ドローンがオリーブを育てる?大きさや健康状態など生育状況を監視

今回は、果樹類の栽培管理に関連して、オリーブ樹における樹の生育状況を解析するシステムの開発に関する研究を紹介します。果樹類の生育管理は、他の作物に比べ、植物体が大きいことから、全体を把握するだけでも、一苦労するのが現実です。本研究では、ドローンに搭載したカメラから得た情報をもとに、樹の生育状況を解析していますが、このような技術開発が進めば、容易に果樹園全体の生育管理を行うことができるようになる可能性があります。

一般的な果樹管理

果樹は、樹体を定植した後、同一樹を数十年にわたり利用するのが一般的です。そのため、栽培管理の成否は、今年の収穫のみでなく、翌年の開花~収穫、その後の樹の生育まで大きな影響を与えるため、非常に重要です。その一方で、果樹は植物体自体が大きいこともあり、生育状況を判断するだけでも一苦労です。そのため、省力的に、果樹の生育管理を行えるようにする技術開発が求められています。

ドローンにより、オリーブ樹の生育を管理するシステム

今回は、スペイン・ハエン大学の研究グループが開発している、ドローンを用いた、生育管理システムを紹介します。

このシステムの大きな特徴は、無人航空機(ドローン)に、

  • RGBカメラ(高解像度の画像を取得し、樹の形状などを判断する。)
  • マルチスペクトルカメラ(光の波長ごとに分けて画像を取得、樹の健康状態の観察等に利用する。)

という2種類のカメラを搭載し、複雑な植物形態を示す果樹において、樹体の大きさのみでなく、健康状態についても、同時に情報を得ることができるようにした点です。

(Fig1より、左上:今回用いたドローン、右:今回の試験地)

まず、オリーブ園内に、既知の大きさのオブジェクト10個について、このシステムを用い、寸法を測定したところ、高さの誤差は5cm以内、容積については0.4㎥以内という高い精度で、測定することが可能でした。(ここで、オリーブ樹ではなく、既知の大きさのオブジェクトを利用するのは、オリーブ樹自体の大きさを、手動で測定することは困難を極めることから、代替のオブジェクトを利用したものと考えられます)。

実際の実証試験では、72樹のオリーブ樹について、樹高および樹冠体積の測定を行いました。

その結果、

  • 樹高:1.2-1.6m区分~3.9-4.2m区分までばらつき、平均は2.9m
  • 樹冠体積:3.8-8.7㎥区分~28.3-33.2㎥区分までばらつき、平均は16.7㎥

と、同一果樹園にも関わらず、大きな樹ごとの生育のばらつきがあり、このようなばらつきを容易に把握することができました。

(Fig6より 下3つの写真:実際のドローンからとらえた樹の様子)

さらに、NDVIをはじめとした、樹の活力評価に関わる指標についても、情報を取得することができ、例えばNDVI(-1~1で示され、値が大きいほど健康であると言われている)は、1回目の測定で0.55、2回目の測定で0.81となったことが紹介されていました。

コメント

果樹園の管理を行う場合、成木となると、樹高が数mに達することが多いため、樹を管理する場合、果樹園全体を眺めることは難しかったのが現実です。一方、本研究のように、ドローンにより、上空からの果樹園の情報を得ることができるだけでも、容易に樹勢の強弱を判別することができることから、省力的に樹体管理を行うことができるようになると考えられます。

また、本研究では、樹の健康状態を示す指標となりえるNDVI等の測定が試みられています。このNDVIとは、葉から反射される光のうち、赤色光(光合成に利用されやすい光)と近赤外域(あまり利用されないとされる光)を解析して得られ、

NDVI=(近赤外域)‐(赤色光)/(近赤外域)+(赤色光)

この値が高いほど、良いとされ、活発に光合成が行われていることを示すとされています。

なお、NDVI等の指標は、すでに活用例があり、畑内での生育のばらつきをマップ化し、施肥設計に利用したり、作物の品質向上に利活用が進み(1)、省力化に繋がることが期待されている技術です。

一方、果樹分野において、このようなNDVIをはじめとした、マルチスペクトルカメラにより得られる指標の活用例はあまり見当たりませんが、これらの指標が、生育に対しどのような意味合いを持つのか、解析を進める試みが進められ始めています(2)。

本研究では、樹高、樹冠体積およびNDVIをはじめとした生育に関わる指標を、ドローンにより取得できていることから、これらの情報の利活用法まで開発が進めば、果樹栽培における、省力化に大きく貢献する技術になると考られるため、今後の進展に期待したい技術です。

今回紹介した論文

J. M.Jurado, L. Ortega, J. J. Cubillas and F. R. Feito. Multispectral Mapping on 3D Models and Multi-Temporal Monitoring for Individual Characterization of Olive Trees. Remote sensing 12(7) 1106. 2020. CC-BY 4.0. 

(今回記事内の“ドローンにより、オリーブ樹の生育を管理するシステム”およびその他紹介した図表は、上記論文のデータ等を一部抜粋・改変したものを記載しています。)

論文オープンアクセスURL: https://www.mdpi.com/2072-4292/12/7/1106

参考文献

(1)農業用ドローンの普及拡大に向けて(農林水産省)

https://www.maff.go.jp/j/kanbo/smart/pdf/meguji.pdf

(2)静岡県/農林技術研究所/研究所ニュース

「19 空撮画像によるミカンの栄養診断」より

2019-19(19 空撮画像によるミカンの栄養診断.pdf : 235KB) (pref.shizuoka.jp)