Agrolend:ブラジルの小規模農家にWhatsAppで担保不要の融資を届けるアグリフィンテック

会社基本情報

  • 会社名:Agrolend
  • 所在地:ブラジル・サンパウロ
  • 設立:2020年
  • 代表者:André Glezer(共同創業者兼CEO)
  • 共同創業者:Alan Glezer、Valeria Bonadio、Paulo Vetter、Carlos Fagundes
  • 累計調達額:約1億ドル
  • 公式サイトhttps://agrolend.agr.br/

André Glezer氏はアグリビジネス特化のプライベートエクイティファンドで働いていた際、農業関連のサプライヤーや小売業者が農家への融資を肩代わりせざるを得ない状況に気付き、Agrolendを創業しました。弟のAlan Glezer氏はシンガポールでヘッジファンドのクレジットアナリストとして経験を積んだ金融のプロフェッショナルです。

事業概要

Agrolendは、ブラジルの小規模・中規模農家に対して担保不要のデジタル融資を提供するアグリフィンテック企業です。ブラジル中央銀行の規制下で運営されるデジタルバンクとして、種子、肥料、農薬などの農業資材購入のための融資を行っています。

同社の最大の特徴は、WhatsAppを通じてわずか2日間でローンプロセスが完了する点です。従来の銀行では数週間から数ヶ月かかっていた農業融資を、デジタル技術によって大幅に短縮しました。融資はブラジルの農業金融商品であるCédula de Produto Rural Financeira(CPR-F)を通じて行われ、農家はWhatsApp上で電子署名を行います。

どういう課題をどう解決しているか

ブラジルの小規模農家が抱える課題

ブラジルの農場の約75%は小規模農家ですが、これらの農家は伝統的な銀行からの融資を受けることが非常に困難です。大手銀行は大規模農家を優先し、小規模農家は担保となる土地や穀物を要求されるため、事実上融資から排除されてきました。その結果、農業資材の販売業者やサプライヤーが農家への融資を肩代わりせざるを得ず、サプライチェーン全体の非効率性につながっていました。

Agrolendのアプローチ

Agrolendは独自の代替信用スコアリングモデルを活用し、従来の担保に頼らない融資判断を実現しています。150社以上の農業資材販売業者、コーポラティブ、メーカーとのパートナーネットワークを構築し、B2B2Cモデルで農家にリーチしています。

融資条件は年利約23%で、同社は約13%の金利で資金を調達しているため、約10%のネットマージンを確保しています。融資期間は作物のサイクルに合わせて8〜10ヶ月に設定されています。さらに、単一農家へのエクスポージャーを0.5%以下に抑え、最大の販売パートナーでもポートフォリオの約8%を超えないようリスク分散を図っています。

これまでに12,000人以上の農家に対して2億1,100万ドルの融資を実行し、Moody’sからBBB+(投資適格)の信用格付けを取得しています。

ビジネスモデル

Agrolendの収益モデルは、預金と融資の金利差から得られるスプレッドが主要な収益源です。

  • 資金調達:定期預金(CD)や税制優遇のある農業預金を年利約13%で調達
  • 融資:農家に年利約23%で融資
  • ネットマージン:融資損失と運営費を差し引いて約10%

販売チャネルはSyngentaなどの農業資材メーカーとのパートナーシップを軸とした間接販売(B2B2C)モデルを採用しており、150社以上のパートナーを通じてブラジル15州で事業を展開しています。

資金調達の経緯は以下の通りです。

  • 2021年:Seed 160万ドル(30名の投資家)
  • 2022年:Series B 2,700万ドル(Lightrock主導)
  • 2024年10月:Series C 5,300万ドル(Creation Investments、Syngenta Group Ventures共同リード)

Series Cには新規投資家のVivo Ventures、L4、日本の農林中央金庫に加え、既存投資家のValor Capital、Lightrock、Yara Growth Ventures、SP Venturesが参加しました。また、国際協力機構(JICA)もAGL Holding(Agrolend)への出資を行っており、日本の機関からの評価も受けています。

今後の計画

Series Cの資金を活用し、以下の展開を計画しています。

  • 融資ポートフォリオを6億ドル規模に拡大
  • サービス対象を約10,000農家に拡大(長期的には50,000農家を目標)
  • 信用融資に加え、クレジットカード、当座預金、作物保険、ヘッジソリューションなど総合金融サービスへの拡張
  • 米国株式市場への上場を検討

CEOのAndré Glezer氏は「今回の資金調達は、私たちのビジネスモデルに対する市場の信頼を示しており、次の成長段階への準備を整えるものです」と述べています。

コメント

ブラジルは世界有数の農業大国でありながら、小規模農家の金融アクセスは長年の課題でした。Agrolendが注目に値するのは、単なるフィンテックではなく、農業バリューチェーンの中に組み込まれた金融インフラとして機能している点です。

WhatsAppでの融資プロセスは、スマートフォン普及率の高いブラジルの農村部の実情に即した設計です。農業資材販売業者をパートナーとするB2B2Cモデルは、独自の顧客獲得チャネルを確保しつつ、パートナー企業のワーキングキャピタル問題も同時に解決するWin-Winの構造になっています。

Moody’sのBBB+格付け取得、農林中央金庫やJICAといった日本の機関投資家からの出資は、同社のリスク管理の堅実さを裏付けています。累計調達額約1億ドル、Series Cがブラジルのアグリビジネス史上最大級であったという事実も、投資家からの高い評価を示しています。世界的に小規模農家向けフィンテックが注目される中、Agrolendはブラジルにおけるリーダーとしての地位を確立しつつあります。

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