微生物資材(バチルス・PGPR)の効果 実証事例集|作物別データと出典【2026年版】

微生物資材(バチルス・PGPR・光合成細菌・納豆菌など)を作物に使うと、実際どれだけ効果があるのでしょうか。このページは、メタ分析・査読論文・農研機構などの国内公的試験を横断して、「作物ごとの効果と、その根拠となる出典」を一覧できる実証事例集です。

このページの方針:対照区との比較が明記された試験・メタ分析・査読論文・公的試験だけを採用しています。メーカーの前年比・聞き取りベースの数値は掲載していません。効果が出なかった・条件に依存した事例も同じ基準で載せています。微生物資材は「効かないことも多い」資材なので、その実態も正直に示します。

はじめに:微生物資材は「定着できるかどうか」で決まる

微生物資材は、有用な菌を土や種子に施用して、生育促進・病害抑制・養分供給を狙う資材です。ただし生きた菌を使うため、効果は「その菌が現場でちゃんと定着・機能できるか」に強く左右されます。

  • 土着菌・温度・農薬履歴に負ける:畑には元々多様な微生物がいて、施用した菌がそこに定着できないと効果は出ません。同じ資材でも土壌タイプで定着率が変わります。
  • ストレス下・痩せ地でこそ効く:乾燥・塩ストレス下、低リン・無窒素の土壌で効果が大きくなります。
  • 菌株差が非常に大きい:同じ属(バチルス等)でも、当たり外れが大きいのが実態です。

全体像:メタ分析でわかる平均効果と「効かない菌」

  • バイオ肥料で平均収量+16.2%、気候で大差(171論文・1,726比較)【メタ分析】…乾燥気候+20.0%/熱帯+14.9%/大陸性+8.5%と気候で倍以上の差。窒素固定菌+リン可溶化菌の併用が単用より有効(2018年)。出典(Frontiers in Plant Science, 2018)
  • PGPRは乾燥ストレス下で収量+40%(52論文)【メタ分析】…灌水十分だと収量+19%だが、乾燥下では+40%に拡大。ストレス下でこそ効く(2017年)。出典(Plant and Soil, 2017)
  • 【重要】トウモロコシではBacillus・Enterobacter・Pantoeaは有意な収量増なし(70論文)【メタ分析】…圃場平均+15.3%だが、これらの菌属は信頼区間が0をまたぎ有意差なし。圃場で効いたPGPR形質はACCデアミナーゼのみで、リン可溶化・窒素固定・ホルモン産生は圃場では優位性なし。「バチルスなら効く」わけではないことを示す重要データ(2018年)。出典(FEMS Microbiology Ecology, 2018)
  • 大豆の根粒菌×PGPR共接種は根粒は増えるが子実収量は有意差なし(42論文)【メタ分析】…根粒数+11%等は有意だが、肝心の子実収量は信頼区間が0をまたぐ。効果はポット>圃場(2019年)。出典(PeerJ, 2019)
  • アゾスピリラム×トウモロコシは追肥窒素を増やすほど効果が消える(26試験)【メタ分析】…全体平均は+651.58 kg/haだが、窒素無施用条件では+1,034.28 kg/ha(p<0.001)と大きい一方、高N(>100kg/N)では+287 kg/haで有意差なし。窒素1kg増えるごとに接種効果が約4.36 kg/ha目減りする関係で、減肥とセットでこそ意味があることを示します(2018年)。出典(Bragantia, 2018)

日本国内の公的試験データ

  • 野菜40品目でバチルス資材が生育促進(40品目中31品目で正の効果)【公的試験】…香川大学・東京農工大学ほか。バチルス属バイオ肥料で地上部乾物重が無処理区比で平均116〜132%。40品目中31品目で正の生育促進、インゲン・オクラ・コマツナで統計的有意差(2020年)。出典(日本作物学会四国支部)
  • 水稲でバチルス資材(TUAT1株)が収量+10〜15%・低温時の出芽向上【公的】…農研機構・東京農工大・福島。バチルス・プミルスTUAT1株を種子に施用し、発根促進・最終収量10〜15%増、15℃低温時の土中出芽率も向上。直播向けの浸漬法も開発。出典(農研機構 成果情報)
  • ダイズで選抜根粒菌が収量+20%以上・N2O排出−50%【公的】…農研機構 革新的技術開発プロジェクト。圃場で選抜した根粒菌集団により増収と温室効果ガス削減を両立(平成30〜令和2年)。出典(農研機構)
  • 納豆菌がイチゴ灰色かび病を抑制【査読】…茨城大学。市販納豆由来の納豆菌(Bacillus subtilis var. natto)が灰色かび病菌の生育と発病進展を抑制(日本植物病理学会報, 2012)。出典(日本植物病理学会報)
  • 水稲で国産のアゾスピリラム(B510株)が分げつ数+8.6%(実水田)【査読】…東北大学。日本の水田で内生窒素固定菌 Azospirillum sp. B510 を接種し、移植46日後で分げつ数+8.6%(p<0.05)、草丈+3.1%。先行研究では種子収量の有意増や、いもち病・白葉枯病への誘導抵抗性も報告。効果は一桁%と控えめで、誇張のない国産データとして貴重です(2013年)。出典(Microbes and Environments, 2013)
  • トマト根腐萎凋病を発病3週後→7週後へ遅延(シュードモナス)【公設試】…兵庫県立農林水産技術総合センター。Pseudomonas fluorescens FPH9601株の処理で、圃場での発病を無処理の移植約3週後から約7週後へ遅延させ、その後の進展も緩慢に。ただし病原密度が約10^7個/mLを超えると抑制は効かず、病原密度が高い圃場では限界があることも示されています(2008年)。出典(雑草研究, 2008)

光合成細菌(イネ・トマト)

  • イネで子実収量+33%・倒伏抵抗性向上(葉面散布)【査読論文】…台湾。光合成細菌 Rhodopseudomonas palustris の葉面散布で、収量5.42→8.10 t/ha、根乾重+57%、有効分げつ+26%(2022年)。出典(Plants, 2022)
  • トマトで可販果+37%・糖度・ビタミンCも向上(有機圃場)【査読論文】…台湾。光合成細菌 R. palustris PS3 を根圏施用。可販果+37%、糖度+12%、ビタミンC約3倍、リコペン+19%(2022年)。出典(Frontiers in Microbiology, 2022)

バチルスの海外圃場試験(土壌条件で効果が激変)

  • トウモロコシで低リン土壌+16〜22%/肥沃土壌では+3〜6%【査読論文】…ブラジル。リン可溶化バチルス。低リン土壌では大きく効くが、肥沃な土壌ではほとんど効かないという土壌依存の好例(2024年)。出典(Frontiers in Microbiology, 2024)
  • ダイズで塩害アルカリ土の収量+18%(バチルス×根粒菌)【査読論文】…中国。共接種でストレス土壌の収量を改善(2025年)。出典(Frontiers in Plant Science, 2025)
  • 加工用トマトで収量+52%だが菌株で大差(バチルス複数菌株)【査読論文】…ギリシャ・圃場。無接種対照(2.37 kg/株)比で、B. licheniformis が+51.94%(3.60 kg/株)、B. subtilis が+45.87%と大きく増収した一方、果実重の伸びは B. amyloliquefaciens で+28.81%にとどまるなど、同じバチルスでも菌株の選び方で結果が大きく変わることを示します(2021年)。出典(Agronomy, 2021)
  • 【条件依存】細菌の定着は土壌タイプで変わる【査読論文】…ドイツ。同じ処方でも、ある菌株は土壌タイプで定着率が変わり、別の菌株は非依存だった。効果のばらつきの根本原因を示す(2014年)。出典(PLOS ONE, 2014)
  • 【減収あり】アゾスピリラムはサイトによって+11%にも−10%にもなる(トウモロコシ)【査読論文】…フランス・4サイト×2年。Azospirillum lipoferum CRT1 を接種したところ、サイト・年により+7.9%・+11.2%の有意増もあれば、−10.8%・−10.0%の有意減もあり、残り3ケースは有意差なし。効果が出たのは苗立ち率が約80%を下回った圃場に限られ、好条件の圃場ではむしろ減収した圃場非再現の最重要級の反証事例です(2017年)。出典(Scientific Reports, 2017)

病害抑制(生物農薬として)

微生物のなかには、農薬登録された「微生物農薬(生物農薬)」として病害防除に使われるものもあります。生育促進資材より効果が安定しており、有機栽培でも使える点が特徴です。

  • キュウリのフザリウム萎凋病を圃場で30〜45%防除(バチルス)【査読論文】…中国。Bacillus velezensis F9。2圃場で防除率に幅(33〜45%)があり、圃場ごとのばらつきも示す(2024年)。出典(Microorganisms, 2024)
  • ナス灰色かび病で化学農薬を9回→3回に削減(ボトキラー)【公的】…大阪府農林技術センター。バチルス・ズブチリス水和剤(ボトキラー)で、化学農薬散布を1/3に減らしつつ同等の防除効果(農研機構 成果情報)。出典(農研機構)
  • トマト青枯病を圃場で回避(シュードモナス単用で健全株96%)【査読論文】…ネパール・圃場。無処理では健全株が37%しか残らない青枯病(Ralstonia)に対し、Pseudomonas fluorescens 単用で96%、Trichoderma との併用で97%、Trichoderma 単用92%が発病を回避し、化学防除(94%)に匹敵〜上回りました。一方で Bacillus subtilis 単用は84%と菌種によって防除力に差が出ています(2018年)。出典(International Journal of Microbiology, 2018)
  • トマトのフザリウム萎凋病を防除価82.7%(トリコデルマの揮発性物質)【査読論文】…中国・温室。Trichoderma atroviride LZ42 が放つ揮発性物質(6-pentyl-2H-pyran-2-one)で防除価82.69%を示し、化学薬剤カルベンダジム(87.15%)に匹敵。地上部乾物+37.03%、根乾物+31.25%と生育も促進しました。ただしこれは苗レベルの温室試験で、圃場データではない点に注意が必要です(2022年)。出典(Frontiers in Microbiology, 2022)
  • イネいもち病を防除価74.9%・千粒重も改善(バチルス)【査読論文】…バングラデシュ・ポット試験。Bacillus velezensis BDKishJoy-6B の苗バイオプライミングで、発病率23.33%(対照86.67%)、防除価74.85%を示し、千粒重15.13g(対照9.6g)、根長も改善。防除と生育促進の両面が出ていますが、圃場ではなくポット試験である点は割り引いて読む必要があります(2024年)。出典(Frontiers in Microbiology, 2024)
  • 【効果なし】ジャガイモは病害を抑えても塊茎収量は変わらず(シュードモナス)【査読論文】…ドイツ。黒あざ病は3土壌すべてで抑制したが、塊茎収量には効果がなかった。「病害抑制=増収」ではないことを示す(2018年)。出典(Frontiers in Microbiology, 2018)

病害と収量の両取り・条件つきの成功例(コンソーシアム/併用)

複数の菌を組み合わせたり、太陽熱消毒などの物理防除と併用したりすると、病害抑制と増収の両方が得られた事例があります。ただし「単剤の効果」ではなく、あくまで併用・組み合わせが前提である点に注意してください。

  • ジャガイモそうか病を−50%・収量+32%(バチルス×トリコデルマ)【査読論文】…中国・圃場2年。Bacillus subtilis と Trichoderma harzianum のコンソーシアムを300 kg/ha 施用し、そうか病を2016年−46.1%・2017年−50.2%抑制、収量は2016年+28.1%(55,877 vs 43,642 kg/ha)・2017年+31.8%(51,611 vs 39,179 kg/ha)と、病害抑制と増収を同時に達成しました(2019年)。出典(Frontiers in Microbiology, 2019)
  • イチゴ黒根腐病を−74%・収量+150%(トリコデルマ×太陽熱消毒)【査読論文】…エジプト・圃場2試験。太陽熱消毒と Trichoderma asperellum のアルギン酸ペレットを併用し、発病率−59.3〜74.1%、重症度−72.5〜75.2%、収量は19.5 vs 7.7 t(+153%)・18.5 vs 7.4 t(+150%)。ただし効果は太陽熱消毒との併用が前提で、トリコデルマ単独の効果ではない点に留意が必要です(2024年)。出典(Frontiers in Microbiology, 2024)
  • 【部分的にしか効かない】イチゴは増収するが品質効果は菌株次第(トリコデルマ)【査読論文】…イタリア・温室。試験期間中に病害が出なかった条件での純粋な生育促進として、総収量は T. harzianum TH1 で+38%、T22 で+35%、GV41 で+29%と増収した一方、抗酸化能は GV41 の+8%のみ有意で、T22はほぼ効果がありませんでした。増収はしても品質改善は菌株次第という部分効果を示します(2020年)。出典(Agronomy, 2020)

まとめ

微生物資材は、乾燥・塩ストレス下や低リン土壌で収量+15〜40%、病害抑制でも農薬削減の効果がメタ分析・査読論文・国内公的試験で確認されています。日本でも農研機構が水稲・ダイズで、香川大学が野菜で、東北大学が国産のアゾスピリラムで増収を実証しています。一方で、肥沃な土壌では効かない、追肥窒素を増やすと効果が消える、圃場ではむしろ減収する、菌株によっては品質が変わらない、病害を抑えても収量は変わらないなど、効果が出ない条件も同じ数のエビデンスで示されています。生きた菌が現場で定着・機能できるかが鍵で、「入れれば効く」資材ではありません。

参考URL

※本ページの数値は各出典の特定条件下での実証値です。対照区つきの試験・メタ分析・査読論文・公的試験を採用し、メーカーの前年比・聞き取りベースの数値は掲載していません。効果は菌株・土壌・作物・環境で大きく異なります。