営農管理システムとは?メリット・デメリットや主要メーカーを紹介

農業に必要なのは栽培技術だけではなく、企業経営や生産管理のノウハウも求められます。さらに食の安全を確保するために、作業内容や使用資材を記録することが当たり前になっています。農場の規模が大きくなるほど、進捗把握や作業員の管理、農薬使用履歴の確認などは煩雑になるでしょう。

そこで、農業の経営や生産管理をサポートするため、営農管理システムというプラットフォームが使用されています。プラットフォームを土台として、様々な農業用アプリケーションを使用することで、圃場のデータや作業記録を一元管理できます。

本記事では、営農管理システムで何ができるのか、なぜ必要なのか、そしてどのように導入するのかを解説します。

営農管理システムでできること

【圃場管理】圃場を地図上で一覧する

農地の位置情報を登録し、航空写真に表示できます。製品によっては、栽培品目によって色を塗り分けたり、作業担当者を表示したりすることも可能です。

圃場全体を画面上で見渡しながら、より効率的な作業導線を考えるのに役立つでしょう。

【生産管理】予定収量と実績を比較する

それぞれの圃場で当初予定していた収量と、実際に収穫できた量を比較できます。予定通りに生産できたかどうかを数字で確認することで、翌年の生産計画を立てたり、収量を落とさないための栽培技術の改善につなげたりできるでしょう。

【作業管理】作業内容を記録し、検索しやすくする

作業を行った日時、作業者、作業内容などを記録できます。ひとつひとつの圃場と作業記録が紐付けられるので、後で作業内容を確認する際に検索しやすくなります。

農協や直売所へ農薬使用履歴を報告したり、生産レポートを作成して消費者に公開したりする事務作業を、紙媒体よりも効率化してくれるでしょう。

営農管理システムが求められる3つの背景

①法人による農業経営が増加傾向にある

農林水産省の統計によると、2005年から2015年までの間に、農業経営体の件数と規模は以下のように推移しました。

  • 農業経営体の総数は200万件から138万件に減少(-31%)
  • 農業経営体のうち、法人経営体の数は8,700件から18,875件に増加(+117%)
  • 農産物販売金額3億円以上の農業経営体は、1,182件から1,827件に増加(+55%
  • 耕地面積100ha以上の農業経営体は、864件から1,590件に増加(+84%)

つまり、農業経営体の総数が減っている一方で、農業生産法人などの法人経営体が増加傾向にあります。さらに、販売金額や耕地面積の大きい農家が増加しており、農家の企業的経営が広がり始めている様子が読み取れます。

②人材を効率的に運用する必要性が増している

農業経営体の規模が大きくなると、広い圃場を管理するために人材を効率的に運用しなければなりません。営農管理システムを使えば、作業者ひとりひとりの作業や担当圃場を一覧できます。これにより、人手の足りていない圃場へ応援を送ったり、ひとりあたりの作業負荷が偏らないように仕事を割り振ったりできます。効率の良い人員配備や人材育成に活かせるでしょう。

③高い水準の工程管理が求められている

食の安全性を担保するため、農業に高水準の工程管理が求められるようになっています。

特に2005年に日本へ導入された農業生産工程管理(Good Agricultural Practices; GAP)は、作業内容の記録、環境に配慮した営農方式、労働安全などに厳格な基準を設定しています。GAP認証取得農家からしか作物を購入しない卸業者・小売業者も出てきており、農家に求められる工程管理の水準はますます高くなってゆくと思われます。

圃場管理や農薬・化学肥料の使用を適切におこなっていても、それを保証する記録を残していなければ、販路拡大で不利になる恐れがあります。営農管理システムは、「いつ、どの圃場で、どのような作業をおこない、どの資材をどれだけ使ったのか」という記録を一元管理できるため、GAPや有機JASへの準拠をサポートしてくれるでしょう。

営農管理システムを導入する手順

①無料パッケージを試す

営農管理システムの中には、機能の一部を無料公開しているものもあります。それらを試しに使い、どのようなことができるのか、使い勝手は良いかなどを判断すると良いでしょう。

無料期間中に、クラウドの容量がデータ使用量に対して十分かどうか確認するのがおすすめです。長期間使い続けた場合に、クラウドのストレージに余裕を持って運用できそうかどうかチェックしてみると良いでしょう。

②申し込み手続きとアカウント作成

営農管理システムはクラウド型なので、農家側でサーバーを持つ必要はありません。郵送またはオンラインで申し込み、提供企業の指示に従ってアカウントを作成します。

③圃場データを登録して利用開始

圃場の位置情報、栽培予定品目などの情報を登録します。日々の作業記録をスマートフォンやパソコン上でシステムに入力すれば、圃場と紐付けられてクラウドに記録されます。

営農管理システムの事例紹介

Z-GIS(JA全農)

圃場の位置を航空写真上に表し、栽培品目や作業内容、作業者氏名などを記録できます。広大な地域に複数の圃場があり、それぞれを別々の人が管理している場合に役立つでしょう。

JAの正組合員・準組合員は、月額200円で100圃場登録でき、1GBのクラウドストレージが使えます。JAグループ以外の企業は、月額5000円で20GB利用可能です。

アグリノート(ウォーターセル株式会社)

簡単なクリック操作で記録でき、スマートフォンからの操作も可能です。機能の一部を以下に紹介します。

  • 航空写真上での圃場の位置表示
  • 作業内容の記録
  • スケジュール管理
  • 生育記録
  • 農薬データベースの参照

利用契約は1年単位で、年間6,600円(月あたり550円)です。登録圃場数や利用人数に制限はないので、多数の従業員や生産者で情報共有をする場合にコストメリットが優れています。

しっかりファーム(株式会社冨貴堂ユーザック)

北海道旭川市の企業が開発したシステムです。農家にとっての使いやすさを追求しており、以下の点がユーザーから評価を得ています。

  • 操作が分かりやすいシンプルな設計
  • 営農形態に応じて操作画面をカスタマイズするサービス
  • 基本情報(圃場位置、栽培品目、使用農薬など)の初期設定代行

さらにGAP管理項目に対応したオプションがあり、GAP認証取得をサポートしてくれます。

まとめ

営農管理システムは、農業経営に次のようなベネフィットをもたらしてくれます。

  • 遠隔地からでも、圃場の位置や栽培品目、作業担当者を一覧できる。
  • 栽培者の作業内容を把握し、効率よく人材を運用できる。
  • GAPや有機JASなど、高い生産管理基準に準拠しやすくなる。

法人による農業経営が広がったり、農作物に求められる安全管理基準が高まったりするにつれ、営農管理システムの必要性も増してくるでしょう。様々な企業が営農管理システムをリリースしているため、まずは無料パッケージから試してみてはいかがでしょうか。

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