双眼カメラを使った小ギク自動収穫ロボットの研究開発

今回は、小ギクの収穫省力化における新技術を紹介します。日本では仏花として利用される小キクですが、中国や東南アジアでは、お茶の原料としても、利用されています。中国の研究チームは、茶原料としての小ギク自動収穫ロボットの研究開発を行っており、この最新情報をお伝えします。 

小ギク収穫の現状

小ギクの栽培では、開花した順に、適宜採花を行いますが、これには大きな労力を要します。品目別経営統計(キク)によれば、10a当たりの総労働時間657.09時間のうち、収穫作業に86.59時間、調製作業に95.27時間と、収穫・調整に要する時間が、総作業時間の27.7%に達します(1)。なお、これはキクの例であり、小ギクでは、さらに収穫・調製時間の割合が大きいものと考えられます。このことから、省力化技術の開発は喫緊の課題です。日本では小ギクを一斉開花させ、専用の収穫機により一斉に収穫(刈り取る)する技術が、すでに実用化されています(2)。このように、省力化に関する研究が、盛んにおこなわれている小ギクの栽培ですが、自動収穫ロボットの開発も行われています。 

茶原料としての小ギク自動収穫ロボット

今回は、中国浙江工科大学のグループが開発した、茶原料としての、小ギク自動収穫ロボットについて紹介します。 

この収穫ロボットには大きく2点の特徴があります。

1点目の特徴は、双眼カメラによる画像取得です。単眼カメラでは一般に、平面情報を得ることしかできません。このことから、多くの収穫ロボットでは、収穫対象物との距離測定のために、レーザーを使用します。一方、双眼カメラを採用した場合、画像認識だけでなく、奥行情報も同時に取得できるため、レーザー等による、対象物との距離測定の手間を省くことが可能になります。

もう1点の特徴は、エンドエフェクターの構造です。今回のロボットにおけるエンドエフェクターは、花の切り離しと運搬を同時に行えるように工夫されています。花を認識すると、吸引ノズル内におさめ、茎基部を切断、そのまま収穫物を吸引する構造となっています。(図4) 

図4

すでに実際の収穫試験も行われており、光条件の異なる13時と16時の、2つの条件で調査が行われました。

それぞれ収穫対象とした50花のうち、13時では45花、16時では43花の収穫に成功し、平均して88%の花を収穫することに成功しました。また1花あたりの収穫に要した時間はそれぞれ、14秒および15秒で、平均して14.5秒という結果となったことが報告されています。

コメント

今回紹介した収穫ロボットは、双眼カメラの利用による、収穫対象物との距離認識の効率化や、エンドエフェクターで、収穫物を吸引することによる、運搬手順の簡易化により、収穫におけるプロセスを可能な限り減らし、収穫1サイクルあたりに要する時間を短く仕上げた点が、特徴的と言えるでしょう。これらの工夫により、まだ人間による収穫速度には、まだ及ばないものの、1花あたりの収穫時間は15秒程度におさえられており、自動で常に収穫し続けられるという、ロボットの利点を加えれば、十分に実用化可能な技術に仕上がっているものと考えられます。

なお、日本における小ギクは、切り花需要が大半を占めます。今回の自動収穫ロボットの技術は、花を認識するという面では、切り花栽培にも応用可能と考えられます。その一方、エンドエフェクターについては、茶原料としての小ギク収穫に焦点を当てていることから、どの程度応用可能なのかについては、明らかではありません。今後、今回紹介したロボットの改良を含め、切り花収穫にも着目した、自動収穫ロボットの開発が行われれば、さらに利活用できる場面が広がるものと考えられます。

今回紹介した論文

Qinghua Yang, Chun Chang, Guanjun Bao, Jun Fan, Yi Xun. Recognition and localization system of the robot for harvesting Hangzhou White Chrysanthemums. International Journal of Agricultural and Biological Engineering11(1): 88-95. 2018. CC-BY 4.0.

(今回記事内の“茶原料としての小ギク自動収穫ロボット”およびその他紹介した図表は、上記論文のデータ等を一部抜粋・改変したものを記載しています。)

論文オープンアクセスURL:

https://ijabe.org/index.php/ijabe/article/view/3683

その他参考文献等 

(1)農業経営統計調査 品目別経営統計 確報 平成19年産品目別経営統計 年次 2007年 | ファイル | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口

https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00500201&tstat=000001013460&cycle=7&year=20070&month=0&tclass1=000001013649&tclass2=000001020117&tclass3=000001034993

表番号4-1  露地花き 切り花(きく) 分析指標・労働時間(1戸あたり)より

(2)一斉開花栽培に対応した小ギク収穫機 | 農研機構

https://www.naro.affrc.go.jp/project/results/laboratory/warc/2010/wenarc10-02.html