キトサンナノ粒子やプロポリスを使用した、いちご等の過食コーディングによる鮮度保持の研究

今回は、果実鮮度保持に関連して、可食コーティング剤を紹介します。果実は収穫後、果実自体の呼吸や、雑菌の繁殖により、徐々に鮮度が落ちてしまいます。この問題に対し、果実自体に、食べても問題のないコーティング剤を処理することで、日持ちを延長する技術の検討が進められています。

一般的な野菜・果実の鮮度保持技術

野菜や果実は、収穫とともに、徐々に鮮度が落ちていきます。この原因は主に、収穫物の代謝に伴う呼吸や蒸散、微生物によるかびであると言われています。これらの進行を可能な限り遅らせ、販売できる期間(可販期間)をできうる限り延長できるよう、多様な研究が行われています。その中でも、

  • CA貯蔵(保存庫の大気組成を、低酸素・高二酸化炭素条件に、人為的に調整する)
  • MA貯蔵(フィルム材で包装し、フィルム内を、低酸素・高二酸化炭素条件とする)
  • 冷蔵(低温で保存することで、収穫物の代謝を抑制する)

等が多く行われています。

一方、果実自体に可食コーティングを行うことで、収穫物の鮮度を維持する方法も、盛んに検討が進められています。

“可食コーティング剤が、イチゴの日持ちを延長する”

今回は、メキシコの研究グループが行った、可食コーティング剤と果実の鮮度保持に関する研究を紹介します。

この研究では、抗菌作用が注目されているキトサン(CP)、またこのキトサンをナノ粒子化したもの(CPNPs)、プロポリス(P)の3種類の可食コーティング剤を、イチゴ果実鮮度保持に用いました。

実際の試験では、

  • キトサン単体(CP)
  • キトサン+キトサンナノ粒子(CP+CPNPs)
  • キトサン+キトサンナノ粒子+10%プロポリス(CP+CPNPs+P10)
  • キトサン+キトサンナノ粒子+20%プロポリス(CP+CPNPs+P20)
  • キトサン+キトサンナノ粒子+30%プロポリス(CP+CPNPs+P30)
  • 無処理の対照区

を設け、4℃で8日間貯蔵しました。また、貯蔵中定期的に、果実の重量減少、抗酸化能の変化を調査するとともに、可食コーティングが、果実の味や香りに影響を及ぼさないか、調査が行われました。

まず、重量減少の面では、キトサンナノ粒子やプロポリスを使用した果実において、キトサン単体や無処理の果実と比べ、重量減少が抑制されました。その中でも、プロポリスを10%配合した場合には、重量減少が最も抑制されていました。

なお、この理由として、キトサンナノ粒子やプロポリスが、果実表面におけるバリア(膜)の役割を果たし、酸素や二酸化炭素、水蒸気の透過を抑制した結果、重量減少を抑制につながったと考えられています。

(Tab1より、8日目時点において、CS+CSNPs+P10%で最も重量減少が抑えられているのが分かる)

また、今回利用した可食コーティング剤は、重量減少のみでなく、抗酸化活性にも影響を及ぼし、キトサン、キトサンナノ粒子やプロポリスの使用により、無処理の果実に比べ、抗酸化活性が、高く維持されていました。また、他の調査項目(硬度・フェノール量、フラボノイド量)についても、可食コーティング剤の処理が、果実の鮮度保持に良い影響を及ぼしていました。

(Tab6より、抗酸化活性評価手法(DPPHラジカル消去能・値が大きいほうが良い)の結果、果実コーティング剤により、抗酸化活性が高く維持されていることが分かる)

このように、果実の鮮度保持に効果がみられた、可食コーティング材ですが、食味(味や香り)に、影響することはありませんでした。

(Tab7より、官能評価の結果、10が最もよい、香り(Aroma)・色(Color)・味(Flavor)ともに、コーティング剤の影響を受けていないことが分かる)

コメント

今回の結果より、キトサンナノ粒子やプロポリスの併用は、果実の重量減少に対し、有効であることが明らかでした。一般に、収穫物の呼吸作用による重量減少(しおれ)は、果実の鮮度保持において、最も重要な項目の1つです。今回使用した、可食コーティング剤が、果実表面に、膜状に付着したことにより、蒸散を抑制し、果実の保存期間の延長を可能としました。

なお、可食コーティングの研究は、新たな果実鮮度保持技術として、注目をあびています(1,2)。しかしながら、可食コーティング剤にも弱点があり、果実の食味への影響が問題となっているのが事実です。実際に、コーティング剤として、エッセンシャルオイルも効果を発揮するとの報告がありますが、食味が変化してしまうことが問題として指摘されています(2)。その一方で、本研究で利用された、キトサンやナノポリスの場合、食味を悪化させることなく、果実の鮮度保持を達成できていることから、今後利用の広がりが期待できる、可食コーティング剤といえそうです。

今回紹介した論文

Miriam del Carmen Martínez-González, Silvia Bautista-Baños, Zormy Nacary Correa-Pacheco, María Luisa Corona-Range, Rosa I. Ventura-Aguilar, Juan Carlos Del Río-García and Margarita de Lorena Ramos-García. Effect of nanostructured chitosan/propolis coatings on the quality and antioxidant capacity of strawberries during storage. Coatings 10(2): 90.  CC-BY 4.0. 

(今回記事内の“食用コーティング剤が、イチゴの日持ちを延長する”およびその他紹介した図表は、上記論文のデータ等を一部抜粋・改変したものを記載しています。)

論文オープンアクセスURL:https://www.mdpi.com/2079-6412/10/2/90/htm

参考文献

(1)生物系特定産業技術研究支援センター:果樹分野 | 農研機構
http://www.naro.affrc.go.jp/laboratory/brain/h27kakushin/chiiki/research/subject4.html

より

完熟イチジクの香港等輸出を促進するための高品質果実生産技術及び流通技術体系の開発

http://www.naro.affrc.go.jp/laboratory/brain/h27kakushin/files/subject4_17.pdf

(2)Keydis Martínez, Marta Ortiz, Alberto Albis, Clara Gilma Gutiérrez Castañeda, Mayra Eliana Valencia and Carlos David Grande Tovar. The effect of edible chitosan coatings incorporated with thymus capitatus essential oil on the shelf-life of strawberry (Fragaria x ananassa) during cold storage. Biomolecules 8(4): 155.次のURLよりダウンロード可:https://www.mdpi.com/2218-273X/8/4/155/htm