイスは、第5腰椎と仙骨間の圧縮力を7.7%低減するという結果が報告されています。

代表的な製品の比較

現在市場に出回っている主な農業用アシストスーツを紹介します。

Auxivo LiftSuit 2.0(スイス)

  • タイプ:パッシブ(非動力)
  • 重量:約0.9kg
  • 効果:前傾姿勢での背筋活動を33%低減、繰り返し持ち上げ時のピーク背筋活動を21%低減
  • 特徴:テキスタイル素材で軽量。電力不要で100%機械式
Auxivo社の農業向けエクソスケルトンのウェブサイト
出典:Auxivo

HeroWear Apex 2(米国)

  • タイプ:パッシブ(非動力)
  • 効果:筋肉疲労を最大40%軽減、持ち上げ時の腰部負荷を20〜40%削減
  • 特徴:衣服のように着用可能。50以上のサイズ組み合わせ。航空機グレードのアルミニウム使用

Skelex 360 / Edge(オランダ)

  • タイプ:パッシブ(非動力)
  • Skelex Edge:前傾動作時の腰部負荷を最大44%軽減
  • 特徴:温室での剪定、結束、点検作業に対応。FlexFrame技術で動きの自由度を確保

Exoviti(フランス)

  • タイプ:パッシブ(非動力)
  • 価格:1,200〜1,800ユーロ
  • 特徴:ブドウ園専用設計。150回以上のフィールドテストを実施。通気性のある柔軟な素材

イノフィス マッスルスーツ(日本)

  • タイプ:パッシブ(人工筋肉駆動)
  • 代表製品:マッスルスーツ Every(約3.8kg)、Soft-Power(約430g)
  • 特徴:東京理科大学発の技術。Soft-Powerは腰部負荷を35%低減

アシストスーツ選びのポイント

作業内容との適合性

フランスのブドウ園研究が示すように、アシストスーツの効果は作業姿勢によって大きく異なります。導入前に、自分の農場でどのような姿勢の作業が最も多いかを把握することが重要です。

  • 中腰・前傾作業が多い場合:腰部サポート型(LiftSuit、Apex、Exoviti等)
  • 頭上作業が多い場合:上肢サポート型(Skelex 360等)
  • 両方の作業がある場合:複合型や複数デバイスの使い分け

パッシブ型とアクティブ型

現在の農業用アシストスーツの主流はパッシブ型(非動力型)です。バネやエラスティックバンドを使い、電力や充電が不要な点が農業現場との相性が良いためです。アクティブ型(モーター駆動)は補助力が大きい反面、重量・コスト・メンテナンスの面で課題があります。

重量と装着感

農作業は長時間にわたるため、装着感は非常に重要です。たとえばAuxivo LiftSuit 2.0は約0.9kgと軽量で、イノフィスのSoft-Powerも約430gと超軽量です。一方、Exovitiは約2.2kgあり、やや重くなります。

導入時の注意点と課題

海外の研究からは、いくつかの重要な課題も明らかになっています。

個人差と作業適合性

オレゴン州立大学の研究では、一部の参加者でエクソスケルトン装着時に筋活動が増加するケースがありました。また、上肢サポート型では脊柱起立筋への負荷増加が報告されており、ある部位の負荷軽減が別の部位への負荷増大につながる可能性があります。

筋力低下のリスク

専門家からは、アシストスーツの長期使用によりサポートされる筋肉が弱化する可能性が指摘されています。また、負荷が股関節、膝、足首などの他の関節に移行するリスクもあります。

現場での受容性

「Journal of Agricultural Safety and Health」に掲載された研究では、ドイツの野菜農場やフランスのブドウ園でのパイロット試験において、作業者がエクソスケルトンの使用を拒否するケースが報告されています。特定の作業や環境にスーツが適合しないことが主な理由でした。

コストと普及の壁

NIOSHは、産業用エクソスケルトンの効果とリスクに関する研究がまだ不十分であると指摘しています。また、農業従事者の多くがエクソスケルトン製品の存在自体を知らないという認知度の問題や、メーカーによる支払いプラン等の整備不足もあり、普及にはまだ時間がかかる状況です。

今後の展望

農業用アシストスーツは急速に進化しています。軽量化・低コスト化が進み、作業内容に特化した製品も増えてきました。特にパッシブ型は電力不要・メンテナンスフリーという点で農業現場との親和性が高く、今後さらに普及が進むと考えられます。

高齢化が進む日本の農業においても、アシストスーツは労働者の健康維持と生産性向上の両立を実現する重要なツールとなり得ます。導入にあたっては、海外の研究成果を参考にしつつ、自身の農場の作業内容に最適な製品を選定することが成功の鍵となるでしょう。

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