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直売所や産直、ネット販売を始めたものの、売上を伸ばす手がかりが見えない農業者は少なくありません。農林水産省は、直売所の取組事例集や6次産業化アワードの事例集で、売上や来場者数、雇用の推移を数字つきで公表しています。第三者が審査し、現地調査をした事例なので、自分の経営に当てはめて考えやすい資料です。
この記事では、農林水産省の資料に載った直売・直販の事例を10件選び、誰が何を売り、何をして、数字がどう変わったかを並べます。最後に、事例で共通していた行動と、自分の経営で試す順番もまとめます。数値はすべて資料に書かれたものだけを使い、資料に無い項目は「数値の記載なし」と書きます。
- 1 農水省はどんな資料で直売・直販の事例を公表しているか
- 2 直売・直販の優良事例10件を一覧で見る
- 3 10件の事例では誰が何をして、数字はどう動いたか
- 3.1 恵庭農畜産物直売所「かのな」は欠品防止と店長の価格調査で来場者を増やした
- 3.2 絵本の里けんぶち VIVAマルシェは軽トラックで人が集まる場所に出向いた
- 3.3 八紘学園農産物直売所は自校の乳製品を看板商品にして冬も集客した
- 3.4 どりいむ農園直売所は地元産だけを売り、会員の前払い契約で販路を広げた
- 3.5 元気くん市場仙台店は試食と会話で固定客を増やした
- 3.6 今採り農産物直売所 かしわでは研修で品揃えを整え、宅配も始めた
- 3.7 ひらど新鮮市場は全量買い取りと飛び込み営業でホテルや病院に販路を持った
- 3.8 友榮水産は加工品とネット販売で年間を通した売上を作った
- 3.9 オオヤブデイリーファームは展示会と通販でヨーグルトの売上を伸ばした
- 3.10 いえじま家族は島の小麦を全量買い取り、直売所とネットショップで売った
- 4 10件の事例に共通していた行動は何か
- 5 自分の経営で試す順番はどう考えるか
- 6 よくある質問
- 7 まとめ
- 8 関連記事
- 9 参考URL
農水省はどんな資料で直売・直販の事例を公表しているか
農林水産省は、直売所を中心とした取組事例集と、6次産業化アワードの受賞事例集の2系統で、売上などの数値つきの事例を公表しています。この記事では、直売所の取組事例集(平成28年5月)と、6次産業化アワードの平成30年度版および令和元年度版の事例集を使いました。
直売所の取組事例集は、平成28年1月時点で各地域の特徴的な取組を抜粋したものです。掲載の売上や出荷者数は平成26年から平成27年の数値で、最新の状況とは限りません。
6次産業化アワードの平成30年度版では、応募72件から第1次選考で19件に絞り、現地調査と3年間の財務データの確認を経て受賞者を決めたと、座長が書いています。審査基準には、地域資源の活用、販路拡大への取り組み、事業の継続性などが入っています。
直売・直販の優良事例10件を一覧で見る
10件の事例では、売上が2倍から7倍近くまで伸びたものがあります。いずれも直売所の運営、定期的な対面販売、ネット販売、加工品の開発のうち複数を組み合わせています。数値は資料に載った期間の比較で、期間は事例ごとに異なります。
| 事例 | 地域 | 主な販売手段 | 資料に書かれた主な数値 |
|---|---|---|---|
| 恵庭農畜産物直売所「かのな」 | 北海道恵庭市 | 直売所 | 売上6,431万円から4億4,410万円(平成19年から27年) |
| 絵本の里けんぶち VIVAマルシェ | 北海道剣淵町 | 軽トラマルシェ、ホテル・百貨店への直接販売 | 売上780万円から1,600万円(平成22年から26年) |
| 八紘学園農産物直売所 | 北海道札幌市 | 直売所、乳製品の加工販売 | 売上6,200万円から1億6,900万円(平成18年から26年) |
| 白鷹産直市場 どりいむ農園直売所 | 山形県白鷹町 | 直売所、会員制の前払い契約 | 売上6千万円から2億7千万円(平成17年から26年) |
| 元気くん市場仙台店 | 宮城県富谷町 | 直売所(試食と会話) | 売上1億6,500万円から5億5,000万円(平成16年から26年) |
| 今採り農産物直売所 かしわで | 千葉県柏市 | 直売所、宅配、農業体験 | 売上3億7,300万円から6億3,400万円(平成16年から26年) |
| 農事組合法人ひらど新鮮市場 | 長崎県平戸市 | 直売所、ホテル・病院への営業、ふるさと納税返礼品 | 売上3億5千5百万円(平成30年3月)。推移は数値の記載なし |
| 有限会社友榮水産 | 熊本県天草市 | 加工品、個人向けネット販売 | 加工品売上200万円から約800万円(2014年から2018年) |
| 株式会社オオヤブデイリーファーム | 熊本県合志市 | ヨーグルト等の通販、スーパー、百貨店 | ヨーグルト等の売上300万円から約6300万円(2012年から2018年) |
| 株式会社いえじま家族 | 沖縄県伊江村 | 直売所、ネットショップ、レストラン | 小麦の生産量5tから33t(2016年は17t、2017年は33t) |
10件の事例では誰が何をして、数字はどう動いたか
各節の末尾に出典を示します。
恵庭農畜産物直売所「かのな」は欠品防止と店長の価格調査で来場者を増やした
北海道恵庭市の恵庭かのな協同組合が運営する直売所です。市民が普段使いできる店を目指して始まりました。
予想を超える客数で品切れが起き、販売機会を逃しました。そこで、生産者ごとの販売状況を携帯電話にリアルタイムで知らせる欠品防止システムを入れています。鮮度が落ちた野菜は生産者が店頭から引き取る仕組みを作り、店長が市場相場や地域の価格を調べて他店に負けない価格を保ちました。
資料の数値では、売上高が平成19年の6,431万円から平成27年の4億4,410万円へ、8年で6.9倍になりました。年間来場者数は89,688人から328,854人、出荷者数は45戸から68戸、雇用者数は4人から14人に増えています。
出典:直売所取組事例集(農水省、2016年)
絵本の里けんぶち VIVAマルシェは軽トラックで人が集まる場所に出向いた
北海道剣淵町のJA青年部員13人が平成22年に始めた、軽トラマルシェです。駅前広場や近隣都市のショッピングセンターなど、人の集まる場所で野菜を売りました。平成24年に任意団体を発足し、道内外で年間約30回の開催に加え、ホテルや百貨店、消費者への直接販売も行っています。
知名度ゼロから始めたため、軽トラックによる移動販売や多様な品揃えという特徴を新聞や雑誌に売り込みました。栽培は27品目360品種です。お客さんの声を直接聞いた結果、野菜の種類を増やす動きや、野菜ソムリエの資格を取って調理法を伝える動きが出ています。
売上高は平成22年の780万円から平成26年の1,600万円に、出荷者数は13人から18人になりました。雇用者はいません。
出典:直売所取組事例集(農水省、2016年)
八紘学園農産物直売所は自校の乳製品を看板商品にして冬も集客した
札幌市の学校法人八紘学園が運営する直売所です。学生が生産物を商品にすることを学ぶ場として開設しました。地元生産者から仕入れる野菜は全量買い取りにしています。
自校の生乳だけを使った牛乳、ヨーグルト、ソフトクリームを看板商品に育てました。乳製品の営業許可は取得に時間がかかり、2年間粘り強く相談して許可を得ています。乳製品の通年販売を望む声に応えて、平成25年から冬季の営業も始めました。
売上高は平成18年の6,200万円から平成26年の1億6,900万円に、雇用者数は平成17年の2人から平成27年の7人になりました。資料には、乳製品を通年で売ることで冬の集客力が上がり、地元生産者の野菜や漬物の冬の販路も確保できたと書かれています。
出典:直売所取組事例集(農水省、2016年)
どりいむ農園直売所は地元産だけを売り、会員の前払い契約で販路を広げた
山形県白鷹町の有限会社どりいむ農園が運営する直売所です。地域を1つの農場とみなす構想を掲げ、過疎に悩む地域の活性化を目的にしています。販売するのは地元産に限り、仕入品は扱いません。
地元産だけだと冬に野菜が不足するため、ハウス栽培の野菜と、地域の食文化である越冬野菜、干し物野菜、塩蔵物で補っています。資料の図には、作付け前に前払い契約を結ぶ会員制のネット販売も載っています。
売上高は平成17年の6千万円から平成26年の2億7千万円に、出荷者数は40人から220人に、雇用者数は6人から10人になりました。
出典:直売所取組事例集(農水省、2016年)
元気くん市場仙台店は試食と会話で固定客を増やした
宮城県富谷町の株式会社みどりのサービスが運営する、JAみどりのファーマーズマーケットです。生産者の顔が見える安全で安心な地場産農産物を大消費地の仙台圏へ届けるという考え方で、平成16年に店を設けました。
出荷者の商品から試食品を作り、調理方法を説明しながら消費者と会話しています。生産者が小売価格を参考に値決めする方式です。生産地域から店舗までの運搬は直売所が担い、出荷農家の負担を減らして出荷者を増やしました。
売上高は平成16年の1億6,500万円から平成26年の5億5,000万円に、出荷者数は440人から600人に、雇用者数は8人から16人になりました。年間約32万人が利用し、宣伝に頼らず口コミで固定客が増えたと資料は書いています。
出典:直売所取組事例集(農水省、2016年)
今採り農産物直売所 かしわでは研修で品揃えを整え、宅配も始めた
千葉県柏市の株式会社アグリプラスが運営する直売所です。地域の農家15人が集まり、平成16年に開設しました。出荷農家が共同選別出荷に慣れていたため、直売に向いた少量多品目の出荷にならず、午前中に商品棚が空く状態でした。
地域別の座談会や研修会、先進事例の直売所の視察を繰り返し、品数を増やしました。柏市と流山市の買い物弱者には宅配もしています。
売上高は平成16年の3億7,300万円から平成26年の6億3,400万円に、出荷者数は120人から230人に、雇用者数は23人から45人になりました。
出典:直売所取組事例集(農水省、2016年)
ひらど新鮮市場は全量買い取りと飛び込み営業でホテルや病院に販路を持った
長崎県平戸市の農事組合法人です。平成30年度の6次産業化アワードで奨励賞(地方創生貢献賞)を受けました。1999年に、前年まで朝市をしていた16人が1人1万円を出資して直売所を開設しています。
契約栽培した生産品を全量買い取り、出荷ロスの軽減につなげました。市内に大型の直売所が開設された際は、加工所を持つ強みを生かし、豆腐、漬け物、巻きずしなどの加工品と鮮魚部門で経営を安定させています。地元の伝統野菜である木引かぶは、生鮮では売りにくいため甘酢漬けとドレッシングにして購入者を増やしました。大きな売上になるホテルや病院との取引は、1軒ずつ飛び込み営業で開拓し、調理方法も提案しています。ふるさと納税の返礼品にも商品を出しています。
売上高は3億5千5百万円(平成30年3月)、従業員は25人です。売上の推移は数値の記載なしです。
出典:平成30年度アワード事例集
友榮水産は加工品とネット販売で年間を通した売上を作った
熊本県天草市の有限会社友榮水産です。生きた車海老の出荷は冬期に限られ、価格の変動も大きかったため、年間を通じた経営の安定を目指して2017年に自社の加工施設を建てました。急速冷凍の車海老や、パテ、グラタンを商品化しています。
チラシ配布などの地道な広報を続け、豪華客船や列車で使われるなど販路が広がりました。加工品の売上は2014年の200万円から2018年に約800万円と4倍です。2013年に独立した個人向けネット販売会社は、地域の農林水産業者100事業者と契約して生産物を売っています。車海老を目的にサイトを訪れた人が農産物も買う波及があり、年間売上は1億円を超えたと資料は書いています。
出典:平成30年度アワード事例集
オオヤブデイリーファームは展示会と通販でヨーグルトの売上を伸ばした
熊本県合志市の酪農家で、平成30年度の6次産業化アワードで農林水産大臣賞を受けました。自家製堆肥で育てた飼料でジャージー牛乳などを生産し、2012年からヨーグルトなどを製造販売しています。熟成式で二層になる珍しいヨーグルトを、試作を繰り返して開発しました。
営業の経験がなかったため、6次産業化サポートセンターや中小機構、熊本県商工会連合会の専門家派遣を利用しています。東京、大阪、名古屋、福岡の展示会に積極的に参加し、ネット通販やスーパー、百貨店へ販路を広げています。
ヨーグルトなどの売上は、加工を始めた2012年の300万円から2018年に約6300万円になりました。会社全体の売上は、平成23年12月の5千万円から平成29年12月の1億1千万円です。牛乳だけでなく加工品からも利益を得られるようになり、経営が安定したと資料に書かれています。
出典:平成30年度アワード事例集
いえじま家族は島の小麦を全量買い取り、直売所とネットショップで売った
沖縄県伊江村の株式会社いえじま家族です。令和元年度の6次産業化アワードで食料産業局長賞を受け、2016年にはディスカバー農山漁村(むら)の宝の優良事例にも選ばれています。小麦の生産と加工、直売所の運営が事業内容です。
島内の農家から遊休農地を借りて小麦を作り、いえじま小麦生産者事業組合から小麦を全量買い取っています。自社の加工場で製粉し、小麦チップス「ケックン」を製造しました。ネットショップを開設し、港内のレストランでは島産小麦のそばを観光客に出しています。
小麦の生産は5tから始まり、2016年に17t、2017年に33tになり、伊江島の特産品の中で売上が1番になりました。売上高は7,600万円(2018年8月期)で、人口約4千5百人の離島で20人以上の雇用を生んだと資料は書いています。
出典:令和元年度アワード優良事例集(農水省、2020年)
無料テンプレート:総合化事業計画の下書き(6次産業化)
加工や直売に取り組む前に、事業の内容と数値目標を整理するための下書きです。Excel/PDF、登録不要。
10件の事例に共通していた行動は何か
資料の記述から読み取れる共通の行動は、次の4点です。いずれも各資料に書かれた事実に基づいています。
- 来場者や取引先の声を聞いて売り方を変えている
- 品揃えと在庫を管理する仕組みを作っている
- 加工品や体験で、生鮮の売れにくい時期や品目を補っている
- 出荷者や生産者を増やし、全量買い取りなどで供給を確保している
けんぶちは客の声から品目を増やし、元気くん市場は試食と会話で固定客を増やしました。生鮮の弱い時期を補った例は、八紘学園の乳製品による冬季の集客、どりいむ農園の越冬野菜、ひらど新鮮市場の木引かぶ加工品、友榮水産の冬期以外の売上を作る加工品です。
供給の確保では、八紘学園、ひらど新鮮市場、いえじま家族が全量買い取りを採用しています。元気くん市場は店舗までの運搬を直売所が担い、出荷者を増やしました。
自分の経営で試す順番はどう考えるか
事例の順序から見ると、まず小さく売って声を集め、次に品揃えと在庫の管理を整え、そのあと加工やネット販売へ広げる流れが多く見られます。資料に書かれた範囲で、次の順番を組み立てました。
- 今ある販売先で、買った人の声を聞き取る。軽トラマルシェや直売所の店頭での会話が該当します。
- 欠品と余りの記録を取る。かのなは生産者ごとの販売状況を見える化して欠品を防ぎました。
- 売れにくい時期や品目を一覧にし、加工品や体験で補えるか検討する。八紘学園や友榮水産が参考になります。
- 加工品を作る場合は、営業許可と専門家の支援を先に確認する。八紘学園は許可の取得に2年かかり、オオヤブデイリーファームは専門家派遣を使いました。
- ネット販売やホテル、病院などの取引先へ広げる。ひらど新鮮市場は飛び込み営業、オオヤブデイリーファームは展示会で開拓しています。
日本全体の販売先の実態はhttps://smartagri.jp/p/10464/で確認できます。販路の考え方全体は農業の販路開拓に、出荷時の書類は出荷伝票の書き方にまとめています。直売所に納品する書類は直売所の納品書テンプレートが使えます。
よくある質問
事例の数値は今の直売所にも当てはまりますか
当てはまるとは言い切れません。直売所の取組事例集の数値は平成26年から27年のもので、事例ごとに期間も異なります。資料の売上の伸びは、その事業者の条件での結果として読み、自分の経営の目標は別に立てる必要があります。
直売所を新しく作らないと、これらの事例は参考になりませんか
参考になります。絵本の里けんぶちは軽トラックでの移動販売から始め、友榮水産はネット販売を中心にしています。直売所の建物を持たない事例も、同じ資料に載っています。
加工品を作るには何から始めればよいですか
営業許可の確認から始めます。八紘学園は乳製品の営業許可の取得に2年間相談を続けました。オオヤブデイリーファームは、専門家派遣を使って事業計画と販路開拓の方法を整理しています。
まとめ
農林水産省が公表した直売・直販の事例では、売上が2倍から約7倍に伸びた事業者が、来場者の声の聞き取り、欠品を防ぐ仕組み、加工品や体験による補完、全量買い取りによる供給の確保を実施していました。自分の経営では、買った人の声と欠品の記録から始め、売れにくい時期の対策、加工、ネット販売の順に広げる進め方が事例から読み取れます。数値は事例ごとに期間と条件が違うため、目標は自分の販売実績から決めてください。
関連記事
- https://smartagri.jp/p/10464/
- https://smartagri.jp/p/10463/
- https://smartagri.jp/p/10465/
- https://smartagri.jp/p/10466/
- 農業の販路開拓