CO2施用(炭酸ガス施用)の効果 実証事例集|作物別の増収データと出典【2026年版】

ハウスや温室でCO2(炭酸ガス)を施用すると、作物の収量や品質は実際どれだけ上がるのでしょうか。このページは、日本の農業試験場・農研機構の試験と海外の査読論文を横断して、「作物ごとのCO2施用効果と、その根拠となる出典」を一覧できる実証事例集です。装置のしくみや選び方は「炭酸ガス発生機(CO2発生装置)とは?」、ハウスの環境制御全体は「農業用環境制御システムとは」もあわせてご覧ください。

このページの方針:対照区(無施用区)との比較が明記された試験・公的機関(都道府県試験場・農研機構)の試験・査読論文だけを採用しています。数値はいずれも特定の条件下での実証値です。効果が小さかった事例や、施用がかえって不利になる条件も同じ基準で載せています。

はじめに:CO2施用は「光合成が回る条件」でこそ効く

植物は光合成でCO2を吸収して育つため、ハウス内のCO2濃度を大気(約400ppm)より高めると光合成が促進され、増収につながります。ただし効果は条件に強く依存します。

  • 光が弱い時間帯・曇天では効きにくい:光合成が活発な晴天・日中に施用してこそ効果が出ます。日の出前や弱光時の施用は効果が薄いと報告されています。
  • 換気とのトレードオフ:窓を開けるとせっかくのCO2が逃げます。高温期は換気が優先されるため、施用は停止・低濃度化するのが一般的。局所施用(株元に集中的に供給)なら換気中でも活用できます。
  • 窒素などが足りないと頭打ち:キュウリ・ピーマンでは十分な施肥がないとCO2を増やしても効果が出にくくなります。
  • 高濃度は食味・栄養の低下を招くことも:過度な高CO2ではアミノ酸やビタミンCが減る報告もあります。
  • 濃度には飽和点があり、上げすぎは無益・逆効果:C3作物の光合成は概ね1,000〜1,500ppmで頭打ちになり、それを超える超高濃度は増収に寄与しないばかりか減収を招く報告もあります。

イチゴ

  • 商品果収量+約25%・糖度+0.2〜1.2(無換気時800ppm)【公的】…佐賀県農業試験研究センター。「さがほのか」で、常時400ppmの対照に対し無換気時800ppm管理区が商品果収量+25%、光合成速度は約1.6倍、収益は約+87千円/a(2014〜2017年度)。出典(佐賀県試・生物環境調節)
  • 局所施用で可販果収量+22%・燃油−27%(全体施用比)【公的】…農研機構 九州沖縄農業研究センター。「恋みのり」を800ppm制御し、株元への局所施用にすることで、全体施用より効率が約4倍、燃油も削減(2022年公表)。出典(農研機構 成果情報)
  • 局所施用で全体施用比 収量+15%・一果重+14%(上限600ppm)【公設試】…愛媛県農林水産研究所。「紅い雫」で、株元へ生ガスを局所施用(日出1時間後〜日入2時間前、上限600ppm)した区が、ハウス全体施用区(7〜8時1,000ppm/8〜17時400ppm)に対し収量+15%・一果重+14%。低濃度・少量で全体施用を上回った実証(令和6年度=2024実施)。出典(愛媛県農林水産研究所)
  • 高設栽培・朝施用1,000ppmで総収量+15〜36%(品種で最適時間帯が異なる)【公設試】…福岡県農業総合試験場。CO2濃度1,000ppmで、「あまおう」は朝(6〜10時)施用が最適で2〜3月収量+46%・5月まで総収量+15%、「さがほのか」は朝+夕施用で総収量+36%(朝施用のみは+19%)。品種ごとに最適な施用時間帯を切り分けた(研究報告30号, 2011年)。出典(福岡県農業総合試験場 研究報告, 2011)(研究報告30号。SSL証明書の都合でリンク省略)
  • 光合成速度は1,000ppm以上で頭打ち(2,000ppmでも収量差なし=過剰施用は無益)【公設試】…同・福岡県農業総合試験場。イチゴ高設栽培の光合成-CO2曲線を実測し、光合成速度は1,000ppm以上で頭打ちとなり、2,000ppmに上げても生育・収量に差が出なかった。濃度の上げすぎに実益がない限界を示すデータ(研究報告30号, 2011年)。出典(福岡県農業総合試験場 研究報告, 2011)(研究報告30号。SSL証明書の都合でリンク省略)
  • 高温下では逆効果:720ppm×25/20℃で果実収量−12〜35%(限界事例)【査読論文】…浙江師範大学ほか。「豊の香」で、低温区(20/15℃)では720ppmが増収したが、高温区(25/20℃)では720ppmが果実収量を低窒素で−12%・高窒素で−35%と減少させた。高CO2で糖度(甘味指数)は上がる一方、抗酸化能・果実中の窒素やミネラルは低下。温暖化・夏季施用の警鐘となる条件依存事例(対照360ppm vs 720ppm, PMC, 2012年)。出典(PMC3404062, 2012)

トマト

  • 1株可販果収量が8.7kg→12.1〜12.3kg(+39〜41%)(1000ppm)【公的】…愛知県農業総合試験場。「りんか409」で、無施用に対し午前施用・日中施用がいずれも約+40%。日中施用は厳冬期の増収に効果的(愛知農総試研報, 2016)。出典(愛知県農総試 研究報告)
  • 低濃度500〜600ppm管理でも可販収量+4〜5%・糖度+0.3・空洞果減【公的】…茨城県農業総合センター。従来の1000〜1500ppmではなく低濃度管理で、増収は小さいが糖度向上と空洞果率の低下(28.4%→10.9%等)が得られた。低コストで品質を狙う条件依存の好例(2010年)。出典(茨城県農総センター)
  • CO2施用に加湿を安易に併用すると養分吸収が抑制されうる(落とし穴)【公的】…農研機構 野菜茶業研究所。「りんか409」の養液栽培で、CO2施用にミスト加湿を組み合わせると乾物重は増えるが、気温が低く換気が少ない条件では高湿度時間が延びて蒸散が落ち、吸水量の減少とともに葉のN・P・K・Ca・Mg濃度が低下しうる。蒸散を確保する送風併用が必要という注意喚起(成果情報, 2015年)。出典(農研機構 成果情報, 2015)
▼ PR / 当サイト広告主・大学との共同研究データ

高圧ガス工業「炭酸マスター」(生ガス式の局所CO2施用システム)は、愛媛大学 植物工場研究センターとの共同研究データを公表しています。ハウス内400ppm(9〜17時)維持区と無施用区の比較で、トマトの月平均収量+29%、灯油燃焼式に対し純利益+10%(2016〜2020年)。強日射下ほど施用効果が上がる傾向も個葉光合成測定で確認。

出典:高圧ガス工業「農業用炭酸ガス施用研究の成果」(愛媛大学との共同研究) ※当サイトは高圧ガス工業の広告掲載先です。数値はメーカー・大学の共同研究による公表値です。

キュウリ

  • 73論文の統合で収量+22.0%・純光合成+56%(推奨800〜1200ppm)【メタ分析】…中国のグループが73本を統合。バイオマス+27.8%、蒸散は−30%(水を節約)。ただし査読前のプレプリント(2025年)。出典(bioRxiv, 2025・査読前)
  • 作物別レンジで収量+16.2〜41%(窒素が律速)【査読論文】…英国エセックス大学の総説。CO2 450〜3000ppmでキュウリは+16.2〜41%、ただし窒素施肥が足りないと効果が出にくい(Horticulture Research, 2023)。出典(Horticulture Research, 2023)
  • 低濃度500ppm長時間で上物収量+55%・収益+9.6万円/10a(高濃度短時間より有利)【査読論文】…千葉県農業総合研究センター。促成栽培キュウリ「ハイグリーン21」で、500ppmを7時間施用した長期区は上物収量が無施用比+55%、1,000ppmを短時間施用した区は+39%。500ppm長時間の方が上物・総収量とも15〜16%多く、CO2使用量は9%少ない。CO2代・装置費差引後の収益増は500ppm区で96,100円/10a、1,000ppm区で58,220円/10a(園芸学研究, 2009年)。出典(園芸学研究 8(4), J-STAGE, 2009)

ピーマン・パプリカ

  • 650ppmで地上部乾物が有意増、ただし葉の窒素・葉緑素は低下(栄養希釈)【査読論文】…スペイン国立研究会議(CSIC)ほか。ベルペッパー「California Wonder」で、対照400ppmに対し650ppm区は草丈・葉/茎/地上部乾物が有意に増加(p≤0.018)した一方、葉の窒素含量とSPAD(葉緑素)は有意に低下(p<0.001)した。冠部温度は+1.2℃。生育促進と栄養希釈が同時に起こる限界を示す(PMC, 2016年)。出典(PMC4705479, 2016)
  • 高CO2で害虫・ウイルスが抑制される副次効果も【査読論文】…同・CSICほかのベルペッパー試験。650ppm区ではモモアカアブラムシの繁殖が−37%・世代時間が11%延長し、CMV(キュウリモザイクウイルス)の伝播も約2分の1に低下した。増収以外の付随効果として報告されている(PMC, 2016年)。出典(PMC4705479, 2016)

レタス・葉菜(濃度の飽和点)

  • 400→1,500ppmで多くの葉菜が増収、ただし超高濃度6,000ppmはレタスで減収【査読論文】…NASA ケネディ宇宙センター。レタス(Dragoon/Outredgeous)、マスタード、パクチョイ、ケール、チャードを400/1,500/3,000/6,000ppmで4週間栽培。1品種を除く全種で高CO2により地上部生鮮重が増加した一方、超高濃度6,000ppmでは両レタス品種の地上部乾物が減少した(Journal of Plant Interactions, 2024年)。出典(J. Plant Interactions, NASA, 2024)
  • C3作物の収量は1,000〜1,500ppmで飽和し、5,000ppm超は生育に悪影響【査読論文】…同・NASAの試験。本文で、C3作物の光合成・収量は概ね1,000〜1,500ppmで飽和してそれ以上は利益が乏しく、5,000ppmを超えると生育に負の影響が出ると明記している。施設での過剰施用を戒める飽和点の実測データ(Journal of Plant Interactions, 2024年)。出典(J. Plant Interactions, NASA, 2024)

花き(トルコギキョウ)

  • 地上部新鮮重+16〜65%・秀品率向上(500〜700ppm)【査読論文】…農研機構・東京都農林総合研究センター。冬季のトルコギキョウで、定植時期により新鮮重+16%(10月)〜+65%(11月)、収益+1,509円/m²(植物環境工学, 2018)。出典(植物環境工学 J.SHITA, 2018)

作物別の効果レンジ(海外査読の総説)

英国エセックス大学が果菜類のCO2施用研究を統合した総説(Horticulture Research, 2023)では、作物ごとに次のような効果レンジが報告されています。幅が広いのは、CO2濃度・光・施肥などの条件差が大きいためです。「これだけ上がることもある」という上限値として捉え、自分の条件では下限寄りを想定するのが安全です。

  • トマト:収量+7〜125%(CO2 450〜1200ppm)
  • キュウリ:収量+16.2〜41%(窒素が律速要因)
  • イチゴ:生果収量+1〜62%、乾物収量は最大+120%、香り・ビタミンも向上
  • ピーマン・トウガラシ:収量+12.9〜47.4%(一部で最大+370%)。ただし800ppmでアミノ酸が最大−29%=食味低下の懸念
  • メロン:果数+13%、果重+8%(夏季)

出典(Horticulture Research 10: uhad026, 2023)

施設全般の総説:中程度濃度で平均+18%、ただしCO2の無駄も多い

施設園芸のCO2施用を俯瞰した査読総説(Frontiers in Plant Science, 2022)は、過剰でない中程度の施用が経済・環境の両面で理にかなうことを整理しています。数値はいずれも同総説が引用・整理した値です。

  • 中程度のCO2上昇(550〜650ppm)でC3作物の収量が平均+18%【査読総説】…Frontiers in Plant Science。約1,000ppmでは葉菜・果菜・根菜の可溶性糖や栄養が10〜60%向上する一方、最適生育は800〜1,000ppmで、それを超えると品質面のトレードオフ(アミノ酸・ミネラルの低下)が起こりうると整理している(2022年)。出典(Frontiers in Plant Science, 2022)
  • 現行施設のCO2利用効率は60%未満、1,000ppm施用では漏出で50%を割る【査読総説】…同総説。ハウス日中は換気で外気以下(100〜250ppm相当)までCO2が下がり律速になる一方、高濃度施用ほど漏出でCO2が無駄になり、1,000ppm施用ではCO2利用効率が50%を下回ると指摘。過剰でない550〜650ppmの施用を推奨しており、日本での「低濃度長時間」運用の理論的裏付けとなる(2022年)。出典(Frontiers in Plant Science, 2022)

施用のコツ(試験データからの示唆)

  • 晴天・日中に、光合成が回るタイミングで:弱光時の施用は効果が薄い(長野県野菜花き試験場)。品種によって最適な施用時間帯が異なる場合もある(福岡イチゴ試験)。
  • 換気で逃げる分は局所施用でカバー:株元への局所施用なら換気中でも高濃度を維持でき、燃料も節約できる。少量・低濃度でも全体施用を上回った例がある(農研機構・愛媛イチゴ試験)。
  • 濃度を上げすぎない:低濃度(500〜600ppm)でも品質向上は狙え、低濃度長時間の方が高濃度短時間より経済的に有利な例もある(茨城トマト・千葉キュウリ)。光合成は1,000〜1,500ppmで飽和し、超高濃度は無益・減収を招く(福岡イチゴ・NASA葉菜)。
  • 肥培管理とセットで:窒素が足りないとCO2効果は頭打ち。高濃度では葉の窒素が希釈され栄養価が下がることもある(ピーマン)。
  • 加湿・高温との併用に注意:換気が少ない低温条件で加湿を併用すると蒸散が落ち養分吸収が抑制されうる(農研機構トマト)。高温期は高CO2がかえって減収を招く場合がある(イチゴ「豊の香」)。

まとめ

CO2施用は、イチゴ・トマトで日本の試験場データでも+20〜40%の増収が確認されている、施設園芸で効果の明確な技術です。局所施用や低濃度長時間の運用なら、少ないCO2で全体施用を上回る収量・収益を得られた実証もあります。花き(トルコギキョウ)でも新鮮重・秀品率の向上が報告されています。一方で、効果は光・換気・施肥・濃度に強く左右され、条件が合わないと頭打ちや品質低下も起こります。濃度には飽和点があり、高温との併用や超高濃度はかえって減収を招くこともあります。装置のしくみ・費用は「炭酸ガス発生機(CO2発生装置)とは?」で解説しています。

参考URL

※本ページの数値は各出典の特定条件下での実証値です。対照区つきの試験・公的機関の試験・査読論文を採用しています。一部にメーカーと大学の共同研究による公表値、および査読前プレプリントを含み、その旨を明記しています。