今回は、レタスにおける、自動収穫ロボット開発研究の最前線を紹介します。イギリスの研究グループによる、この新技術は、画像認識技術の向上と収穫用のレタス専用ヘッドの開発により、レタスの自動収穫を可能とし、農業の省力化に貢献する可能性があります。
レタス収穫の現状
農作物の収穫はいまだ人の手が関わることが多く、園芸作物の分野では、特に顕著です。レタスも例外ではなく、収穫適期を農家が判断し、1玉ずつ収穫する必要があることから、収穫期には一般に、人手が不足することが多いです。品目別経営統計(レタス)によれば、10a当たりの総労働時間は133.39時間であるのに対し、収穫作業に29.27時間、調製作業に13.78時間と、収穫・調製作業のみで、総作業時間の32%に達します(1)。さらに、レタスを収穫するときの農作業姿勢も問題となっています。収穫部位が地際部に近いことから、作業姿勢が中腰や前傾姿勢で作業することが多くなりがちです。中腰で状態を深く前に倒すような作業姿勢は、疲労が大きくつらい姿勢であることが指摘されており(2)、改善が求められています。
今回紹介する論文では、レタスの収穫を自動で行うことを目的としており、これらの農業従事者の不足や、重労働を軽減することにつながる可能性があります。
新たなレタス収穫ロボット
イギリス・ケンブリッジ大学の研究グループは、2019年に、レタス収穫ロボットの試作と、実際の農場でのテスト結果を報告しました。
レタス収穫ロボットの製作にあたり、
- レタスの収穫部位は緑色であり、周囲も同様に緑色であることから、判別が難しいこと
- 出荷基準に沿うよう、レタスの茎部の長さを揃え、収穫する必要があること
の2点が大きな課題となっていました。
これらに対し、本研究では、画像認識技術の向上(地道なレタス画像の収集・タグ付け)や、地面を基準点として、地面から一定距離のところで、茎を切断することで、茎の長さを揃えるというような工夫を行いました。
実際の露地実験では、91%のレタスの認識に成功し、収穫を試みた内、97%のレタスについて、自動で収穫することができました。なお、1個当たりの平均収穫時間は31.7秒でした。いまだ、人手に比べると時間はかかるものの、レタスを認識し、自動で収穫することについて、現段階で成功しました。
一方、出荷基準に合わないレタス(余分な葉が残っていた・茎の長さが基準に合わないなど)が、全体の38%を占めてしまったことから、今後の要改良点であると考えられました。しかしながら、これらはスーパー等小売店に出荷する場合の基準であり、実際に自動収穫した32玉のうち、食用に適さなかったのは2玉のみでした。このことから、出荷基準等の緩和がなされれば、現状でも十分に使用できる段階に到達していると考えられました。
コメント
著者らも述べていましたが、手作業に比べ収穫時間が長い点、スーパー出荷基準に合わないレタス(多少の傷や余分な葉まで収穫)を減らすなど、まだ改善できる点があるのは事実です。一方、出荷基準については、サラダ加工用としての出荷を目指すと考えれば、現状でも十分利用可能な段階まで来ていると考えられることに加え、食用に適するレタスを、人手を借りずに自律的に収穫できることから、人手不足や人件費の削減に有用な技術となりえます。さらに、農業従事者の重労働を軽減することにも一役を買う可能性があります。今後の普及にむけた、作業時間の短縮や茎切断位置の調整などのさらなる改良と、製品化に向けた動きに期待したい技術です。
今回紹介した論文
Simon Birrell, Josie Hughes, Julia Y. Cai, and Fumiya Iida. A field tested robotic harvesting system for iceberg lettuce. Journal of Field Robotics 37(2): 225-245. 2019. CC-BY 4.0.
(今回記事内の”新たなレタス収穫ロボット”およびその他紹介した図表は、上記論文のデータ等を一部抜粋・改変したものを記載しています。)
論文オープンアクセスURL:https://doi.org/10.1002/rob.21888
同研究が紹介されているニュース
Cambridge University tests robot to harvest lettuces – BBC Newshttps://www.bbc.com/news/uk-england-cambridgeshire-48911556
その他参考サイト
- (1) 農業経営統計調査 品目別経営統計 確報 平成19年産品目別経営統計 年次 2007年 | ファイル | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00500201&tstat=000001013460&cycle=7&year=20070&month=0&tclass1=000001013649&tclass2=000001020117&tclass3=000001034993
表番号1-7 レタス 分析指標・労働時間(1戸あたり)より - (2)小林恭.作業姿勢・動作の計測と評価.農業機械学会誌60(4): 90-94. 1998年.J-stage:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsam1937/60/4/60_4_90/_article/-char/ja/