営農管理ソフト比較|主要サービスの機能・価格・特徴まとめ
営農管理ソフトとは
営農管理ソフト(Farm Management Software / FMS)とは、圃場の管理、作業記録、収支計算、作付計画など、農業経営に必要な情報を一元的に管理するためのソフトウェアです。近年はクラウド型のサービスが主流となり、スマートフォンやタブレットから現場で直接データを入力できるものが増えています。
営農管理ソフトを導入することで、以下のようなメリットが期待できます。
- 圃場ごとの作業履歴・栽培記録をデジタル化し、データに基づく経営判断が可能になる
- GAP認証(JGAP・GLOBAL G.A.P.など)の取得に必要な記録管理が効率化される
- 作業指示や進捗管理を通じて、従業員間の情報共有がスムーズになる
- 収支やコストの見える化により、収益性の高い作物・圃場を特定できる
- 衛星画像やセンサーデータと連携し、精密農業(圃場管理プラットフォーム)を実現できる
日本国内では、圃場管理システムを提供する企業が増えており、規模や作物に応じて多様な選択肢があります。この記事では、国内外の主要な営農管理ソフトを比較し、選び方のポイントを解説します。
営農管理ソフト比較表
主要な営農管理ソフトの機能・価格・特徴を一覧でまとめました。
国内の営農管理ソフト
| ソフト名 | 提供企業 | 主な機能 | 対応作物 | 価格帯 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|---|
| アグリノート | ウォーターセル | 圃場管理、作業記録、作付計画、GAP対応 | 全作物 | 無料〜年額33,000円 | 国内シェアトップクラス。直感的なUI |
| KSAS | クボタ | 圃場管理、作業日誌、農機管理、食味・収量分析 | 全作物(水稲に強み) | 無料(100圃場まで) | クボタ農機との連携が強力 |
| 豊作計画 | トヨタ自動車 | 作業計画、受注・出荷管理、人員管理、経営分析 | 土地利用型作物、野菜、果樹、畜産 | 要問い合わせ | トヨタ生産方式を農業に応用 |
| Z-GIS | JA全農 | 圃場地図管理、栽培記録、気象情報連携 | 全作物 | 月額220円(100圃場単位) | Excel連携。低コストで導入しやすい |
| xarvio FIELD MANAGER | BASF | 衛星画像解析、施肥支援、防除支援、LINE通知 | 水稲、麦、大豆、馬鈴薯、甜菜、牧草ほか | 無料プランあり | 衛星データとAIで栽培を最適化 |
| Agrion | 富士通クラウドテクノロジーズ | 農業日誌、販売管理、施設園芸管理 | 全作物 | 月額980円〜 | freee連携。販売管理まで一気通貫 |
| 農業日誌V6プラス | ソリマチ | 作業記録、防除記録、栽培履歴書作成、免税軽油実績管理 | 全作物 | 買い切り型(約15,000円前後) | オフラインPC型。農業簿記と連携 |
海外の営農管理ソフト
| ソフト名 | 提供企業 | 主な機能 | 対応作物 | 価格帯 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|---|
| Climate FieldView | Bayer | 収量マッピング、衛星画像、播種・施肥処方、データ分析 | 穀物全般 | 無料〜有料(FieldView Drive $649.99) | 世界23カ国、2.5億エーカー以上で利用 |
| Granular | Corteva Agriscience | 経営分析、圃場収益管理、作業計画、窒素管理 | 穀物全般 | 無料ツールあり(プレミアム版は要問い合わせ) | 圃場レベルの収益分析に強み |
| Trimble Ag Software | PTx Trimble(AGCO・Trimble JV) | 精密農業、可変施肥、フリート管理、収益マップ | 穀物全般 | 要問い合わせ | GPS・精密農業ハードとの統合 |
| AgriWebb | AgriWebb | 家畜管理、放牧管理、動物衛生記録、炭素計算 | 畜産(牛・羊) | 年額$150〜$500程度 | 畜産特化。オフライン対応 |
国内の営農管理ソフト詳細
アグリノート(ウォーターセル)
アグリノートは、ウォーターセル株式会社が提供するクラウド型の営農支援アプリです。「4軒に1軒が使っている」と言われるほど国内で広く普及しており、日本の営農管理ソフトの中でトップクラスのシェアを誇ります。
主な機能は以下のとおりです。
- 地図上での圃場管理と作付計画
- 作業記録・農薬使用記録のデジタル化
- JGAP・GLOBAL G.A.P.認証対応の帳票出力
- スマートフォン・PC両対応
- 複数ユーザーでの共有(ID追加・人数制限なし)
料金プランは、無料プラン(100圃場・20記録まで)のほか、Sプラン(年額11,000円)、Mプラン(年額22,000円・400圃場)、Lプラン(年額33,000円・圃場数無制限)が用意されています。組織向けには「アグリノートマネージャー」というデータ集約・分析サービスも提供されています。
KSAS ― クボタスマートアグリシステム(クボタ)
KSASは、株式会社クボタが2014年から提供している営農支援システムです。クボタの農業機械と連携することで、田植機やコンバインから取得した食味・収量データを自動的にクラウドへ蓄積し、PDCA型の農業経営を実現します。
主な特徴は以下のとおりです。
- クボタ製農機(コンバイン、田植機、トラクター、ドローン)と直接連携
- 食味・収量センサーにより圃場ごとの品質を可視化
- 電子地図による圃場管理と作業日誌
- 乾燥機・色彩選別機との連携による一貫管理
100圃場まで無料で利用でき、クボタ製農機のユーザーであれば初年度は全機能を無料で試すことができます。特に水稲栽培を中心とする土地利用型農業に強みがあります。
豊作計画(トヨタ自動車)
豊作計画は、トヨタ自動車が「トヨタ生産方式」を農業に応用して開発した営農管理ツールです。全国94の農業経営体に導入されており、製造業のノウハウを農業の生産工程管理に活かしている点が他のソフトとは異なる独自の特徴です。
2つのタイプが用意されています。
- Type A:米、麦、大豆など土地利用型作物が対象。従来の豊作計画を踏襲したタイプ
- Type B:野菜、果樹、畜産、林業など幅広い品目に対応。受注・出荷・生育・在庫・人員管理が可能
経営管理機能では、品目ごとの売上や利益率を見える化する「成績表」や、面積・収量・売上の「シミュレーション」などにより、収益性向上を支援します。料金は個別見積もりとなりますが、刷新時にアカウントあたり30%以上の価格低減が実現されています。
Z-GIS(JA全農)
Z-GISは、JA全農が提供する営農管理システムです。地図上に作成した圃場ポリゴンとExcelデータを紐づけて管理するという、シンプルかつ実用的な設計が特徴です。
主な機能は以下のとおりです。
- 圃場の位置情報(経緯度)とExcelデータの紐づけ管理
- 圃場台帳管理(賃借、委託など)
- 作付計画、作業内容の記録
- 1kmメッシュ気象情報の閲覧
- 作業指示・報告・履歴の管理
- 栽培履歴や生育状況写真のクラウド保管
料金は100圃場ごとに月額220円(税込)と非常に低コストです。2,000圃場以上は月額定額4,400円(税込)となります。Excelに慣れている農業者にとっては導入のハードルが低いソフトです。
xarvio FIELD MANAGER(BASF)
xarvio FIELD MANAGERは、ドイツの化学メーカーBASFが提供する栽培管理支援システムです。衛星画像とAI解析を活用して各圃場の状態を把握し、最適な栽培方法をアドバイスする点が特徴です。衛星画像やリモートセンシングを活用した営農支援の代表例といえます。
2025年には水稲栽培向けの病害・害虫・雑草対策機能が強化され、LINEで防除・追肥・収穫適期の情報を通知する機能も追加されました。対応作物は水稲、麦類、大豆、馬鈴薯、甜菜、牧草など19品目以上です。
成果保証型サービス「xarvio HEALTHY FIELDS」も2025年に開始され、日本初の米づくりにおける雑草防除の成果保証を提供しています。
Agrion(富士通クラウドテクノロジーズ)
Agrionは、ITを活用して効率的に農業経営を行いたい方向けのクラウド型サービスです。農業日誌、販売管理、施設園芸管理の3つのサービスを提供しています。
主な特徴は以下のとおりです。
- 日本全国の農地データが地図としてプリセットされており、登録が簡単
- 農薬使用記録レポートの自動出力
- クラウド会計ソフト「freee」との連携
- 販売管理(受注・出荷・請求)まで一気通貫で対応
料金は農業日誌が月額980円から、販売管理が月額1,980円から利用できます。施設園芸は初期費用200,000円(初年度基本料金含む)に月額3,500円(5ユーザー)からとなっています。
農業日誌V6プラス(ソリマチ)
農業日誌V6プラスは、ソリマチ株式会社が提供するPC型の営農管理ソフトです。クラウド型が主流の中、インストール型(買い切り)で使える点が特徴で、インターネット環境に左右されずに利用できます。
主な機能は以下のとおりです。
- 天気、作業内容、労働時間、機械稼働時間、資材投下量の記録
- 施肥・追肥や農薬履歴などの防除記録
- 栽培履歴書の作成(食品安全性のアピールに活用)
- 免税軽油実績表の印刷
- 同社の「農業簿記」との連携
農業簿記と農業日誌V6プラスのスタートパックが販売されており、買い切り型のため月額費用はかかりません。購入後にユーザー登録をすると「ソリマチクラブ」の初年度年会費が無料になる特典もあります。
海外の営農管理ソフト
海外では大規模農業向けの高機能な営農管理ソフトが多数開発されています。日本で直接利用できないものもありますが、今後のスマート農業の方向性を知るうえで参考になります。
Climate FieldView(Bayer)
Climate FieldViewは、ドイツのBayer(旧Monsanto/The Climate Corporation)が提供する精密農業プラットフォームです。世界23カ国、2億5,000万エーカー以上で利用されており、デジタル農業分野で最大級の規模を誇ります。Climate Corporationの技術をベースに開発されました。
主な機能は以下のとおりです。
- 収量マッピングとフィールドヘルスイメージ(衛星画像)
- 播種・施肥の可変レート処方作成
- 収穫前の収量ポテンシャル推定
- 「Your Farm at a Glance」による農場全体のサマリー表示
- 施用製品ごとの収量分析とROI評価
無料のPrimeプランから、より高度な分析ができるPlusプラン、Premiumプランまで段階的に用意されています。専用デバイス「FieldView Drive 2.0」($649.99)を使うことで、農機からのデータ自動収集も可能です。
Granular(Corteva Agriscience)
Granularは、Corteva Agriscience(旧DuPont/Dow AgroSciences)が提供する農場管理ソフトウェアです。農場の計画、実行、財務分析、サステナビリティ追跡までをカバーする包括的なプラットフォームです。
主な特徴は以下のとおりです。
- 圃場レベルの収益性分析(Profit Maps)
- 農学的データと経済データの統合分析
- 窒素管理の最適化ツール
- John Deere Operations Center、Case IH AFS Connectなど主要農機メーカーのデータと連携
- 無料の「Granular Insights」ツールで圃場収益の計測が可能
無料ツール「Granular Insights」が提供されているほか、プレミアム版は個別見積もりとなっています。米国の大規模穀物農家を中心に利用されています。
Trimble Ag Software(PTx Trimble)
Trimble Ag Softwareは、AGCO(農機大手)とTrimble(GPS・測位技術大手)のジョイントベンチャーであるPTx Trimbleが提供する精密農業ソフトウェアです。GPS・精密農業ハードウェアとの統合が最大の強みです。
3段階のソフトウェアライセンスが用意されています。
- Data:データ管理の入門版。クラウドとの自動同期、機器の利用状況追跡
- Operations:作業計画、機器追跡、オペレーター分析など運用効率の最適化
- Business:財務・農学・運用を統合した高度な経営管理
収益マップ、可変レート施肥制御、リアルタイムのフリート管理など、大規模農業向けの高度な機能を備えています。料金は販売代理店を通じた個別見積もりです。
AgriWebb
AgriWebbは、オーストラリア発の畜産特化型農場管理ソフトウェアです。AgriWebb社の詳細については、当サイトでも紹介しています。
主な機能は以下のとおりです。
- 家畜の個体管理(群管理・個体管理の両対応)
- 放牧ローテーション管理
- 動物衛生記録と薬品管理
- チーム・タスク管理
- 炭素排出量計算ツール
- インタラクティブな農場マップ
料金は家畜頭数に応じた従量課金制で、年額$150〜$500程度です。オフラインファーストの設計で、電波の届きにくい広大な牧場でも利用できる点が大きな利点です。
営農管理ソフトの選び方
営農管理ソフトは多種多様なため、自分の経営に合ったものを選ぶことが重要です。以下のポイントを参考にしてください。
経営規模で選ぶ
- 小規模農家(圃場数が少ない):まずは無料プランのあるソフトから始めるのがおすすめです。アグリノート(無料プラン)、KSAS(100圃場まで無料)、Z-GIS(月額220円〜)は導入ハードルが低く、小規模でも使いやすいサービスです
- 中規模農家・農業法人:作業指示や従業員管理が必要になるため、複数ユーザー対応のソフトが適しています。アグリノート(ユーザー数無制限)、Agrion、豊作計画などが候補になります
- 大規模農業法人:経営分析や収支管理まで一貫して行えるソフトが必要です。豊作計画のType B、または海外製のGranularやTrimble Ag Softwareが選択肢に入ります
作物の種類で選ぶ
- 水稲・麦・大豆(土地利用型作物):KSAS(クボタ農機連携)、Z-GIS、xarvio FIELD MANAGER(衛星解析による施肥・防除支援)が適しています
- 野菜・果樹:アグリノート、Agrion、豊作計画Type Bなど、多品目に対応したソフトが向いています
- 施設園芸:Agrionの施設園芸管理サービスや、屋内農業向けプラットフォームが参考になります
- 畜産:AgriWebbが畜産に特化した管理を提供しています。国内では豊作計画Type Bが畜産にも対応しています
導入形態で選ぶ
- クラウド型(SaaS):アグリノート、KSAS、Z-GIS、xarvio、Agrionなどほとんどのソフトが該当します。スマートフォンからの入力や複数端末での共有が可能で、導入も容易です
- インストール型(買い切り):農業日誌V6プラスが該当します。インターネット環境が不安定な地域や、月額課金を避けたい場合に適しています
連携機能で選ぶ
- 農機連携を重視する場合:クボタ農機ユーザーならKSAS、Trimble/AGCO機器を使うならTrimble Ag Softwareが最適です
- 会計ソフト連携を重視する場合:Agrion(freee連携)、農業日誌V6プラス(農業簿記連携)が便利です
- 衛星画像・リモートセンシングを活用したい場合:xarvio FIELD MANAGER、Climate FieldViewが圃場モニタリングの機能に優れています
コストで選ぶ
まずは無料プランやトライアルで試し、自分の経営に合うかを確認してから有料プランへ移行するのが堅実な進め方です。国内ソフトの多くは無料プランまたは低価格帯のプランを用意しており、導入のリスクは低く抑えられます。