農業用トイレ比較|圃場向けトイレの種類・価格・選び方ガイド
農業現場でのトイレ問題は、多くの農業従事者が直面する深刻な課題です。特に圃場(畑・果樹園など)にトイレがない場合、作業効率の低下だけでなく、衛生面や労働環境の悪化につながります。本記事では、農業用トイレの種類、主要メーカーの製品比較、価格帯、選び方のポイントまで詳しく解説します。
農業用トイレが必要な理由
農業の現場にトイレを設置することは、単なる利便性の問題ではありません。衛生管理、労働環境の整備、さらには認証取得の観点からも重要な課題です。
GAP認証とトイレ設置の関係
GAP(Good Agricultural Practices:農業生産工程管理)は、食品安全、環境保全、労働安全などの観点から農業生産工程を管理する取り組みです。農林水産省が推進する国際水準GAPガイドラインでは、食品安全の観点から圃場や施設におけるトイレの確保と衛生管理が求められています。
具体的には、以下の点が基準として示されています。
- 圃場や作業場の近くにトイレが確保されていること
- トイレの汚物・汚水が圃場や施設、水路を汚染しないこと
- 手洗い設備が整備されていること
- トイレが清潔に維持管理されていること
JGAP、ASIAGAP、GLOBALGAPなどの第三者認証を取得する際にも、トイレの設置と衛生管理は審査項目に含まれます。GAP認証の取得を目指す農業法人にとって、トイレ整備は避けて通れない課題です。
女性農業者の参入障壁
農業現場のトイレ問題は、特に女性農業者にとって深刻です。農林水産省の農業女子プロジェクトでも、農業現場の労働環境改善において、トイレの整備は最も優先度の高い課題の一つとして挙げられています。
女性農業者からは以下のような声が上がっています。
- トイレがないため水分摂取を控え、熱中症のリスクが高まる
- トイレのない農地では作業依頼を受けられない
- 男女別トイレがなく、プライバシーが確保できない
- トイレ環境が原因で農業への就業を断念する人もいる
農水省は2024年度補正予算で「女性の就農環境改善・活躍推進事業」を盛り込み、トイレ設置を含む環境整備に1件あたり最大300万円の助成を行っています。
衛生管理と食品安全
農産物の安全性を確保するうえで、作業者の衛生管理は極めて重要です。トイレがない環境では手洗いの機会が失われ、農産物への汚染リスクが高まります。営農管理システムの導入とあわせて、衛生管理体制を整えることが求められます。
農業用トイレの種類
農業現場で使用されるトイレには、いくつかの種類があります。それぞれの特徴を理解したうえで、設置環境や予算に合ったものを選ぶことが大切です。
汲み取り式(非水洗式)トイレ
最もシンプルな構造の仮設トイレです。電気や水道の接続が不要で、どこにでも設置できるのが最大のメリットです。
- メリット:設置が簡単、初期費用が安い、電気・水道不要
- デメリット:定期的な汲み取りが必要、臭いが発生しやすい、虫が集まりやすい
- 価格帯:購入10万〜20万円程度、レンタル月額1万〜2万円程度
簡易水洗式トイレ
少量の水で排泄物を流す方式のトイレです。汲み取り式と比べて臭いが抑えられ、家庭用トイレに近い使用感が得られます。給排水工事が不要なポンプ式もあり、農業現場で人気の高いタイプです。
- メリット:臭いが少ない、衛生的、使用感が良い
- デメリット:水の補充が必要、汲み取りも必要、汲み取り式より高価
- 価格帯:購入15万〜25万円程度、レンタル月額1.5万〜3万円程度
バイオトイレ(微生物分解型)
おがくずや木質チップなどの基材に含まれる微生物の働きで、排泄物を分解・処理するトイレです。水をほとんど使わず、汲み取りの頻度も大幅に減らせます。分解後の基材は有機肥料として農地で活用できるため、農業との相性が良いのが特徴です。
- メリット:汲み取り不要または長期間不要、臭いが少ない、処理物を肥料に活用可能
- デメリット:初期費用が高い、電源が必要な製品が多い、基材の交換が必要
- 価格帯:購入50万〜200万円程度
自然還元式トイレ
排泄物を微生物と酵素剤で分解し、液体を土壌に自然還元させるタイプです。電気も水道も不要で、分解された液体は植栽の液肥として利用できます。農地専用に開発された製品が中心です。
- メリット:電気・水道不要、汲み取り長期間不要、液肥として活用可能
- デメリット:設置場所の土壌条件に左右される、利用人数に制限がある
- 価格帯:購入35万〜55万円程度
水洗式仮設トイレ
上下水道に接続して使用する水洗式の仮設トイレです。家庭用トイレと同等の快適さですが、給排水工事が必要なため、設置場所が限られます。植物工場や大規模な農業施設の敷地内に適しています。
- メリット:最も衛生的で快適、汲み取り不要
- デメリット:給排水工事が必要、設置コストが高い、設置場所が限定される
- 価格帯:購入20万〜40万円程度(別途工事費)、レンタル月額3万〜7万円程度
農業用トイレの製品比較表
日本国内で入手可能な主な農業用トイレ製品を比較します。
| 製品名 / メーカー | 種類 | 特徴 | 参考価格帯(税別) | 設置条件 |
|---|---|---|---|---|
| TU-iXF4 / ハマネツ | ポンプ式簡易水洗 | 給排水工事不要、足踏みポンプ式 | 約20万円 | 電気・水道不要 |
| TU-iXWH / ハマネツ | 非水洗(洋式) | 洋式便器、シンプル構造 | 約20万円 | 電気・水道不要 |
| GX-WQP / 日野興業 | 簡易水洗(洋式) | 陶器製便器、PE製本体 | 約20万〜25万円 | 電気不要・少量の水が必要 |
| WGX-WLS / 日野興業 | 水洗(洋式) | 手洗い付き、快適トイレ仕様 | 約25万〜30万円 | 給排水接続が必要 |
| AUG-FW / 旭ハウス工業 | 水洗(洋式) | 20分で設置完了、軽量設計 | 約20万〜30万円 | 給排水接続が必要 |
| AUトイレ / ネポン | ポンプ式簡易水洗 | 陶器製便器、農業用ハウス向け | 約20万〜25万円 | 電気不要・少量の水が必要 |
| アグリレット FT-2S / ロンシール機器 | 自然還元式 | 電気・水道不要、液肥として還元 | 約35万〜50万円 | 電気・水道不要 |
| Bio-Lux / 正和電工 | バイオトイレ(おがくず式) | 水不要、おがくず年2〜3回交換、肥料化 | 要問合せ | 電源が必要(100V) |
| バイオR21 / 大央電設工業 | バイオトイレ(微生物分解型) | 信州大学共同開発菌、基材交換不要 | 約150万円〜 | 電源が必要(100V) |
おすすめの農業用トイレ製品
リサーチの結果をもとに、農業現場に適したトイレ製品を種類別に紹介します。
仮設トイレ系(汲み取り式・簡易水洗式)
仮設トイレ系は初期費用が比較的安く、設置も簡単なため、多くの農家で利用されています。
ハマネツ TU-iXシリーズ

ハマネツは仮設トイレの国内大手メーカーです。TU-iXシリーズは農業現場でも広く使われており、非水洗の和式・洋式からポンプ式簡易水洗まで幅広いラインナップがあります。
- TU-iXF4(ポンプ式簡易水洗・洋式):足踏みポンプで少量の水を流す方式。給排水工事が不要で、農地にそのまま設置可能です。参考価格は約20万円前後(税別)
- TU-iXWH(非水洗・洋式):最もシンプルな構造で、電気・水道ともに不要。参考価格は約20万円前後(税別)
- 公式通販サイト「仮設トイレマート」で直接購入可能
日野興業 GXシリーズ

日野興業は国内で初めて仮設トイレを製造した老舗メーカーです。ポリエチレン素材で耐久性が高く、農業現場の過酷な環境にも対応します。
- GX-WQP(簡易水洗・洋式・陶器製):陶器製便器で汚れがつきにくく、清掃が容易です
- WGXシリーズ(水洗・洋式):手洗い付きモデルがあり、国土交通省の「快適トイレ」基準にも対応
- PE(ポリエチレン)製の本体は水に強く腐食しにくいため、屋外での長期使用に適しています
旭ハウス工業 AUシリーズ
旭ハウス工業は仮設トイレと仮設資材の専門メーカーです。農業用途にも力を入れており、設置の手軽さが特徴です。
- AUG-FW(水洗・洋式):わずか20分で設置完了できる軽量設計。農園のトイレ不足解消に適しています
- AUシリーズ(簡易水洗):ペダル式の軽水洗で、足踏みで水を引き上げて洗浄する方式です
- 公式オンラインショップで購入可能
ネポン AUトイレ・パールトイレ

ネポンは農業用暖房機でも知られるメーカーで、農業現場を熟知した製品開発を行っています。
- AUトイレ(ポンプ式簡易水洗):陶器製の洋式便器で、農業用ハウスや圃場に設置可能です
- パールトイレ(泡洗浄式):泡で便器を覆い臭気を抑える独自技術。超節水タイプで水道代を大幅に削減できます
- 農業用ハウスメーカーとしての知見を活かし、農業施設との一体的な設計提案にも対応しています
バイオトイレ・自然還元式トイレ
バイオトイレは初期費用は高めですが、汲み取りが不要(または長期間不要)で、ランニングコストを抑えられるのが魅力です。処理後の基材を有機肥料として活用できる製品もあり、有機農業に取り組む農家との相性が良い点も注目されています。
アグリレット FT-2S(ロンシール機器)
アグリレットは、農地専用に開発された自然還元式トイレです。電気も水道も不要で、観光農園や果樹園を中心に導入が進んでいます。
- 便槽内の排泄物を微生物と酵素剤で分解し、液体を土壌に自然還元
- 還元された液体は植栽の液肥として利用可能
- 洋式便器タイプで、女性や高齢者も使いやすい設計
- 定価50万円前後(税別)、販売店により35万〜50万円程度
- くみ取りが長期間不要で、ランニングコストを大幅に削減
Bio-Lux バイオラックス(正和電工)
正和電工は北海道旭川市に本社を置くバイオトイレの専門メーカーです。おがくずを使った独自のバイオトイレ「Bio-Lux(バイオラックス)」を製造しています。
- 水を使わず、普通のおがくずで排泄物を分解
- トイレットペーパーも分解可能
- おがくずの交換は年2〜3回程度
- 使用後のおがくずは有機肥料として農地で活用可能
- 家庭用から業務用まで幅広いラインナップ(S型シリーズ、仮設タイプ、ログハウスタイプなど)
- 電源(100V)が必要
バイオR21(大央電設工業)
大央電設工業は長野県茅野市に本社を置く、バイオトイレ一筋30年以上の専門メーカーです。信州大学農学部との共同研究で開発した独自の微生物を使用しています。
- そば殻を基材に使用し、独自の好気性発酵菌で排泄物を分解
- 信州大学との共同研究で開発された菌により、原則として基材交換が不要
- し尿だけでなく生ゴミや廃食用油も処理可能
- 処理物は無臭の有機肥料として活用可能
- 本体価格150万円〜(税別)
- 電源(100V)が必要
レンタルと購入の比較
農業用トイレの導入方法は、大きく「レンタル」と「購入」の2つがあります。それぞれのメリット・デメリットを比較します。
レンタルのメリット・デメリット
- メリット:初期費用が抑えられる、メンテナンスや汲み取りをレンタル業者に任せられる、繁忙期のみの利用が可能、故障時の交換対応がある
- デメリット:長期利用では総コストが購入より高くなる、レンタル業者のサービス対象地域が限られる場合がある
- 費用目安:非水洗式で月額1万〜2万円、簡易水洗式で月額1.5万〜3万円、水洗式で月額3万〜7万円(汲み取り費用は別途)
購入のメリット・デメリット
- メリット:長期的にはレンタルより低コスト、自分のタイミングで設置・移動できる、資産として計上可能
- デメリット:初期費用が高い、メンテナンスや汲み取りの手配が自己責任、不要になった際の処分が必要
- 費用目安:汲み取り式で10万〜20万円、簡易水洗式で15万〜25万円、バイオトイレで50万〜200万円
コスト比較の目安
一般的な簡易水洗式トイレの場合で試算すると、以下のようになります。
- レンタル(3年間):月額2万円 × 36か月 = 72万円(+汲み取り費用)
- 購入(3年間):本体20万円 + 汲み取り費用(年4回 × 3年 × 約2万円)= 約44万円
3年以上の長期利用であれば、購入のほうがコストメリットがあります。ただし、繁忙期のみ(年間数か月)の利用であればレンタルが有利です。
農業用トイレの選び方
農業用トイレを選ぶ際のポイントを整理します。農業の自動化やアシストスーツの導入と同様に、現場の課題を正確に把握したうえで、適切な製品を選定することが重要です。
設置場所を確認する
- 圃場までの距離と地形(搬入ルートの確認)
- 設置面の平坦さ(水平でない場合は整地が必要)
- 風向き(臭い対策として作業場や近隣からの距離を考慮)
- 地盤の強度(重量のある製品は軟弱地盤に注意)
利用人数と使用頻度を確認する
- 常時利用する作業員の人数
- 繁忙期のパート・アルバイトの人数
- 観光農園の場合は来園者数も考慮
- 利用人数が多い場合は複数基の設置や処理能力の大きい製品を検討
電源・水道の有無を確認する
- 電気・水道ともにない場合:汲み取り式、自然還元式(アグリレット等)
- 電源のみある場合:バイオトイレ(Bio-Lux、バイオR21等)
- 電源・水道ともにある場合:簡易水洗式、水洗式
予算を設定する
- 初期費用(本体価格+設置費用)
- ランニングコスト(汲み取り費用、水道代、電気代、基材交換費用)
- 利用可能な補助金・助成金の確認(農林水産省の「女性の就農環境改善・活躍推進事業」など)
GAP認証への対応を確認する
GAP認証の取得を予定している場合は、以下の点を確認しましょう。
- 汚物・汚水が圃場や水路を汚染しない構造であること
- 手洗い設備の設置が可能であること
- 清掃・維持管理が容易であること
- 記録・点検がしやすい製品であること
営農管理システムと連携して衛生管理記録をデジタル化することで、GAP認証の取得・維持がスムーズになります。
女性利用者への配慮
女性従業員やパートがいる農業法人では、以下の配慮が重要です。
- 洋式便器の製品を選ぶ(和式よりも利用しやすい)
- 施錠機能があること
- 室内にフックや棚があり、荷物を置ける設計であること
- 可能であれば男女別に設置する
農業の参入障壁を下げ、多様な人材が働きやすい環境を整えるためにも、トイレ環境の整備は欠かせません。