書籍紹介「東大卒、農家の右腕になる。」

東大卒、農家の右腕になる。――小さな経営改善ノウハウ100を読みました

本書は2部構成になっており、前半は東大卒の佐川友彦さんの半生と、栃木県の阿部梨園という梨園に関わるようになり経営者の右腕として経営を改善し、そのノウハウをクラウドファンディングを通じてWebで無料公開するまで、後半はそのノウハウの一部を紹介するという形です。なお、改善ノウハウは阿部梨園の知恵袋というWebサイトで全て公開されています。

本書を読んでみて、農学部出身とはいえ、農業の現場は素人同然の筆者がどのように現場に入り、短期間で売り上げを向上させていったのか知ることができました。特に”すべては「掃除」から始まった。”というエピソードや、後半で紹介されるカイゼンのノウハウは本当に基本的なことからスタートしていて参考になります。しかし最初の5つぐらいの誰もが「やった方がいいよね」というようなノウハウであっても実践できてないところは多いのではないでしょうか。

また、筆者の生き様のようなものも心に響きました。提案があれば資料を作る、自分が不利な選択肢でも全体のために提示する、やると決めたら時間がなくてもとにかくやり切る。最初から最後まで周囲に対して臆病すぎるほど真面目で誠実な振る舞いで溢れています。こういった振る舞いの積み重ねがあればクラウドファンディングでの多数の支援獲得を得たのも全く不思議ではありません。プロフェッショナルとはこうありたいと思わされました。

気になったのは阿部梨園の阿部代表の振る舞いです。本書内では、筆者から繰り返し「阿部の協力がなければできなかった」「感謝している」と出てきます。しかし、結果だけ見れば成果を出した佐川さんを、佐川さんがすることがなくなったので人件費を別の人に使いたいからと辞める選択をさせてしまいます。私はこのようなことをする人と働きたくないですし、周囲の人にも勧めません。また、そのような組織の作った農作物は美味しく食べれません。当然本書には書かれてない事情や関係性などもあったろうと想像しますが、とても残念なエピソードでした。

本書で紹介されているノウハウはWebで公開されていますが、ノウハウだけで改善できるのであれば誰も苦労はしませんし、散らかったオフィスもないはずです。本書の前半部分を読み、どういう思いや思想で作られたノウハウ集なのか知ることはとても重要だと考えます。またノウハウの掲載順は本書用に考えられていて、Webとは順番が違うようです。Web版では1から順に進めるのは難しいですが、本書の方は1から順番にやっていけるように考えられています。オススメです。