完全閉鎖型植物工場とは?仕組み・メリット・デメリット・最新事例を解説

完全閉鎖型植物工場とは

完全閉鎖型植物工場とは、外部の自然環境から完全に遮断された屋内空間で、人工光・空調・養液供給などをすべてコントロールしながら作物を栽培する施設です。農林水産省の定義では「人工光利用型植物工場」とも呼ばれ、太陽光を使わず、LED照明などの人工光源のみで光合成に必要な光を供給します。

温室型(太陽光利用型)の植物工場と異なり、外気・害虫・病原菌の侵入を物理的に遮断できるため、無農薬栽培が基本となります。地理的条件や季節に左右されず、都市部のビルや倉庫、廃工場などでも設置が可能です。

植物工場についてさらに詳しく知りたい方は、「植物工場とは?種類・仕組み・メリット・課題」もあわせてご覧ください。

完全閉鎖型植物工場の仕組み

完全閉鎖型植物工場は、主に以下の要素技術で構成されています。

LED照明による光環境制御

植物の光合成に最適な波長(赤色光・青色光など)を組み合わせたLED照明を使用します。Oxford Academic(Horticulture Research)に掲載された研究論文によると、照明は植物工場の運用コスト全体の23〜27%を占める最大のエネルギー消費源です。近年は、パルス照明(間欠点灯)技術によりエネルギー消費を大幅に削減する研究も進んでいます。メキシコ国立自治大学(UNAM)の研究チームは、パルスLED照明が植物工場のエネルギー効率改善に有効であることを報告しています。

空調・環境制御(HVAC)

温度・湿度・CO2濃度を精密にコントロールします。Renewable and Sustainable Energy Reviewsに掲載されたレビュー論文では、HVAC(空調)システムの最適化により最大50%のエネルギー削減が可能であると報告されています。さらに、照明設計の最適化(光強度・スペクトル・照射時間の調整)で最大45%の省エネが達成できるとされています。

水耕・エアロポニクス栽培

土壌を使わず、養液を循環させる水耕栽培や、根に直接養液をミスト状で噴霧するエアロポニクスが採用されます。水の使用量は従来の露地栽培と比べ最大95%削減できるとされています。

多段式栽培棚

垂直方向に複数段の栽培棚を配置することで、同じ床面積あたりの生産量を飛躍的に高めます。Agronomy for Sustainable Development誌のレビューによると、従来農業と比べて単位面積あたり最大100倍以上の生産性を実現できるケースもあります。

メリット

天候・季節に左右されない安定生産

完全閉鎖型では外部環境の影響を受けないため、年間を通じて計画的な生産が可能です。FAO(国連食糧農業機関)の報告書「Modern Indoor Farming and Food Safety」でも、屋内農業は気候変動に対する食料生産のレジリエンスを高める手段として評価されています。

無農薬・高品質な作物の生産

外部から害虫や病原菌が侵入しないため、農薬・除草剤・殺菌剤を使用する必要がありません。消費者の食品安全意識の高まりに応える生産方法といえます。

水資源の大幅な節約

閉鎖循環式の養液システムにより、露地栽培と比較して水の使用量を90〜95%削減できます。水不足が深刻な地域でも持続可能な農業を実現する技術として注目されています。

土地の制約からの解放

多段式の垂直栽培により、狭い土地でも大量生産が可能です。都市部の遊休施設やビルの一画でも農業を営むことができ、輸送距離の短縮によるフードマイルの削減にも寄与します。

デメリット・課題

高い初期投資と運用コスト

LED照明・空調・自動化設備などの導入には多額の投資が必要です。CEA(Controlled Environment Agriculture)市場は2025年の約1,033億ドルから2026年には1,182億ドル規模に成長すると予測されていますが、個々の事業者にとってはコスト回収が大きなハードルです。

エネルギー消費量の大きさ

Springer Nature(Agronomy for Sustainable Development)に掲載されたレビューでは、垂直農業のCO2排出量は平均で生鮮重量1kgあたり2.9 kg CO2と、従来農業よりも高い値が報告されています。レタス生産における電力消費量は1kgあたり10〜18 kWhに達するという研究データもあります。

ただし、再生可能エネルギーの導入やLED技術の進歩により、この課題は改善傾向にあります。

栽培可能な作物の限定

現状では、レタスなどの葉物野菜やハーブ、イチゴ、マイクログリーンなどが中心で、穀物やイモ類などカロリーの高い主食作物の生産には向いていません。

海外の最新事例

AeroFarms(アメリカ)

AeroFarmsは、独自のエアロポニクス技術を用いた完全閉鎖型の垂直農場を運営する企業です。ニュージャージー州ニューアークの約6,500平方メートルの旧製鉄所を改装した施設では、年間約90万kgの葉物野菜を生産する能力を持ちます。露地栽培比で水の使用量を最大90%削減し、農薬を一切使用しません。2025年1月には、マイクログリーンの大規模商業栽培向けの特許技術を発表しています。

Plenty(アメリカ)

Plentyは2023年、カリフォルニア州コンプトンに「世界で最も技術的に先進的な屋内垂直農場」を開設しました。独自の3D垂直アーキテクチャにより、従来農業の最大350倍の単位面積あたり収量を実現するとしています。年間約200万kgの葉物野菜生産能力を持つ一方、2024年12月にはカリフォルニアの高いエネルギーコストを理由にコンプトン工場の閉鎖を発表。バージニア州リッチモンドでのイチゴ生産施設への転換を進めており、エネルギーコストが植物工場ビジネスの成否を分ける重要な要因であることを示す事例となりました。

Spread(日本)

京都に本社を置くSpreadは、播種から収穫までを完全自動化した植物工場を運営しています。4,800平方メートルの栽培スペースで1日あたり3万株のレタスを生産する能力を持ちます。日本発の完全閉鎖型植物工場の先進事例として、国内外から注目を集めています。

植物工場の成功事例をさらに知りたい方は、「植物工場の成功事例まとめ」もぜひご覧ください。

完全閉鎖型植物工場の今後の展望

CEA市場は2030年までに約2,000億ドル規模に達するとの予測もあり、完全閉鎖型植物工場は今後も成長が見込まれる分野です。特に以下の技術進歩が期待されています。

  • 再生可能エネルギーとの統合:太陽光・風力・水素エネルギーの活用により、最大のボトルネックであるエネルギーコストの削減が進む見込みです
  • AIとIoTによる栽培最適化:センサーデータをAIが分析し、照明・空調・養液供給を自動最適化する技術の実用化が加速しています
  • 栽培品目の拡大:イチゴやトマトなど、葉物野菜以外の高付加価値作物への展開が進んでいます

米国農務省(USDA)は2023年10月、温室・屋内農場の生産者を対象とした専用の作物保険プログラムを導入しており、制度面でも屋内農業への支援が拡充されています。

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