スプレーノズルがハチドリのように空中を行き交う。大規模圃場での農薬散布を安全で効率的にする、Cordoba Technologies の製品を紹介

農家一戸あたりの圃場面積が広い米国では、大面積での効率的な農薬散布が求められます。しかし従来のスプレー散布では、農薬が風で長距離を漂ってしまう「ドリフト」が問題になっていました。そこで Cordoba Technologies は、灌漑装置に取り付けて使うことができ、ドリフトが起きにくい農薬散布ノズルを提供しています。その特徴や使用方法を解説します。

Cordoba Technologies 基本情報

住所:29 East Sumach Street, Walla Walla, WA 99362, USA

CEO:Santiago Prandi

設立年:2018年

従業員数:22人

大規模圃場向けの農薬散布装置を開発

Cordoba Technologies は、大規模圃場で効率よく農薬を散布するための薬剤散布装置を開発している企業です。

米国の農家には、圃場全体をカバーできるほどの巨大な灌漑設備が設置されており、灌漑水や肥料を供給しています。Cordoba Technologies は、この灌漑設備を農薬散布にも流用できるのではないかと考え、灌漑設備メーカーの Valley Irrigation と共同で農薬散布用アタッチメントを開発してきました。

Cordoba Technologies の技術が求められる背景

大規模な圃場では機械化・自動化が求められる

米国の農家一戸あたりの耕地面積は180.2haあり、これは日本(農家一戸あたり2.2ha)のおよそ82倍です。この面積を全て人手で農薬散布するのは現実的でないので、農薬散布の機械化が進められてきました。

そこでCordoba Technologies は、大規模面積に特化した農薬散布装置を、無人で稼働できるように改良してきました。

従来のスプレー散布方法はドリフトが課題

大規模面積への農薬散布を効率化するため、従来から重機やヘリコプターを用いたスプレー散布が行われていました。しかし、農薬のスプレー散布ではドリフトが問題になります。

ドリフトとは、噴射された農薬の液滴が風に飛ばされ、空気中を遠くまで漂ってしまう現象のことです。ドリフトが起きると、以下のような不都合が生じます。

  • スプレーノズルの真下に薬剤が落ちないため、作物に農薬がかからない箇所ができる。
  • 作物にかかる薬剤の濃度が下がってしまい、効果が落ちる。
  • 農薬のロスが増えることで、撒き直したり農薬使用量を増やしたりする必要が出てくるため、作物の生産コストが上がる。
  • 農薬が圃場外に流れ、他の作物にかかってしまったり作業者が吸引してしまったりする。

これらの課題を解消するため、Cordoba Technologies はドリフトを軽減できるノズルの開発を行ってきました。ドリフトによる農薬のロスを減らすことで、経済性・安全性の両方にメリットがあります。

Cordoba Technologies の技術

農薬散布ノズル「Hummingbird」

Cordoba Technologies の代表的な製品は、農薬散布ノズル「Hummingbird」です。外観は掌に乗るくらいの円筒形のノズルで、灌漑装置のタンクと接続したり、ガイドレールに取り付けたりすることができます。

Hummingbird は移動式灌漑装置に取り付けて使用します。大規模圃場の場合は、特にリニア移動式灌漑装置と組み合わせることが推奨されています。

リニア移動式灌漑装置とは、長さ50mほどもある長大なパイプが圃場を横断し、その両端に車輪のついた走行装置が取り付けられている灌漑装置です。通常の灌漑では、パイプに取り付けられたノズルから散水しながら、人が歩くくらいのスピードで圃場を移動して行きます。

Hummingbird 使用時は、灌漑水の代わりに適切な濃度に希釈した農薬をタンクに入れます。灌漑装置にガイドレールを取り付け、レールの上に Hummingbird のノズルを装着します。タンクとノズルを送液チューブで繋げば、設備の準備は完了です。

ガイドレールに沿ってノズルが走り回る

農薬の散布量や灌漑装置の移動速度はプログラムで指示することができ、無人で農薬散布ができます。散布が始まると、Hummingbird のノズルがガイドレールに沿って素早く往復しながら、1〜2mくらいの飛距離で農薬をスプレーします。

作物の上でノズルが素早く行き交う動作は、製品名になっている「Hummingbird(ハチドリ)」を彷彿とさせます。

風に飛ばされにくい液滴調整

Hummingbirdから噴射される液滴は、風に流されにくい適度な大きさに調整されています。そのため、従来のスプレー方法で問題となっていたドリフトが起きにくく、農薬のロスや周辺への飛散を抑えられます。

さらに、ガイドレールの高さを調節すれば、ノズルと作物の距離を微調整できます。ノズルと作物を適度に近づけることで、風の影響を抑え、均一に農薬を撒けます。

今後の展開

業務改善効果、導入コストなどは情報不足

HummingbirdをはじめとするCordoba Technologies の製品を導入することで、農薬のロスが減り業務改善効果が期待できます。

しかしまだスタートアップから間もないためか、実際の効果や導入コスト、維持費などを示した事例が公開されていません。定量的な評価を行うには、農場での運用実績の蓄積が必要だと思われます。

ベクターアワード銀賞受賞

Cordoba Technologies が開発したHummingbird は、効率的な農薬散布を行うアイデアと技術が評価され、2018年にイグス株式会社のベクターアワードで銀賞を受賞しました。この賞は工作機械や産業ロボットのコンテストであり、2018年には30か国から187件の応募がありました。

技術的な洗練度合いと社会的意義を兼ね備えた機械設備に与えられる章であるため、受賞による宣伝効果が期待できます。

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