トウモロコシやソルガムにおいて、茎径を自動で測定するスマート農業システム

今回は、植物の自動生育解析システムの開発に関連して、トウモロコシやソルガムにおいて、茎径を自動で測定するシステムの開発事例を紹介します。茎径は、植物の生育診断指標として良く用いられていますが、ロボットにより、自動で測定できるようになることで、植物の生育状況管理における省力化へとつながる可能性のある技術です。

植物の生育を判断するためには

植物の生育状況を判断する指標として良く用いられるものとして、茎長(樹高)、茎径、葉面積や葉色など、多様な判断指標が用いられています。その一方で、これらの指標が植物の生育とどのように関係するかについては、植物種や品種ごとに大きく異なるうえに、実際に測定するとなると、多大な労力が伴う点が問題となっています。そのため、最終的に、生育の状況が良いかどうか判断するのは、“農家の勘”に頼るというのが現状です。一方、農業の自動化に向けて、生育の良し悪しを判断するにあたり、農家の勘のみに頼るわけにいかず、植物の生育状況を、容易に判断できるような手法の開発が求められているのが現状です。

茎を認識し、茎径を自動で測定する

今回は、アメリカ・ネブラスカ大学の研究グループが開発した、植物の茎を認識し、茎径を自動で測定するシステムの開発例を紹介します。

今回のシステムには、

  • 茎を認識するための画像を得るためのTOF(三次元情報を計測できる)カメラ
  • 実際に茎径を測定するためのセンサ

が、装着されており、最大76mmまでの茎径を自動で測定できる構造になっています。

(図1より 本システムの外観、腕型の装置で茎をつかむ)

実際には、得られた画像から、R-CNN(物体を検知する手法の1つ)により、茎や葉を検知します。

その後、葉のない領域を識別するとともに、この部位を茎径測定用のセンサで挟み込むことで、茎の直径を測定します。

(図6より 茎をつかむ部位を解析する様子, e:葉が無く、つかむことが可能なエリアを示す、f:実際につかむ目標地点)

(図7より)

本研究では、トウモロコシとソルガムの茎を、それぞれ16個体の植物から、のべ48回の測定を行いました。

本システムにおける測定所要時間は、1回につき45秒と、人による手動測定(10秒未満)に比べると時間がかかったのは事実です。一方、トウモロコシおよびソルガムともに、自動測定および手動測定の測定値の関係性は、R2=0.99およびR2=0.98と、とても高い相関性を有していました(すなわち、自動測定値と手動測定値の間に、大きな差はなく、自動測定でも正確に、茎径を測定できていたことを示します)。

(図10より トウモロコシ(左)とソルガム(右)の結果、横軸:手動測定の結果、縦軸:このシステムでの測定結果を示します)

なお、今後、

  • 自動走行車両に、このシステムを取り付けること
  • 茎のスペクトルデータも解析し、クロロフィル含量、水分量や窒素含有量も同時測定する

ことを、引き続きの開発目標としています。 

コメント

茎径を測定することにより、植物の生育状況を判断する試みは、現在国内でも多数行われています。トマトでは、花房直下の茎短径は、茎葉の大きさや収量と相関があること(1)、キュウリでも、茎径をはじめとした指標が、草勢を判断する指標になること(2)が報告されています。また、今回の実験に用いられているソルガムでも、茎の乾物重量(茎径と茎長が主に影響する指標)は、葉身長、葉身幅や草丈などと、有意な相関関係があることが報告されています(3)。このようなことから、茎径は、植物の生育解析に対し、有用な指標であると考えられてます。

一方、実際の圃場試験では、茎が葉に隠されてしまい、認識に苦労する例も出ることが想定されていますが、葉面積(葉が重なりあってしまう場合、どう評価するかが問題となる)に比べれば正確に測定できるものと考えられます。実際に、本研究におけるシステムでも、高精度の茎径測定を可能にできています。このことから、茎径の測定は、植物体の生育を測定するシステムの構築における、生育判断指標として、比較的利用しやすい指標となるものと考えられます。今後、今回のようなシステムを積んだ、自動計測型の車両が、圃場内を走り回り、植物の生育解析を自動で行ってくれる未来を期待したい技術です。

今回紹介した論文

Abbas Atefi, Yufeng Ge, Santosh Pitla and James Schnable, Robotic detection and grasp of Maize and Sorghum: Stem measurement with contact. Robotics 9 (3): 58. 2020. CC-BY 4.0.

(今回記事内の“茎を認識し、茎径を自動で測定する”およびその他紹介した図表は、上記論文のデータ等を一部抜粋・改変したものを記載しています。)

論文オープンアクセスURL:https://www.mdpi.com/2218-6581/9/3/58

参考文献

(1)【福井県】ふくいアグリネット 試験研究情報 普及に移す技術 平成15年度
http://www.agri-net.pref.fukui.jp/shiken/hukyu/h15.htmlより
トマトの成長点付近形態による生育診断法http://www.agri-net.pref.fukui.jp/shiken/hukyu/data/h15/tomato_diago.pdf

(2)ネット農業あいちhttps://www.pref.aichi.jp/nogyo-keiei/nogyo-aichi/gijutu_keiei_shisetu.htmlよりキュウリ:施設栽培キュウリにおける生育指標の調査https://www.pref.aichi.jp/nogyo-keiei/nogyo-aichi/gijutu_keiei/yasai1804.pdf(3)春日重光,小坂雄一,北原茉依,北山内光輔,関根平,野宮桂.ソルガム類市販品種における草型・茎葉関連形質の評価と乾物生産性.信州大学農学部AFC報告14: 23-28. 2016.
https://soar-ir.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=17984&item_no=1&page_id=13&block_id=45
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