バイオスティミュラント完全ガイド|種類・効果・主要製品の比較と選び方
バイオスティミュラント(生物刺激剤)は、肥料でも農薬でもない「第三の農業資材」として世界的に注目を集めています。EUでは2022年に法的な定義が確立され、世界市場は2030年に約80億ドル規模に達すると予測されています。日本でも農林水産省が「みどりの食料システム戦略」で革新的作物保護技術として位置づけ、2025年にはガイドラインが公表されました。本記事では、バイオスティミュラントの定義・種類・主要製品の比較から、学術論文に基づくエビデンス、選び方のポイント、日本での規制動向まで、網羅的に解説します。
バイオスティミュラントとは
定義
バイオスティミュラントの国際的に最も広く参照される定義は、EU規則2019/1009(欧州肥料製品規則)に定められたものです。同規則では、「植物バイオスティミュラントとは、栄養素の含有量にかかわらず植物の栄養プロセスを刺激し、以下の特性の1つ以上を改善することのみを目的とするEU肥料製品」と定義しています。
改善対象として挙げられている特性は以下の通りです。
- 栄養素の利用効率
- 非生物的ストレスへの耐性
- 品質特性
- 土壌および根圏における固定化された栄養素の可給性
この規則は2022年7月16日に施行され、バイオスティミュラントに初めて法的な定義を与えた画期的なものとなりました。日本では、農林水産省が2025年に公表したガイドラインにおいて、「農作物やその周りの土壌が元々持つ機能を補助する物質、微生物またはこれらを混合した資材であり、農作物または土壌に施すことで、非生物的ストレス(乾燥・高温・塩害等)に対する耐性を改善するもの」と定義しています。
肥料・農薬との違い
バイオスティミュラントは、肥料や農薬とは明確に異なるカテゴリーの資材です。
肥料は、窒素・リン酸・カリウムなどの栄養素を直接植物に供給するものです。一方、バイオスティミュラントは栄養素そのものを供給するのではなく、植物が栄養素を吸収・利用する効率を高めます。
農薬は、病害虫や雑草を直接防除・駆除するものです。バイオスティミュラントは病害虫を直接殺すことを目的とせず、植物自身のストレス耐性や免疫機能を高めることで、間接的に植物の健全性を向上させます。
つまり、バイオスティミュラントは植物の「体質改善」を促す資材であり、栄養素を与える肥料とも、病害虫を防除する農薬とも異なる、独自の位置づけにあります。
作用メカニズム
バイオスティミュラントの作用メカニズムは多岐にわたり、種類によって異なりますが、主に以下のような経路で植物に影響を与えます。
- 植物ホルモンの調節: オーキシン、サイトカイニン、ジベレリンなど内生植物ホルモンの合成や活性を調節し、根の伸長や芽の発達を促進します
- 栄養素の吸収促進: 根の表面積を増大させたり、土壌中の栄養素の可溶化を促進することで、植物の栄養吸収効率を高めます
- 抗酸化システムの強化: 活性酸素種(ROS)を除去する抗酸化酵素の活性を高め、乾燥・高温・塩害などの非生物的ストレスに対する耐性を向上させます
- 光合成の促進: クロロフィル含量の増加や光合成関連酵素の活性化により、光合成効率を高めます
- 土壌微生物叢の改善: 根圏の有益な微生物の増殖を促進し、土壌の生物的活性を高めます
バイオスティミュラントの種類
バイオスティミュラントは、その原料や有効成分によって大きくいくつかのカテゴリーに分類されます。
腐植酸・フルボ酸
腐植酸(ヒューミックアシッド)とフルボ酸(フルビックアシッド)は、動植物・微生物の残渣が分解されてできる天然の有機物質です。土壌改良効果とバイオスティミュラント効果の両方を持ちます。
メタアナリシスによれば、腐植物質の外部施用により、さまざまな植物種の地上部および根の乾物重が平均約22%増加することが報告されています(Canellas et al., 2015, Scientia Horticulturae)。イネを対象とした大規模圃場試験では、腐植酸バイオスティミュラントの葉面散布により平均7.4%の収量増加が確認され、93%の試験区で増収効果がみられました(PMC, 2024)。
主な作用メカニズムは以下の通りです。
- 根の発達促進(側根や根毛の増加)
- 土壌中の栄養素の可溶化とキレート化による吸収促進
- 土壌構造の改善と保水性の向上
- 土壌微生物の活性化
海藻抽出物
海藻抽出物は、最も広く研究・利用されているバイオスティミュラントの一つです。特に褐藻類のアスコフィラム・ノドサム(Ascophyllum nodosum)は、商業用バイオスティミュラントの原料として最も多く使用されている海藻です。
海藻抽出物には、サイトカイニン、オーキシン、ジベレリン、アブシジン酸などの植物ホルモンのほか、アルギン酸、ラミナリン、フコイダンなどの多糖類、アミノ酸、ビタミン、ミネラルなど60種類以上の成分が含まれます(Shukla et al., 2019, Frontiers in Plant Science)。
主な効果として、以下が学術論文で報告されています。
- 植物の生長促進(草丈、茎径、葉面積、根長の増加)
- 乾燥・高温・塩害などの非生物的ストレスへの耐性向上
- 病害に対する植物の防御機構の活性化
- 根圏微生物叢の多様性と活性の向上
- 果実品質と収穫後の保存性の改善
アミノ酸・タンパク質加水分解物
タンパク質加水分解物は、動物性または植物性のタンパク質原料を酵素的あるいは化学的に加水分解して得られる、ポリペプチドと遊離アミノ酸の混合物です。近年は品質と安全性の観点から、植物由来の酵素加水分解物が主流になりつつあります。
Colla et al.(2017, Frontiers in Plant Science)のレビューによれば、タンパク質加水分解物は以下のメカニズムで植物に作用します。
- タンパク質合成と光合成プロセスの促進
- 栄養素の吸収・転流・利用の促進
- 植物の酸化還元恒常性の調節
- ストレス耐性と防御機構の強化
具体的な効果として、植物由来タンパク質加水分解物「Trainer」を週1回、2.5 mL/Lの濃度で葉面散布した試験では、ベビーリーフレタスの収量が50%増加し、窒素吸収量も有意に向上したことが報告されています(Colla et al., 2014, PMC)。
微生物系(菌根菌、トリコデルマ、バチルス等)
微生物系バイオスティミュラントは、植物と共生的な関係を築く有益な微生物を利用するカテゴリーです。市場調査では、微生物系セグメントは年平均成長率(CAGR)13.0%と最も高い成長が予測されています。
アーバスキュラー菌根菌(AMF)
植物の根に共生し、菌糸ネットワークを通じて栄養素(特にリン)と水分の吸収を大幅に拡大します。AMFは「菌根誘導抵抗性(MIR)」と呼ばれる防御メカニズムを誘導し、さまざまな病害虫からの保護にも寄与します(Guillen et al., 2024, Microorganisms)。
トリコデルマ属菌(Trichoderma spp.)
土壌病害の拮抗微生物として古くから知られていますが、近年はバイオスティミュラントとしての効果も注目されています。根の発達促進、栄養素(特にリン)の可溶化、乾燥・塩害・重金属ストレスへの耐性付与など、多面的な効果が報告されています(MDPI, 2025)。
バチルス属菌(Bacillus spp.)
植物成長促進根圏細菌(PGPR)の代表的な属であり、インドール酢酸(IAA)などの植物ホルモンの産生、リンの可溶化、窒素固定などを行います。トリコデルマとの併用により相乗効果が期待でき、塩類集積土壌での植物の成長と健全性を多面的にサポートすることが報告されています(Ferrara et al., 2024, Frontiers in Microbiology)。
キトサン
キトサンは、甲殻類の外骨格に含まれるキチンを脱アセチル化して得られる天然の多糖類です。無毒性・生分解性・生体適合性を備えており、農業への幅広い応用が期待されています。
植物の細胞膜にはキチン特異的受容体が存在し、キトサンの施用により植物の防御応答が活性化されます(Sharif et al., 2018, Physiology and Molecular Biology of Plants)。具体的には以下の効果が確認されています。
- PR(病原性関連)タンパク質の誘導(キチナーゼ、β-1,3-グルカナーゼなど)
- アブシジン酸(ABA)合成を介した気孔閉鎖と光合成速度の調節
- 一酸化窒素(NO)・過酸化水素(H2O2)シグナル経路を介した抗酸化酵素の活性化
- 抗菌・抗真菌・抗ウイルス・抗酸化活性
その他(珪酸、ビタミン類等)
珪酸(シリコン)は、植物の細胞壁に蓄積して物理的な防御バリアを形成するとともに、植物ホルモンやシグナル伝達経路を調節して非生物的・生物的ストレスへの耐性を高めます。コムギ、イネ、トウモロコシ、トマト、ピーマンなど幅広い作物で乾燥・高温ストレスの軽減効果が確認されています(Ma & Yamaji, 2006, Trends in Plant Science; Luyckx et al., 2017, Frontiers in Plant Science)。
ビタミン類(ビタミンB群、ビタミンCなど)も、抗酸化作用やエネルギー代謝の補助を通じてバイオスティミュラント効果を発揮する成分として、一部の製品に配合されています。
主要メーカー・製品比較
以下に、世界の主要メーカーとその代表的なバイオスティミュラント製品を比較します。
海外主要メーカーの製品


| メーカー | 製品名 | 種類 | 主な対象作物 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| Valagro(Syngenta Biologicals) | MEGAFOL | 海藻抽出物+アミノ酸 | 果樹、野菜、穀物全般 | アスコフィラム・ノドサム由来。プロリン、トリプトファン、ビタミン、ベタインを含む。非生物的ストレス軽減と生長促進 |
| Valagro(Syngenta Biologicals) | MC CREAM | 植物由来活性成分 | 果樹、野菜 | ベタイン、アミノ酸、天然由来成長因子(サイトカイニン、オーキシン、ジベレリン)を高濃度に含有。光合成と代謝活性を促進 |
| Hello Nature(旧Italpollina) | Trainer | 植物由来タンパク質加水分解物 | 野菜、果樹全般 | 100%植物由来の酵素加水分解物。Plant Stimulating Peptides含有。乾燥・低温ストレスの軽減、根の発達促進 |
| Biolchim | Fylloton | 海藻抽出物+アミノ酸 | 果樹、野菜全般 | アスコフィラム・ノドサム抽出物と植物由来アミノ酸の複合製品。低温ストレス後の生育再開を促進 |
| Kelpak | Kelpak | 海藻抽出物 | 果樹、野菜、穀物 | エクロニア・マキシマ(巨大ケルプ)由来。独自抽出法で天然の生理活性物質を豊富に含有。根の発達を大幅に促進 |
| Acadian Plant Health | Stimplex | 海藻抽出物 | 幅広い作物 | アスコフィラム・ノドサム100%。60種以上の栄養素・アミノ酸・炭水化物を含有。サイトカイニン100 ppm相当の活性。葉面散布・土壌灌注・空中散布に対応 |
| Koppert Biological Systems | Trianum-G / Trianum-P | 微生物(トリコデルマ) | 野菜、花卉、果樹 | トリコデルマ・ハルジアナム T-22株。土壌病害(ピシウム、リゾクトニア、フザリウム等)の防除と根系発達促進の両機能 |
| FMC Corporation | Accudo | 微生物系 | 果樹、野菜 | 根の発達促進と抗菌耐性を兼備。2022年World BioProtection Awards最優秀バイオスティミュラント製品賞を受賞 |
| FMC Corporation | Seamac Rhizo | 海藻+アミノ酸 | 幅広い作物 | アミノ酸・栄養素・海藻の独自ブレンド。非生物的ストレス軽減に特化。欧州・アジア複数国で販売 |

日本で入手可能な製品
| 販売元 | 製品名 | 種類 | 原料・特徴 |
|---|---|---|---|
| サカタのタネ / アリスタ ライフサイエンス | GAXY(ギャクシー) | 海藻抽出物 | アスコフィラム・ノドサム由来。UPL社開発の海藻抽出物GA142を使用。低粘度でドローン散布にも対応。高温乾燥・塩害へのストレス耐性向上、花芽誘導・果実肥大の均一化 |
| ハイポネックスジャパン / Kimitec | Kimitec社製品群 | 各種 | 欧州最大のバイオテクノロジー研究センター「MAAVi Innovation Center」で開発。バイオコントロール・プラントパフォーマンス・プレ&プロバイオティクスの3分野にわたる製品ラインナップ |
| NORINA | フルボ酸資材 / ユートリシャN | 腐植酸系 / 微生物系 | 植物由来フルボ酸を含む腐植酸系製品および窒素固定菌を有効成分とする微生物資材 |
効果に関する研究データ
バイオスティミュラントの効果については、大規模なメタアナリシスをはじめ、数多くの学術論文が発表されています。
大規模メタアナリシスの結果
Lise et al.(2022)は、Frontiers in Plant Science 誌に発表されたメタアナリシスにおいて、世界中の180件の適格な研究から得られた1,000以上の圃場データペアを分析しました。主な結果は以下の通りです。
- 全カテゴリー平均の収量増加率: 17.9%
- 施用方法別では、土壌施用が最も高い効果(+28.8%)を示し、葉面散布と種子処理は同程度(約+17.0%)
- 乾燥気候での施用、野菜栽培での施用が最も高い効果を示した
- 有機物含量が低い土壌、中性でない土壌、塩類土壌、養分不足土壌、砂質土壌で効果が高い傾向
ただし、著者らはこの平均収量増加率は商業的な場面で期待できるものよりも過大評価の可能性があると指摘しています。非商業製品は商業製品よりも効果が7%高く、研究環境と実農業環境には差があることに注意が必要です。
作物別の効果
別のメタアナリシスでは、作物別の効果に大きな差があることが報告されています。
- 全体平均の成長・収量増加率: 9.3%
- 作物別ではトマト > トウモロコシ > コムギの順で効果が高い
また、Cataldo et al.(2024, Frontiers in Plant Science)のリン獲得に関するメタアナリシスでは、バイオエフェクター(微生物系バイオスティミュラントを含む)のトマトでの効果が最も顕著であったことが示されています。
カテゴリー別の研究エビデンス
腐植酸・フルボ酸: 腐植物質の施用により地上部・根部の乾物重が平均約22%増加(Canellas et al., 2015)。イネの圃場試験で葉面散布により平均7.4%の収量増(PMC, 2024)。
海藻抽出物: アスコフィラム・ノドサム抽出物は、草丈、茎径、葉面積、根長、クロロフィル含量、収量構成要素のすべてで改善効果。トマトの収量・品質向上も複数の研究で確認(Shukla et al., 2019, Frontiers in Plant Science)。
アミノ酸・タンパク質加水分解物: ベビーリーフレタスで収量50%増加、SPAD値11%向上(Colla et al., 2014)。1990年から2022年までの1,000以上の論文を分析したビブリオメトリック分析で、一貫した効果が確認されています(Francesca et al., 2024, Plants)。
菌根菌: トマトにおいて、褐藻抽出物とAMFの併用で収量・品質・抗酸化物質が最も高い値を示した(MDPI, 2024)。
キトサン: PR遺伝子の誘導、抗酸化酵素の活性化、ストレス代謝物質の産生促進など、防御機構の多面的な活性化が確認されています(Pirbalouti et al., 2023, PMC)。
注意点
バイオスティミュラントの効果は、バイオスティミュラントの種類、作物種、環境条件、土壌特性によって大きく変動します。特に圃場条件下での効果は変動が大きく、研究室レベルの結果がそのまま圃場に当てはまるとは限りません。効果を最大化するためには、自身の栽培条件に適した製品を選び、適切な施用方法と時期を検討することが重要です。
選び方のポイント
作物別の適性
メタアナリシスの結果が示すように、バイオスティミュラントの効果は作物によって大きく異なります。選択の際は以下を参考にしてください。
- 果菜類(トマト、ピーマン等): 海藻抽出物、タンパク質加水分解物、菌根菌の効果が特に高い傾向があります
- 葉菜類(レタス、ホウレンソウ等): アミノ酸・タンパク質加水分解物が収量・品質ともに改善効果を示しています
- 穀物(コムギ、イネ、トウモロコシ): 腐植酸・フルボ酸の土壌施用、珪酸の施用が効果的です
- 果樹: 海藻抽出物の葉面散布が果実品質の向上に寄与します
施用方法
バイオスティミュラントの施用方法は大きく3つに分類されます。メタアナリシスによる効果の比較は以下の通りです。
土壌施用: 最も高い収量増加効果(+28.8%)。根圏の微生物活性の向上や栄養素の可給性改善を通じて作用します。特に微生物系バイオスティミュラント(菌根菌、トリコデルマ等)は土壌施用が基本です。
葉面散布: 収量増加効果は約+17%。実際の農業現場では全使用量の約60%が葉面散布で使用されており、最も一般的な施用方法です。即効性があり、ストレス発生時の緊急対応にも適しています。
種子処理: 収量増加効果は約+17%。播種前に種子をコーティングまたは浸漬する方法で、初期生育の促進に効果的です。使用量が少なく済むため、コスト効率が高いというメリットがあります。
なお、1回の散布で+14.9%の増収効果が得られ、4回以上の散布でも16.6〜18.6%とわずかな上乗せにとどまることから、適切な施用回数とタイミングの設計が重要です。
コスト対効果の考え方
バイオスティミュラントの導入を検討する際は、以下の視点でコスト対効果を評価することをおすすめします。
- ストレス条件下での効果に注目: バイオスティミュラントは、良好な栽培条件よりも、乾燥・高温・塩害・養分不足などのストレス条件下で効果が顕著に現れる傾向があります。自身の栽培環境のストレス要因を把握した上で導入を検討しましょう
- 既存の肥培管理との相乗効果: バイオスティミュラントは肥料の代替ではなく、既存の施肥体系の効率を高めるものです。適切な施肥管理と組み合わせることで最大の効果を発揮します
- 小規模試験からの段階的導入: いきなり全面積に導入するのではなく、まず一部の圃場で対照区を設けて効果を検証し、データに基づいて導入面積を拡大するアプローチが賢明です
- 品質向上による付加価値: 収量増加だけでなく、果実の品質向上(糖度、色沢、保存性など)による単価アップも含めた総合的な投資対効果を評価しましょう
日本での規制と動向
日本バイオスティミュラント協議会の活動
日本バイオスティミュラント協議会は、2018年1月に肥料・農薬・土壌改良材などを取り扱う8社により設立されました。2025年時点で正会員35社、法人賛助会員120社にまで拡大しており、日本におけるバイオスティミュラント普及の中核的組織として活動しています。
協議会の主な活動内容は以下の通りです。
- バイオスティミュラント市場の拡大と発展の推進
- 国内外の技術・市場動向の調査分析と情報発信
- 一般向け講演会、会員向け勉強会の開催
- バイオスティミュラントの定義と意義の普及・定着活動
- 会員相互の意見交換・技術交流
肥料法との関係
現在の日本の法体系において、バイオスティミュラントは独立したカテゴリーとして法的に定義されていません。製品は、その成分や機能に応じて以下のいずれかの既存法規に基づいて販売されています。
- 肥料の品質の確保等に関する法律(肥料法): 栄養成分を含む製品は肥料として登録
- 農薬取締法: 病害虫防除効果を謳う場合は農薬として登録が必要
- 地力増進法: 土壌改良効果を持つ製品は土壌改良資材として
バイオスティミュラント機能と肥料成分を併せ持つ「機能性肥料」は、肥料法に基づいて適正に販売が行われています。しかし、純粋なバイオスティミュラント効果のみを持つ製品の規制枠組みは十分に整備されていないのが現状です。
農水省のガイドライン
農林水産省は2025年に「バイオスティミュラントの表示等に係るガイドライン」を公表しました。これは法的な規制ではなく業界への自主的な取り組みを促すものですが、日本におけるバイオスティミュラントの定義と適正な表示のあり方を示した重要な文書です。
また、2021年に策定された「みどりの食料システム戦略」では、バイオスティミュラントを「植物のストレス耐性等を高める技術」を活用した革新的作物保護技術として位置づけており、今後の研究開発と普及が国の政策としても推進されています。
今後の市場予測
日本のバイオスティミュラント市場は、2030年に約155百万ドル(約230億円)に達すると予測されており、2023年から2030年にかけて年平均成長率(CAGR)7.6%で成長する見通しです(Grand View Research)。また、矢野経済研究所の調査では、2030年度の国内市場規模が136億1,000万円に拡大すると予測されています。
世界市場は2025年の約45億ドルから2030年に約80億ドルへと成長が予測されており(MarketsandMarkets)、アジア太平洋地域も2025年の8.6億ドルから2030年に14億ドルへとCAGR 10.3%で拡大する見通しです。
まとめ
バイオスティミュラントは、肥料でも農薬でもない「第三の農業資材」として、持続可能な農業の実現に大きな可能性を秘めています。
メタアナリシスの結果が示す平均17.9%の収量増加効果は魅力的ですが、その効果はバイオスティミュラントの種類、作物、施用方法、環境条件によって大きく変動します。特に、乾燥・高温・塩害などのストレス条件下で効果が顕著であり、養分不足の土壌や有機物含量の低い土壌で高い効果を発揮する傾向があります。
日本市場では、EU規則や農水省ガイドラインの整備を背景に、今後ますますバイオスティミュラントの普及が進むと予想されます。導入を検討する際は、自身の栽培条件(作物、土壌、気象条件、ストレス要因)を十分に把握した上で、小規模な試験栽培からデータを蓄積し、段階的に導入面積を拡大していくアプローチが賢明です。
学術論文のエビデンスに基づいた適切な製品選択と施用設計により、バイオスティミュラントは栽培の質と収量を高める強力なツールとなるでしょう。
参考URL
- European Biostimulants Industry Council (EBIC) – Regulatory
- A Meta-Analysis of Biostimulant Yield Effectiveness in Field Trials – Frontiers in Plant Science (2022)
- Ascophyllum nodosum-Based Biostimulants: Sustainable Applications in Agriculture – Frontiers in Plant Science (2019)
- Biostimulant Action of Protein Hydrolysates: Unraveling Their Effects on Plant Physiology and Microbiome – Frontiers in Plant Science (2017)
- Humic and fulvic acids as biostimulants in horticulture – Scientia Horticulturae (2015)
- The Application of Arbuscular Mycorrhizal Fungi as Microbial Biostimulant – Plants (2023)
- Arbuscular Mycorrhizal Fungi as Biostimulant and Biocontrol Agents: A Review – Microorganisms (2024)
- Sustainable Agriculture Systems in Vegetable Production Using Chitin and Chitosan as Plant Biostimulants – Biomolecules (2021)
- Trichoderma and Bacillus multifunctional allies for plant growth and health – Frontiers in Microbiology (2024)
- Amino Acids Biostimulants and Protein Hydrolysates in Agricultural Sciences – Plants (2024)
- Understanding the Role of Humic Acids on Crop Performance and Soil Health – Frontiers in Agronomy (2022)
- 日本バイオスティミュラント協議会 公式サイト
- 農林水産省 バイオスティミュラントの表示等に係るガイドライン(案)
- 農林水産省 みどりの食料システム戦略
- Acadian Plant Health – 公式サイト
- Syngenta Biologicals – Biostimulants
- Hello Nature (旧Italpollina) – 公式サイト
- Koppert Biological Systems – Products
- FMC Corporation – Biologicals
- サカタのタネ – アリスタと「バイオスティミュラント」分野で協業(2024年6月)
- Biostimulants Market Report 2025-2030 – MarketsandMarkets
- Japan Biostimulants Market Size & Outlook, 2030 – Grand View Research