水田の水管理IoTシステムとは?水田の水管理IoTシステムの種類やできることについて解説

水田稲作では、水位が生育や品質に影響します。そのため頻繁な水位確認が必要となりますが、肉体的負担になるうえに時間も取られるのが課題です。そこで開発が進められてきたのが、水田に行かなくても水位を確認できるIoTシステム。近年、センサーの性能や通信技術が向上したことで、実用的な製品が販売されるようになりました。本記事では、水管理IoTシステムで何ができるのかを解説し、実際の導入の流れと製品例を紹介します。

水田の水管理にIoTシステムを

水位管理は稲作の肝

水田稲作では、水位の調整が重要な役割を果たします。田植えをしてから根が張るまでは、根本を保温するために水を深く張らなければなりません。分げつが始まったら水を浅くして、株元に光を当てます。しかし水を張ったままにすると、根本が病気にかかったり、過剰に分げつしたりするため、十分に分げつした時点で水を完全に引きます。さらに幼穂が出てきたら、間断灌漑を繰り返さなければなりません。

このように、水田稲作では水を適宜出し入れして、適切な水位に調整する必要があります。

水管理の課題

適切な水位を保つためにこまめに水田と家を往復すると、肉体的負担になるだけでなく時間もかかります。水田面積が大きい農家ほど、水位の確認には膨大な時間と労力を要するでしょう。

特に近年は、会社員やパラレルワーカーが副業的に農業を営むパターンも見られます。そのような場合はなおのこと、時間的制約がある中で効率よく水管理をすることが重要です。

IoTが水田にもたらす解決策

自宅から水位を確認できる

水管理IoTシステムは、水田の水に関するデータを取得してクラウドに送ることで、インターネットを介した確認・遠隔操作を可能にします。水田の水管理にかかる肉体的・時間的負担を軽減するために開発されました。

IoTシステムを導入すれば、自宅にいながらにして水田の水位を確認できます。水管理が必要なタイミングを見極めて作業ができるので、不要な往復がなくなり、時間が手に入流でしょう。

さらに、水位や水温などのデータが蓄積されてゆくため、日ごとの変化を見られるようになります。定量的なデータを見ることで、経験や勘では気づかなかった知見が得られるかもしれません。

IoTシステムの概要

システムは以下の要素で構成されています。

  • センサー:水田に設営される水位センサーです(機種によっては水温も取得可能)。水位を自動で測定し、取得データを無線基地局へ送信します。
  • 無線基地局:無線通信(LTE/3Gなど)でセンサーとインターネットを繋ぐための設備です。センサーから送られてきたデータをクラウドへ送信する役割を果たします。
  • 管理用アプリケーション:クラウド上のデータを、パソコンやスマートフォンで表示するために必要です。製品によっては、遠隔操作式の水門に指示を送ることもできます。

ここまで進んだ水管理IoTシステム

水門開閉装置との連携が可能

水門を自動または遠隔操作で開閉できる装置は既に実用化されており、製品によっては水管理IoTシステムとの連携が可能です。水位に応じて給水装置のオン・オフを切り替えることで、人手による水位管理を大幅に削減できるでしょう。

製品例として、以下のものを紹介します。

  • パディッチバルブゼロワン(株式会社笑農和):水門を遠隔操作する装置で、後述する「水管理パックS」と連動できます。
  • 水田ファーモ(株式会社ぶらんこ):追加オプションとして、給水・止水を遠隔操作できる装置が設置できます。

データの蓄積が得られる

センサーが自動でデータを取得し続けてくれるため、水田まで足を運んで手作業で水位を測定するよりも、抜け・漏れの少ないデータが得られます。さらに、クラウドに保存されたデータを分析に使えるのも長所です。水位や水温と栽培結果との関係性を考え、翌年以降の改善につなげられるでしょう。

異常の早期発見

センサーはリアルタイムで水位や水温の情報を感知するため、異常の見落としを防ぐことができます。たとえば水田から漏水している場合、日ごとの水位低下が異常に早いことがセンサーの測定値から読み取れます。そのため、漏水を早期発見して対策をとり、水の無駄によるコスト増を予防できるでしょう。

大規模な水田にも対応

建物などの障害物で遮られていなければ、水田のセンサーと無線基地局は1㎞程度離れていても通信可能です。また、無線基地局を高所に設置すれば、1㎞以上の距離にも対応できます。そのため大規模な水田でも、無線基地局を適切に設置すれば、全体を水管理IoTシステムでカバー可能です。

通信費の低コスト化

これまでの農業用センサーは1台ずつsimカードを差し込んで通信していたため、導入するセンサーの数が増えるほど通信費もかかっていました。しかし株式会社インターネットイニシアティブの製品はsimカードを使わないため、通信にかかるコストが大幅に下がります。そのため、大規模な水田でも最小限の通信費でシステムを導入できるようになりました。

水田IoTシステムの導入方法

メーカーに相談

まず、水田のある地域が通信網でカバーされているかを確認するのが重要です。水田規模や地形、距離などによっても通信環境は変化するので、メーカーと相談しながら導入機種を選びます。

設置するセンサー数や無線基地局の位置を整理し、メーカーに見積もりを依頼して、導入するかどうか検討を進めましょう。

大規模な工事は不要

ハードウェアはセンサーと無線基地局、およびオプションで設置する場合は水門開閉装置です。これらの設営には大規模な工事は必要ありません。通信は無線(LTE/3Gなど)でおこなわれるため、回線工事も不要です。

アプリケーションと連携

センサーが取得したデータは、無線基地局からクラウドへ送信され、パソコンやスマートフォンなどの端末で閲覧できるようになります。データ閲覧のためには、製品パッケージに含まれている専用アプリケーションが必要です。使用する端末にアプリケーションをインストールし、データが取得できることが確認できれば、水田IoTシステムの実装は完了です。

水田の水管理IoTシステムの製品紹介

実際に販売されている製品を紹介します。

水田farmo

こちらは株式会社ぶらんこが開発・販売する水位管理システムです。

特徴としては

  • スマートフォンから水位が確認できる
  • 給水と止水が遠隔でできる(別売)
  • 一定の水位になるとアラートを発生させられる
  • 価格が18,000円(税別)〜と導入しやすい
  • 配線工事・電池交換不要

水管理パックS

こちらは株式会社インターネットイニシアティブが開発し、住友商事株式会社が販売しているものです

この製品には次の4種類が含まれています。

  • 水田に設置するセンサー:水田の水位と水温を感知する(10台)
  • 無線基地局:センサーからの情報をクラウドに送信する
  • スマホ用アプリ利用料:水田の情報を閲覧する(3年間分)
  • 通信料:センサーとクラウド間の通信料(3年間分)

これら4つがセットになっており、料金は398,000円(税抜き)です。

参考サイト