書籍紹介「日本を救う未来の農業 ─イスラエルに学ぶICT農法 」

これは日本の農業の課題を農薬の使いすぎていることや、面積あたりの収量が他国に比べて著しく低いことに設定し、ではどうすればいいかということをイスラエルから学ぶという本です。イスラエルの農業は進んでいると聞いていましたが、ますます調べてみたくなるような本でした。

そもそも日本の農業が遅れているという認識は私にはなかったのですが、作物によって面積あたりの収量がすごく低いというのはとても驚きました。例えばトウモロコシは1本の苗から1つだけとるというのが日本の常識ですが、イスラエルでは効率的な施肥によって1本から4つも5つもとれているそうです。こういった差は日本がこの数十年間効率を追求していないためと著者は主張します。

日本とイスラエルの1haあたりの収量の比較(本書より)

私が一番驚いたのはドリップ灌漑+ICTの活用のレベルです。

英語版ウィキペディアのJislさん -パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=37688331による

ドリップ灌漑は苗1つ1つに点滴のように水と肥料を同時に与える方法で、無駄な水や肥料を減らすとともに、必要な時に必要なだけ灌水できる方法です。(当サイトでの解説はこちら『点滴灌漑とは?利点や点滴灌漑システム提供メーカーについて解説』)設備投資は必要ですが、朝と夕だけ水をやったり、2週間に1回肥料をやったりするような慣行農法に比べ大幅な増収が見込めるそうです。

これだけでも十分に強力なのですが、これに衛星画像、ドローンによる画像と各種センサーの値にAIやデータ分析が加わると、凄まじい力になります。衛星画像やドローンが集めた画像は圃場全体から病気を発見したり、生育のばらつきを発見します。センサーは気温や日照量はもちろん、木の幹が何ミクロン育ったか、みかんの実が何ミクロン大きくなったかと言うことを日々チェックしてデータとして蓄積します。そしてそのデータをAIが分析し、ドリップ灌漑を通じて適切な水と肥料を必要な時に必要なだけ与えるわけです。

植物生長量センサー(果実の肥大を計る)本書より

ここまでくると、ちょっと人間の努力や根性では到底太刀打ちできない領域だなとはっきりと感じさせられるのではないでしょうか。

本書では他にも様々な日本の農業の課題をあげ、日本より農業の環境の悪いはずのイスラエルでは解決しているのかということを知ることができます。平地が少なく、高温多湿な日本ではそのままできないこともありそうですが、まずは世界のレベルを知ると言うことでとても有意義な本でした。